王国凋落編 その⑥
「クルシュ君の保護は王国の情報漏洩を防ぐためにも重要な事項だと思うのだけれど、ゴート君はそうは思っていないということね。理解したわ。とにかく、魔導院は国家危機の回避のためにクルシュ君の保護に動く。あなたの了承がなくともね」
「……クルシュ程度の人間が、国家に危機を与えられるとは思いませんがね」
「あら? 彼は国を裏切ったとして追放されたのでしょう? 彼が国に危機を及ぼさないのであれば、追放を取り消すべきではないのかしら?」
「裏切り行為そのものが罪なのですよ、ナクファ様。いつから魔導院は王の決定にまで口を出すようになったのですか?」
「……まあ良いわ。ところで随分とお酒臭いわよ、ゴート君」
「ナクファ様にこのようなコンディションでお会いすることは申し訳なく思っています。しかし、王国の救世主ともなると必然的に要人との付き合いも増えますからね。どうかご容赦を」
「身体を壊したら元も子もないわよ。お酒は程々にね」
「ありがたいお言葉ですね。よろしければ、今度ご一緒にいかがですか?」
「誘ってくれるのは嬉しいわ。でもお互い、しばらくそんな余裕はないと思うけれど」
これ以上会話を長引かせるのは無駄だとばかりにナクファは素っ気なくゴートをあしらい、部下に手で合図を送る。
すると横にいた部下はなにやら呪文を唱えて魔術を発動し、何もない空間から書類の束を取り出してテーブルに積み上げた。
その光景にゴートは眉をひそめる。
「ナクファ様、これは?」
「報告書よ」
「いったい何の?」
「魔石の性能に関する懐疑的な部分を纏めてある、と言えば伝わるかしら?」
「ああ……失礼、まさかとは思いましたが、そうですか……魔石に関して、魔導院は本職ではないはずですが」
「魔力を扱っている、という点については魔術も魔石も同じでしょう? 王国の未来のため、我々からも助言ができればと思ってね」
「なるほど。では後で眼を通させていただきます」
「できれば今、お願いしたいのだけれど」
「申し訳ありません。正午からは別の予定が入っていまして、もう出なければ」
「……そう、ならいいわ。書類を確認したらまた連絡して」
「はい。それでは今日のところは失礼いたします。行くぞコルナ」
「あ、はい…………えっと、資料はこちらで預からせて頂きますね」
先に出てしまったゴートを追いかけるべく、コルナは急いでテーブルの書類の束を一人で抱え、深く頭を下げて部屋を後にする。
(ゴートが遅れなかったらまだまだ時間はあったのに……うぅ、冷や汗が出てきた……)
部屋を後にした錬金術師二人の姿を見送り、ナクファは呟く。
「権力欲に呑まれた代償は大きいわよ、ゴート君」
余裕さえも感じさせる表情で、ナクファは机上の魔石を弄ぶ。
淡い青みを帯びたその魔石は、クルシュではなくゴートが特級錬金術師になってから量産された魔石だった。
「ゴート君のプライドを傷つけないよう、わざわざ書類まで準備してあげたのに、あの調子じゃ目を通すかも怪しいわね。まったく――直接見せた方が早かったかしら」
そう言ってナクファが右手に魔力を込めると、ピシっ、という金属音と共に魔石に亀裂が入る。
「まあ、持って一ヶ月ってところでしょうね。この程度で崩壊するようじゃ使い物にならないわ。私は、いくら魔力を込めても破壊できない――クルシュ君の魔石が好きだったのに」
ナクファは魔石を完全に粉々にし、ゆっくりと席を立つ。
大勢の魔術師を引き連れて部屋を出ようとする彼女は、部下たちへ端的に命令する。
「引き続き捜索は続行。見つけ次第私に知らせなさい」
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