王国凋落編 その⑤
(キレーな人……魔導院はそれぞれの人間が各自で魔法を習得するわけだから、当然あの人も魔術師なんだよね。ああいう人に教えてもらえるなら、私も魔術師を目指したいかも)
頭の中でそんなことを考えつつ、ゴートの後に続いてコルナも着席する。
部屋のドアが閉じられ、それ以上の入室者がいないことを確認すると、ナクファは不思議そうに首を傾げた。
「ゴート君、今日来てくれたのは二人だけなのかしら?」
「ええ、申し訳ありません。錬金術師は人付き合いが苦手な連中ばかりでして」
と、ゴートは飄々とした態度で答える。
それを横で聞いているコルナはもう生きた心地がしない。
ゴートは実際のところ、この場のことを大勢の人員を割くほど重要だとは考えていないのだから。
(あぁ、胃が口から飛び出ちゃいそう。もうホントに――ん、なんか私見られてる?)
コルナが心のドキドキをどうにか抑えようとしていると、不意にナクファと目が合った。
「初めましてよね? こんにちは、私はナクファ。魔導院の院長を任されているわ。今日はわざわざ出向いてくれてありがとう」
「い、いえ、そんな滅相もない……コ、コルナです。本日はどうぞよろしくお願いします……」
「ええ、よろしく」
と、ナクファは優しくコルナへ笑いかける。
(な、なんか違う意味でドキドキしてる今……)
「――さて、それじゃ始めましょうか」
ナクファとの挨拶を済ませたコルナが言いようのない感情に包まれていると、ナクファはその表情を魔導院の長としての真面目な物に切り替えた。
それを機に、場の空気は一気に緊張感を帯びる。
……ただ、ゴートだけはそれを感じ取っていないようだった。
「魔導院と特級錬金術師の会談というのは、私が院長になってからはまだこれが二回目なの。前任のクルシュ君は一度だけ出席してくれたのだけど、それ以降は何度打診しても会談に応じてくれることはなかったから」
「何か後ろめたいことがあったのでしょうね。現にあのようなザマだったわけですし」
「クルシュ君からの返答はいつも『仕事が忙しいから無理ですごめんなさい』だったわ」
「ふっ、要領の悪い人間だったということですよ」
「彼が王宮を追放されたという話は聞いているわ。ただ、仮に何かの罪を犯したとしても、あれだけ国のために貢献していたのであれば、多少の恩情があってもいいのではないかと、我々魔導院は考えています」
「大罪人を王都に置いておくのがふさわしいと?」
「いいえ、時間をかけて調査もせずに放り出すのは軽率だということよ」
「彼の追放をお決めになったのは国王陛下ですよ。陛下のご意思に背くおつもりですか?」
勝ち誇ったような顔で言うゴートに、ナクファは目を細める。
「特級錬金術師を務めたほどの人間を野放しにしておく方が危険ではなくて? 彼が他国に保護され、魔石の製法が流出するリスクを回避する必要はないとお考えなのかしら?」
「……っ!?」
ゴートは表情こそ変えなかったものの、その頬を一筋の汗が流れていくのを、コルナは見逃さなかった。
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