王国凋落編 その④
※
「もう、よりによってこんな日に遅刻するなんて……!」
と。
魔導院との会談当日。ゴートとコルナは会場である王宮の一室に向かうため、そこに続く長い廊下を歩いていた。
コルナはソワソワとした早足だが、ゴートの歩みに焦りの色はない。
「早く行かないと魔導院の人たち待ってるよ!」
「向こうが取り付けてきた会談だ。僕たちが先に到着して待っている方が無礼と言うものだろう」
(……いやいや、そんなわけないんだよね)
時間に遅れていることに対して悪びれる様子のないゴートを見て、コルナは心中でため息をつく。
彼女はいつも通り朝から研究室で仕事をしていたため、午前中に開かれる会談には間に合うはずだった。
しかしゴートは所定の時刻になっても現れず、それに焦ったコルナが連絡してみると、彼は前日のお酒のせいで惰眠の最中だった。
そんなゴートの準備が終わってから向かっているわけだが、当然、予定の開始時刻は過ぎてしまっている。
(魔石の量産を円滑に進めるために、利権を持ってる貴族たちの機嫌を取ってるんだ――とかなんとか言ってたけど、お酒を飲んで遊びまわってるようにしか見えないな……まあ、今は目の前のことに集中しないとね)
不安を募らせているコルナだったが、彼女は長い廊下を歩き終えてようやく会談場所に到着したため気持ちを切り替える。
部屋の前に立っていた衛兵が豪勢な両開きのドアを開くと、室内の長いテーブルには大勢の魔術師が座っていた。
その雰囲気にコルナは思わず気圧されてしまう。
(ぜ、絶対に二人で来るべきじゃなかった! 少なくとも私のハートはこの場に耐えられる自信がない!)
しかしそんなコルナと対照的に、ゴートは涼しい顔をして入室し、待っていた魔術師の中で最も上座に着座していた人物へと――頭を下げる。
「お待たせしました、ナクファ様。到着が遅れてしまい申し訳ありません」
「ゴート君……だったかしら? 時間の無い中、会談に応じてくれたこと、魔導院を代表して感謝するわ」
(あれがナクファ様……魔導院のトップ……)
美しく流れるような黒髪を冬の夜空のように長く伸ばし、藍色のローブで全身を包んでいる魔術師の女性――ナクファ。
彼女の全てを見通すような深い緋色の瞳は、二人の錬金術師を鮮明に映していた。
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