再び南へ その②
「金さえあればなあ……」
「金さえあればですねえ……」
「なんだお前たち、金が欲しいのか?」
ずっと黙っていたフィラが口を開く。
「欲しいけど? 何か悪いですか?」
「なんで逆ギレしとるんだ……。金が欲しいなら妾が人肌脱いでやるぞ」
「よせやい。ロリが脱いでも一銭にもなりゃしない」
「それは分かりませんよクルシュさん、世の中には小児性愛者という種族がいますから」
「そーゆー意味ではない! 妾が妖術でなんとかしてやろうと言っているのだ!」
「なるほど、妖術か! お前に頼るのには言い難い抵抗感を感じるが、ここは仕方ない。やってもらっても構わないよ」
「……もっと素直にものを頼めんのか、この男は……。まあ良い。見ていろ」
フィラは両手を宙にかざすと、口の中で何かを呟いた。
その瞬間、何もなかったはずの空中から金貨がばらばらと降って来た。
「金だあああああああっ!」
「さんを付けろよデコ助野郎ぉぉぉっ!」
「……いきなりどうしたんだキナ」
「わ、分かりません。なぜか言わなきゃいけないような気がして」
閑話休題。
「すげえぜフィラ!」
「ふっ、このくらい妾には他愛もないことよ。妾は偉大だからな」
「マジ助かる! 良かったな、これでインテレストを修理できるぞ!」
「ありがとうフィラちゃん!」
キナがフィラに抱き着き、頬ずりする。
まんざらでもない様子のフィラ。
「そういえばフィラ、これからどうするんだ?」
「この街に妾の居場所はない。お前たちに妾を連れていく権利をやるぞ」
「わぁ! やったーっ! フィラちゃんも一緒にエルフたちの楽園に行きましょうね!」
再び頬ずりを始めるキナ。
「や、やめろくすぐったい! エルフの楽園って何なのだ!?」
それは俺も知りたい。
しかしフィラも一緒となると、バイク一台でなんとかなるだろうか。
さっき出してもらった金貨で修理はしてもらうとしても、あの原付に3人乗りは……。
ただでさえ二人載っててブラックに近いグレーゾーンなんだけど……。
と、そのとき、聞きなれない声がした。
「店長、この方達です! 私を助けてくれたのは!」
顔を上げると、作業着姿の女の子とバイク屋の店主がいた。
「君たちだったのかー、ウチの優秀な店員を取り返してくれたのはー」
「……え? どういうことですか?」
俺は服に着いた土埃を払いながら立ち上がった。
「昨日【上流階級ギルド】のアジトが倒壊しただろー? あのおかげで、あそこに囚われてた人たちが解放されたんだー。おかげでウチの店員も帰って来たってわけだよー」
「どうもありがとうございました」
作業着の少女が俺に手を差しだした。
よく分からないままその手を握ると、かなりの強さで握り返された。
そうか、ドワーフ族の血を引いているとか言ってたな……。
「まあ、ついでのようなものですよ。特に感謝されるようなことは」
「いえ、あのままでは私は奴隷として売られていました。逃げることができたのはあなたたちのお陰です」
「は、はあ……そりゃどうも」
そうだったのか。
あのアジトには黒服以外にも人がいたのか。
見境なく爆破しちゃったけど―――無事逃げられたなら結果オーライというやつか。
「というわけで、お礼がしたくてねー。君たちのバイク、無料で修理してあげるよー。それからウチにあるもので良ければ、好きなものを持って行ってよー」
「え。いいんですか?」
「もちろんだよー。ほら、店に戻ろう」
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