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変態同士は惹かれあう その⑩


「……フッ、計算通りだな」


 俺は颯爽と立ち上がり言った。


 隣でキナが俺に怒鳴る。


「絶対うそでしょ! 死ぬかと思いましたよ!」

「だが生きていた。それこそが俺の計算が正しかった証拠だ」

「ほんとかなぁ……」

「そんな話はおいといて、とにかくお前ら! フィラを返してもらおうか!」


 俺の言葉に答えるように、黒服たちは一斉に銃器を取り出しこちらへ向けた。


「クルシュ、キナ! 何をしに来たんだ! 早く逃げ―――んんっ!」


 叫ぶフィラの口を、その隣に居た男が押さえた。


 オレンジ色の髪をした白いスーツの男―――。


「ひとまず落ち着こうよ。君がクルシュか」

「……そうだが、お前は?」

「ぼくはドブラ。この街を取り仕切っている者だ」


 こいつがドブラか。思っていたより若い。もしかすると俺よりも年下かもしれない。


「だとしたら言わせてもらうが、人身売買は法律違反だ。フィラを返してもらおう」

「じゃあ逆に訊くけど、君たちがそこの壁を壊して侵入して来たことは法律違反じゃないの?」

「う……」


 痛いところを突かれた。


 ヴィジュアル的に盛り上がる登場を意識しすぎたかもしれない。


「それからもうひとつ言っておく。別にぼくらは人身売買をしているわけじゃない。【人身売買ネットワーク】なんて呼ばれているけど、あんなのはただの言いがかりだよ」

「何? じゃあお前たち、フィラをどうするつもりなんだ」

「当然、高く買ってくれる顧客に売るんだよ」

「それが人身売買じゃないのか?」


 俺が言うと、ドブラは肩を震わせ始めた。


 かと思えば徐々にその震えは大きくなり、


「あーはっはっはっは!」


 ドブラの笑い声がアジト中に響き渡った。


「何がおかしいんだ?」

「ああ、ごめんごめん。でも怒らないでよ。だっておかしいだろ、人身売買っていうのは『ヒト』を売り買いすることなんだぜ? こいつらは『ヒト』でもなんでもないじゃないか」


 ドブラの足が動いた。


 次の瞬間、フィラがおぞましいうめき声をあげ、床を転がっていた。


 その口からは夥しい血が流れていた。


 茫然とした表情を浮かべるフィラは、その表情を微塵も変えないまま、静かに涙を流し始めた。


「お前……っ!」

「君の後ろにいるそいつ、エルフだろ?」

「―――!」


 ドブラが目を細める。


 その瞳にはゾッとするような冷たさが宿っていた。


「家畜を売り買いするのに反対だなんて変わったヒトもいるものだなあ。もしかして君、獣姦とかに興奮するタイプ?」

「この――っ!」


 俺は両手を強く握りしめた。


 それを見てドブラは慌てたように言う。


「あ、いや。気分を悪くしたなら謝るよ。価値観は人それぞれだから。ぼくがそれを否定するつもりはないってことは分かってくれるかな」

「……お前とは話しても無駄だってことが分かったよ!」


 上着のボタンを引きちぎり、胸に埋め込んでいた魔石に触れた。


 いつでも戦闘に入れるよう事前に準備していたものだ。


 魔石の出力を最大まで上げると、エネルギーと激しい痛みが全身を駆け抜けた。


 地面を蹴る。


 ドブラとの距離が一瞬で詰まる。


 俺の拳がドブラの顔面を捉える―――瞬間。


「さすが特級錬金術師だ。禁忌を超えたね」

「――――――――っ!!?」


 拳を振り抜く。


 ドブラの身体が吹き飛んだ。


 が、その顔は笑っているように見えた。


 壁に叩きつけられた後で床に落ちたドブラに、起き上がる気配は無かった。



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