変態同士は惹かれあう その⑧
諦めかけたそのとき、声を上げたのはフィラだった。
「待て、こいつらは何も関係ない。お前たちが欲しいのは妾だろう?」
「……最優先はお前だ。妖狐族の末裔、取引先がお怒りだ。さっさとこっちに来い」
「条件がある。妾のことは好きにしろ。だが、さっきも言った通りこいつらは関係ない。このまま逃がしてやれ」
「……おい、フィラ!」
耐えきれず俺は口を開いていた。
それじゃお前が犠牲になるだけじゃないか――そう言おうとして、フィラに睨まれた。
その瞳には冷たい強さが宿っていて、俺は反射的に口を噤んでいた。
「大丈夫だ、クルシュ。すべて妾の計画通りにいく」
「け……計画?」
「ああ。だから黙って見ていろ。……さあどうする、お前たち? 取引先とやらが怒っているのだろう? こいつらを見逃せば妾の身柄を引き渡すと言っているのだ。返事を聞こうか」
「……その条件を呑んでやろう。だが、先にお前を確保してからだ。こっちに来い、妖狐族の末裔」
フィラはそのまま黒服の傍まで歩き出した。
そしてフィラが完全に俺達の手が届かない位置まで移動した瞬間――黒服が呟く。
「撃て」
「そんな! 約束が違うじゃないかっ!」
フィラの悲痛な叫びが響く。
同時に黒服たちが引き金を引いた。
―――――が、そのときには既に魔石が俺の手の中にあった。
「俺の傍から離れるなよ、キナ!」
魔石に電気の属性を付与。
全方位に電撃を放出。
技名は――――仮にママラガンとでも呼んでおこう。
「ぐわあああああっ!」
バリバリバリ‼
電撃が弾丸を打ち落とし、黒服たちを黒焦げにした。
しかしフィラの姿はなかった。一体どこに……!?
「クルシュさん、あっちです!」
「何⁉」
見ればあの黒服がフィラを抱え、路地を曲がっていくところだった。
逃げ足の速いやつだ。
「追いかけましょう、クルシュさん!」
「ああ、分かってる!」
俺とキナは黒服を追って走ったが、路地に出たときには既に黒服を見失っていた。
「……逃げられてしまいましたね」
「そう落ち込むなよ、まだ手はある」
「え?」
キナの前に、俺は魔石を取り出した。
「フィラの身体に仕込んだ発信機が、この魔石に信号を送って来る。それを辿ればすぐに位置が分かる」
「発信機なんていつの間に?」
「さっきフィラの尻尾を触ってただろ。あのときだよ」
「言われてみれば確かに……ただ幼女にセクハラしてるだけだと思っていましたが、よく考えたらクルシュさんがそんなことするはずないですもんね! さすがクルシュさんです!」
「当たり前だ! 俺が幼女の尻尾をいやらしく撫でまわして己の形容し難い欲求を満たしていたなんて、そんなわけがないだろう」
「ですよねですよね、心配して損しちゃいました!」
「その通りだとも。俺を幼い子どもが無邪気に開けた胸元や他人の視線を気にしない露わな太腿に興味を示すような変態たちと一緒にしてもらったら困るなァ!」
「すみません、私クルシュさんにペドフィリアの癖があるんじゃないかってちょっと疑ってました」
「ばかだなー、俺はロリのほっぺを一生ぷにぷにしていたいとか老後は女の子限定の幼稚園を経営したいとか考えたことなんて一度もないんだから―――」
「クルシュさん」
「どうした?」
「まだ続けますか?」
「いや、この辺にしておこう。俺がまだ人の尊厳を保っていられるうちにな」