変態同士は惹かれあう その⑥
二人が人混みの中に紛れていくのに合わせるように黒服たちは徐々にこちらへ近づいて来て、ついには俺の前で立ち止まった。
「おいお前、誰の許可を得てここで商売してるんだ?」
「え? いやあ、俺はただの魔石売りですよ。許可だなんてそんな……」
「ここはドブラのアニキの縄張りだ。相応の対価ってものを払ってもらおうか」
「対価ですって? この身なりを見てくださいよ。そんなもの払えるような暮らしはしてないんです」
「じゃあ痛い目見てもらうしかねぇな」
男が勢いよく拳を振り下ろす。
俺は咄嗟に躱し――その反動で、サングラスが外れた。
男の表情が変わった。
「……お前のツラ、どこかで見たような……」
「気のせいでしょう。では、この辺で!」
並べていた魔石を抱え上げその場から逃げ出そうとして、男に襟元を掴まれた。
「待て! お前、昨日騒ぎになっていた男だな? ドブラのアニキから見つけ次第連れて来いって言われてンだよ。来てもらうおうか」
「ついてこいって言われてついていくやつがいると思うか?」
「何?」
「ちょっと眩しいぞ」
喋っている間に手元の魔石に発光の作用を付加し、さらにその明度を最大に設定する。
それを男の眼前で発動させた。
眩い光が辺りを包む。
俺の襟首を掴む男の手が緩んだので、身をよじりその手を振りほどき、今度こそ俺は逃げ出した。
若干目がチカチカしているが問題なし。このまま追ってから逃げきれれば尚のこと問題なし。
しかし、見つけ次第連れて来い、か……。そんなことになってるとは思わなかった。ドブラとかいう奴はよほど俺のことが気に入ったらしい。
となると、そのドブラがこの辺りの人身売買を取り仕切ってるってことか?
「クルシュさん、こっちです!」
細い路地の入口でキナが手招きしている。
俺は周囲を伺いながら、そちらへ走った。
「無事だったか。どうする? あの黒服たち、俺たちのことを探しているみたいなんだ」
「困りましたね……。インテレストも修理中ですし」
「最悪の場合はどこかの車を拝借してだな……。魔石を書き換えればロックも解除できるだろうし」
「良いアイデアですね。でも、もしかしてそれって犯罪じゃないですか?」
「もしかしなくても犯罪だ。とはいえ俺はマガイを殴って逃げて来たわけだからな。フツーに傷害罪に問われてもおかしくはないわけなんだが」
「とりあえずこれ以上罪を重ねない方向でいきましょう」
「そうだな。じゃあ、とりあえず今は身を隠すしかないか。インテレストを回収して出来るだけ早くこの街を出よう。……フィラ、敵の目を欺く妖術とか無いのか?」
「さっき妖術でビラを創ってやった。今日はそれで妖力切れだ」
「……まあ、期待はしてなかったけどさ」
「それはそれで傷つくんだが? 乙女心は繊細なんだが?」
めんどくせえ……。