新たな街へ その②
子供から老人までが詰め込まれたその檻は、そのままトラックに揺られ遠ざかって行った。
「人身売買ネットワークです」
キナが呟いた。
「あ――あれが? こんな白昼堂々と、か?」
「ニュルタム王国北部の経済は、主に人間以外の奴隷の売り買いで回っているんです」
「人間以外の奴隷……だけど、獣人族だろうとキナみたいなエルフ族だろうと、売買は認められていないはずだ」
「治外法権のようなものですよ。北部の支配者は、実質【上流階級ギルド】ですから」
「……初めて聞く名前だ、説明を頼む」
「人身売買ネットワークを取り仕切るマフィアのような組織です。北部にやってくる役人は、ほぼ全員が【上流階級ギルド】の息のかかった人物だそうですよ。だから、行政が実質的に機能していないんです」
「なるほどな。そんなところでよく今まで生活できたな、キナ。もっと早く逃げ出そうとは思わなかったのか?」
「……北部は王国の支配力が薄いので、私のような国籍も無いような者が紛れ込むにはちょうど良かったんです。その辺りは良し悪しですね」
「大体分かった。さあ、街まで行こう。耳はちゃんと隠しておいてくれ」
「りょーかいですっ!」
敬礼をしながら、キナが原付に跨った。
若干咳き込みながらもエンジンは始動した。
「よし、頼む!」
「……あの、クルシュさんっ!」
「なんだ!? どうした!? 何が起こった!?」
「バイクに乗ろうとするたびに私の胸を触るのは何なんですかっ⁉」
俺は自分の手を見た。
それは確かにキナの両胸に置かれていた。
より詳細に説明するならば、俺の右手はキナの右の胸に、俺の左手はキナの左の胸にあった。
どうりで柔らかいと思った。
「……いやでもこれは力学的にだね」
「あのですねー、世が世ならセクハラですよっ! 私は寛大で寛容なエルフだから許してあげるのであって、この世界の女の子がみんな私みたいだとは思わないでください!」
「言わせてもらうが俺だって人は選んでるつもりだ! 胸が揉めれば誰でもいいってわけじゃない!」
「それはそれで失礼ですっ! だから仮免も落ちちゃうんですよっ!」
「て、てめーそれは今関係ねーだろっ!」
「黙ってないと舌、噛みますよっ!」
キナは原付を強引に加速させ、野道をぶっ飛ばした。
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