新たな街へ その①
※※※
ぶるるる……プスプス。
「あれ? エンジンの調子がおかしいですね?」
「魔石のエネルギー循環が上手くいっていないのか? ちょっと見てみよう」
キナがバイクを路肩に止める。
辺りには草原が広がっていて、俺たちの他に人影はなかった。
のどかだねえ……。つい数日前まで極寒の大地に閉じ込められていたとは思えない。
魔石を取り外して組成を確認してみると、特に異常はなかった。
「ってことは、バイク自体の問題か」
「インテレストも疲れちゃったんでしょうか」
「ま、そんなとこだろ。かなりハードにやっちゃったから」
「インテレストをハードにやっちゃった……そんな、クルシュさんったら」
なんでそんなに恥ずかしそうなんだお前……。
俺は原付に性的な興奮を覚えるような性癖はないぞお前……。
「とにかく応急処置はしておこう。次の街に着いたらちゃんと見せないとな」
「産婦人科にですか?」
「俺が原付を孕ませたとでも? バイク屋に決まってるだろ。それで、次の街まであとどのくらいだっけ」
「そうですね、もう半日も走れば着くはずです」
「だったら応急処置で持ちそうだな。キナ、スパナと油とってくれる?」
「了解ですっ!」
キナは敬礼のポーズをしながら、荷物の中から道具を取り出し俺に手渡した。
エンジン部のカバーを取り外して中身を確かめてみる……うん、これならなんとかなる。
「暇なのでここで小噺をひとつ」
「いきなりどうしたんだ、キナ」
「隣の家に塀ができたらしいんですよ」
「へぇー」
「…………………」
キナが俺をじとっとした目で睨む。
「な、なんだよ」
「……オチを先に言うのやめてもらっていいですか?」
「え? あ、ああ……」
「小噺は終わりです」
「も、もう終わりなんだ……」
「と思いましたが、暇なのでもう一つ。経血大サービス」
「やめろやめろ、生理不順か? せめて出血大サービスにしてくれ」
「それはそれで大変ですよ。どちらにせよ私が貧血になったらどうするんですか」
「確か俺の血液型とキナの血液型は一緒だったはずだろ。輸血してもらうよ。たとえ俺が失血死しようともな」
「そういうことをサラっといえる辺りめっちゃカッコいいっすクルシュさん!」
「もしくはキナの心臓を魔石と交換して、血液の代わりに魔石のエネルギーで動くように改造してあげるから。こんな大手術は俺もやったことがない。記念すべき実験第一号だよ、キナ」
「うわー、嬉しいような嬉しくないような……とにかく、小噺第二弾です」
「よっ、待ってました」
「どうもどうも。えー、隣の家の屋根が壊れちゃったらしくて」
「やーねぇ」
「く、クルシュさん……っ! オチを先に言うのは……っ!」
「悪かったよ。さあ、修理完了だ。次の町まで――」
と、俺が立ち上がった時、丘の向こうからトラックがやってきた。
トラックの荷台には檻が設置されていた。
それが通り過ぎる様子を何気なく見ていた俺だったが、その檻の中にいたものを見て――言葉を失った。
檻の中にいたのは、人間――いや、違う。確かに見た目はヒトに近かったが、獣のような耳や尻尾がある。
人間じゃない、獣人族だ。