王国凋落編 その②
中から大臣の返事が聞こえるのを待って、二人は室内へと足を踏み入れる。
「おぉゴートか。よく来た、計画は順調そうで何よりだ」
「はい。それも全て大臣のお力添えあってこそです」
「いやなに、その話はまた二人の時にでもしようじゃないか。今日は可愛い付き添いがいるようだからね」
と、大臣は自慢のヒゲをいじりつつ、目線をコルナへと移す。
「あっ、えっと、こんにちは。よろしくね――じゃなかった。よろしくお願いします」
「うむ、ゴートが選んだからには優秀な人物なのであろう。王国のため、しっかり役目を果たすように」
「は、はい。頑張ります」
コルナがぎこちなく挨拶を済ませると、横に立っていたゴートは懐から青い玉のような魔石を取り出し、さっそく本題へ入った。
「大臣、こちらが例の物です」
「おぉ、素晴らしい。以前の物と遜色ない出来ではないか。見よこの輝きを、まるで宝石のようだ」
「ありがとうございます」
「流石はゴート。やはり無能のクルシュなど必要なかったのだな」
「……え?」
大臣の言葉を聞き、コルナは思わず口を挟む。
「クルシュが必要ないってどういうこと? ……あ、いや、どういうことですか?」
「黙っていろコルナ、後で説明してやる」
コルナの質問はゴートの低い声によって制された。
しぶしぶ口を噤むコルナ。
「大臣、こちらの試作品は既に最終調整を終えているためいつでも量産に入れます。あの男が空けた空白の期間を埋めるため迅速に仕上げました」
「ふっ、見上げた忠臣であるな。量産の暁には褒美を取らせよう」
「では、許可をいただけるということで?」
「当然だ。各所に話は通しておく。もう下がってよい」
「お忙しい中対応していただき光栄です。それでは失礼します」
ゴートは深々と頭を下げ、動揺しているコルナを連れて大臣の執務室を後にした。
廊下を歩き出すや否や、彼女からの質問が飛んでくる。
「ねぇ、大臣さんが言ってたクルシュが必要ないっていうのはどういうこと?」
「言葉の通りだ」
「ううん、必要ないわけないよ。さっきの魔石だって量産するつもりなんでしょ? だったら一度、実際に複製してみて性能が落ちないかを試してからじゃないと……」
「その必要はない。僕の計画は完璧だ」
「でも、すっごく重要な国の事なんだし、一回クルシュにも見せてみようよ、ね?」
「あいつはもう王宮にはいない」
「……え」
それを聞き、驚きのあまりコルナは足を止める。
「ど、そういうこと? クルシュ辞めちゃったの?」
「奴は魔石の量産を意図的に停滞させる大罪を犯してここを追放された。もう戻ってくることはない」
「大罪って……そんな……クルシュがそんなことするはずないじゃん! 何かの間違いだよ!」
「納得するかどうかはお前の勝手だが、いずれ僕の魔石が量産されれば分かることだ。無駄話をしている暇はない。行くぞ」
「…………うん」
早足で歩き去っていくゴートに置いて行かれないよう、コルナは後を追う。
釈然としない気持ちを心に押し込め、今は王宮のために尽くすことにした。
(そんなはずない。皆のために一番頑張ってたのはクルシュだもん。絶対に何かイレギュラーな事があったんだ……でもどうすれば……)
コルナは胸中に生じた黒い靄のような不安を、いつまでも振り払うことはできなかった。