格の違いってやつを その⑥
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「よし、出来たぞ。これで完成だ」
魔術魔石の組成を変更し、バイクの動力源に。
魔石は特に問題もなく適合した。
「荷物の準備も……オッケーですっ!」
リュックサックひとつにまとまった荷物を、キナは軽々と抱える。
「じゃあ、行くか」
俺はバイクに跨った。
キナのバイク――正式名称を原動機付自転車という。
「クルシュさん、荷物はないんですか?」
「首都を出る時に全部没収された。ぜーんぶ。持っていくようなものは何もないよ。なーんにも」
「それは大変でしたね……。あと、もう一つ教えてください」
「なんだ?」
「クルシュさん、バイク運転できるんですか?」
「特級錬金術師に不可能はない。安心して後ろに乗ってろ」
俺はキナに向かって親指を上に立てた。
「さすがクルシュさん! では行きましょう、南の楽園へ!」
「おう!」
左足でギアを一速に入れ、右手でアクセルを思いきり開いた。
エンジンがけたたましい音を上げて、バイクはそのまま勢いよく―――雪上を滑りながら横転し、俺たちは空中に投げ出された。
「きゃああああっっ!?」
キナが叫びながら雪の山に突っ込む。
俺はうつ伏せの状態で降り積もった雪に叩きつけられた。
「……やはり無理か。そうじゃないかと思ってたけど」
「特級錬金術師に不可能はないんじゃなかったんですかぁ!?」
「いや無理なものは無理だ。錬金術師を何だと思ってるんだ」
「……さっき自分で言ってたのに……」
「いや俺、免許取りにいったときに死ぬほど追加教習受けてんだよね。それで結局仮免落ちちゃって、そのまま自動車学校は中退だよ。向いてないんだよな、運転。あはははは」
「笑ってる場合じゃないですよ! 良いです良いです、私が運転代わります」
「すまん、頼む」
二人でバイクを起こしながら、再度エンジンをかけ直す。
運転席にはキナ、そして後部座席には俺。
「今度こそ行きますよ、南の楽園へ!」
「おう!」
「…………」
「どうした、発進しないのか?」
「……あのっ、クルシュさんっ!」
「なんだ何があった? 忘れ物か? それとも追手か?」
「違いますよっ! て、手の位置が――」
……………。
キナに言われ、改めて自分の手を確認する。
俺の両手はキナの両胸をしっかりホールドする位置にあった。
「え、何か問題が?」
「そ……そんなに強くしないでください、は、恥ずかしい、です……」
ヘルメットから覗くキナの耳が赤くなっていた。
何がマズいんだろう……力学的にはこの位置が一番安定するはずなんだけど……。
「まあ、分かったよ。じゃあこの辺りならどうだ?」
「ひゃっ!? そ、それは下すぎますッ!」
「えぇ……? だったらこの辺で」
「そ、そのくらいなら、大丈夫です……」
結局俺の両手はキナの腰に回されることとなった。
「よし。じゃあ今度こそ出発だ、キナ」
「はい!」
エンジンが小気味良い音を立て、バイクは進み始めた。
太陽の光が雪に反射して輝いているように見えた。
「すごい安定感……クルシュさんが魔石を改良してくれたおかげですね! エンジンも良い感じです!」
「良い音だろ? 余裕の音だ、馬力が違いますよ」
「ええ。でも、一番気に入ってるのは……」
「何だ?」
一瞬口ごもるようにして、キナは言った。
「後ろにクルシュさんが乗ってくださっているってことです」
バイクは雪原を駆け抜けていく。
これから先、何が俺たちを待っているのか――それはまだ、分からなかった 。
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