格の違いってやつを その④
「避けたか。さすがは元特級錬金術師ってことかぁ?」
「炎熱魔術の――魔石か」
マガイの手元で輝いているのは紅色の魔石だった。
念じるだけで魔術を発動できる、魔術魔石の一種だ。
色が澄んでいるところを見るに、かなり上等なものだ。
「形勢逆転だなぁクルシュ! 焼死体になりたくなけりゃ、その制御用魔石をこっちに渡しな!」
「…………」
左腕に痛みがあった。
さっきの攻撃で少し火傷してしまったらしい。
―――さて困った。
まさか魔術魔石なんてものまで持っているとは思わなかった。
本格的な戦闘になるなんて予想してなかったし。
もうハッタリだけじゃ通用しそうにないな。
キナのバイクから引っこ抜いて来たこの魔石じゃ、いくら組成を変更してもあの魔術魔石には対抗できない。
詰んだ――か?
顔はマガイに向けたまま、視線だけで室内の様子を伺う。
マガイは勝ち誇った表情を浮かべている――キナが不安そうな目で俺を見ている――床には炎熱魔法で焼けた跡がある――使えそうなものは、無い。
だが、あるとすれば。
「自分自身の身体か……」
「さあクルシュ、さっさとその魔石を渡してもらおうか!」
マガイが魔術魔石を俺に向ける。
同時に、キナが声にならない悲鳴を上げた。
「……キナ、心配しなくていい。一瞬で終わるからそこを動くな」
「ああそうだ一瞬で終わるさ。お前が消し炭になってな!」
「さぁ――それはどうかな」
俺はバイクの魔石を手のひらの上に乗せた。
魔石の構成を脳内で参照、その組成を――――書き換える。
……全設定を初期化。動力パターンはそのままにシナプス配線の対象を変更。システムの制御権限を大脳新皮質のコントロール下へ委譲。神経野に魔石を直結。伝達信号とアリアドネ・ネットを運動ルーチンに接続、全システムに対しA10神経を介した有線接続状態に移行。
「な……っ⁉」
マガイが呻く。
俺の手の上の魔石は光を放ちながら、その形を球体から正方形、円錐、様々な形に変え、そして最終的には先程より二回りほども小さい、指先程度の大きさの球体へと変形した。
「魔石の動力伝達先を無機物から―――有機物へと、変更」
俺は上着を引きちぎり胸部を露出させた。
ちょうど心臓のある位置――そこには、孔が開いていた。それも、魔石がぴったり入るサイズの。
「な――なんだ、その孔は……っ!?」
「禁忌とされる人体と魔石の融合。格の違いってやつを見せてやるよ」
俺は自分の胸に空いた孔に、組成を変更した魔石を埋め込んだ。
内臓がひっくり返るような痛みが全身を駆け抜けた。
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