格の違いってやつを その③
「クルシュ……てめぇ一体なんのつもりだ? 誰の許可を得てこの部屋に入って来たんだ」
「異常が起これば報告するのが義務だろう。それより答えてもらおうか、キナに何をするつもりなんだ?」
キナは口に布をかまされていて、さっきから何も喋れないでいる。
「こいつはエルフだ。売れば一生遊んで暮らせる金が手に入る。こんなクソみてえな採掘場ともおさらばだ」
「人身売買は法律上禁止されているが?」
「エルフは人間じゃねえ。売ろうが煮ろうが焼こうが殺そうが、捕まえたやつの勝手だろうが。薄汚ねぇ下働きのガキだと思ってたが、こいつはとんだお宝が手に入ったもんだぜ」
「つまりお前はキナを売るつもりなんだな?」
「当然だろ。既に取引先は見つかってる。今日中には引き取りに来るそうだぜ。数億の資産と引き換えにな。なんならこの採掘場、お前に譲ってやろうか?」
「……魅力的な提案だが断るよ。それより取引をしよう」
「取引? お前みてぇな落ちこぼれと何の取引をしようってんだ?」
「キナを譲ってもらう」
俺が言うと、マガイは大きな声で笑い始めた。
「ハハハハ、バカ言っちゃいけねえ。こいつは俺の物だよ。お前も金に目が眩んだか? 安心しろよ、少しくらいは分け前をくれてやる。……ああ、そうか。思い出した。お前、このガキを随分可愛がってたようだったな。さてはお前、もっと早く気づいてたんじゃねえのか、こいつがエルフだってことを」
「……!」
「だとしたら残念だったな、俺が先にいただいちまったよ。いやいや、やはり元特級錬金術師様は油断ならねえなあ。エルフのガキを手なずけて何をさせようとしてたんだぁ? 汚らわしいねぇ」
マガイはニヤニヤと笑いながら俺を見る。
その瞳は泥水のように濁っていた。
「話は途中だ。これを見ろ、マガイ」
俺はコートのポケットから魔石を取り出しマガイに見せた。
「魔石……? そいつがどうした」
「この採掘場すべての機械は、この魔石の制御下にある」
嘘だ。
「……はあ?」
「さっき警報が鳴っただろう? あれは俺がこの魔石を使って機械に異常を起こし、鳴らしたものだ」
一応注釈をつけておく。当然だがこの台詞も嘘だ。
「何が言いたい?」
「その気になれば俺は、採掘場ごと爆破できるってことだよ。この魔石ですべての機械を暴走させてな」
こちらにも一応注釈をつけておく。当然だがこの台詞も嘘だ。
が、マガイにはそれが分かるわけもない。彼の顔が引きつっていくのが分かった。
「取引内容を聞こうか」
「キナを俺に渡せ。でなければ、この採掘場ごとすべてを爆破する」
「そんなことをすればお前も死ぬぞ」
「構わない。どうせ俺は王宮を追放された身だ。どこで死んだって一緒だろう」
「そうかそうか。……なら、勝手に死ね」
「――っ!」
キナが布を嚙まされたまま言葉にならない声を叫んだ。
マガイの手元で何かが動いた。
俺は咄嗟に横に転がり――超高温の何かが俺のすぐ傍を通り過ぎていくのが分かった。
コートが一瞬で消し炭になり、壁ごとドアが焼失した。
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