突撃! 自室のエルフさん! その②
「あの、もしよかったら私に魔石の扱い方を教えていただけませんか?」
「俺がキナに? まあ別にいいけど……意外と大変らしいぞ、周りの声を聞く限り」
「うわぁ、天才っぽい言い方です」
「ぽいじゃなくてそうなの。なんてったって国に一人しかいない特級錬金術師だからな」
「『元』ですけどね」
「…………」
「……怒りました?」
キナは不安そうに顔を覗き込んでくる。
別に少しも怒ってはいないが、仮に怒りを抱いていたとしても今の仕草で全て吹っ飛ぶだろう。
「よし分かった。これから時間があるときに少しずつ教えるよ」
「いいんですか? ありがとうございます! あ、それならクルシュさんもここに住めばいいじゃないですか。毎日一緒に出勤しましょうよ。ね?」
「なるほど、キナと一緒に住めば寒さも凌げるし魔石について教える時間もできるしで一石二鳥というわけだな」
「そうそう、その通りですよ」
「だが断る」
「そ、即答ですか!? やっぱり怒ってるんですか!?」
「いや―――ただ、毎日バイクで通勤する方が死ぬ可能性が高いなと思って」
というかそもそも、一人暮らしの女の子の家に上がり込むなんて芸当、俺にはとても出来ない。
まあ――心が揺れなかったと言えば嘘になるけどね……。
※
ここはとある魔石用の貴金属採掘場。その責任者であるマガイは、自身の心情をそのまま反映したような険しい面持ちで第一管理室に座っていた。
使っている椅子は高価な物だ。座り心地が悪いわけではない。
部屋の空調も万全。外がどれだけ寒かろうと関係ない。
だが満たされない。
こんな現状では、彼は満足できないのだ。
「くそっ……俺はいつまでもこんな所にいるわけには……」
彼が配属されているこの採掘場は国の中で最北端の辺境に位置する。
当然、出世コースとは呼べない場所だ。
その事実が、貪欲な精神を持つ彼には耐えられなかった。
「もっと金がほしい。もっと――」
コンコン、と。
マガイの邪悪な思考はドアをノックする音に遮られた。
「……入れ」
「失礼します。報告に参りました」
部屋に入って来たのは銀髪の少女。マガイが彼女に与えたのは、連行された錬金術師を監視する仕事
だった。
「本日の進捗は、昨日と同様、採掘機械のメンテナンスを行いました。あと4日もあれば完了します。それから、クルシュさんの健康状態に関してですが、あまり芳しくはなく、予算を第二管理室に割いてはいかがかと思い、案をいくつか――」
「…………」
マガイは彼女の報告を聞き流す。
あの錬金術師に関しては、国から「そこから逃がすな」としか伝えられていないし、それ以上のことをやる気もなかった。
「――以上です。マガイさん、どうでしょうか?」
「……ん? ああ……わかった。考えておく。もう仕事に戻っていい」
「はい。それでは私はこれで――うわわっ」
部屋を出ようと踵を返したキナは、歩き慣れない絨毯に躓いて体勢を崩してしまった。 しかし持ち前の身体能力でバランスを取り、どうにか転ばずに済んだ。
「失礼しました。それではまた明日、同じ時刻に伺います」
と、静かにドアを閉めて出ていくキナ。
その直後。
マガイは自身の目を疑った。
転びかけたキナの銀髪が宙を舞った際、長い耳が生えているのが見えたのだ。
マガイは頭の中で、自身の知る様々な種族の特徴を彼女と照らし合わせる。
「耳が長い。だがオーガみたいな角は無い。ドワーフも長耳だがあいつの身長はそこまで低くねぇ……ってことは、ありゃまさかエルフか?」
だとしたら……。
ようやく俺にも運が巡ってきたということか。とマガイは口元を歪ませる。
「ひひ、あいつはかなりの上玉だ。出世なんて必要ないくらいの金が手に入るぞ……!」
※
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