突撃! 自室のエルフさん! その①
「す、すごいです! インテレストが生まれ変わりました!」
キナは嬉しさを抑えきれない様子でインテレストの周りをぴょんぴょんと飛び跳ねている。
すごくかわいい。
……じゃなくて。
「これはあくまでも急場凌ぎだ。もっと良い魔石に換装しないといずれ壊れるぞ」
「分かりました。クルシュさん、本当にありがとうございます!」
「いいんだよ、それじゃあまた明日――」
そう言いつつ立ち去ろうとした俺の腕を、キナはすかさず掴む。
「待ってください。まだクルシュさんの体調が悪いのは変わってないですよ? 身体を暖めないと危険です」
「いや、だって……キナは今からアレで帰るんだよな?」
「はい、そうですけど……何か?」
「アレって二人乗りオッケーなヤツ?」
「うーんとですね……」
キナは少しだけ考える素振りをしたあと、にこやかな笑顔を浮かべて言った。
「エルフが一匹に人間が一人。決して二人ではないので問題ないです♡」
※
問題ない―――わけがない。
超高速で雪道を走行するバイクに人間とエルフが同時に乗るのは危険極まりなかった。
カーブのときはタイヤがスリップするし、ブレーキは効かないし、どうして無事にキナの家に辿り着けたのか分からない。
せめて雪道用のタイヤに換えておいてくれ……!
まあ、何はともあれ生きていてよかった。それだけが救いだ。
キナの家で暖を取らせてもらいながら、俺はそんなことを考えていた。
この体の震えは寒さのせいだろうか。それとも生命の危機を感じた恐怖によるものだろうか。
キナは根が優しくて気遣いができる分、自分が「良い」と判断した物事の是非を疑うことがない。
要するに、ちょっとばかり天然さんということだ。
「クルシュさん、さっきよりも顔が青ざめてます……大丈夫ですか?」
「原因が分かってるから大丈夫だ……」
「……? それならいいんですけど……はいこれ、お茶を淹れたのでよかったら」
「ああ、ありがとう」
キナに差し出されたお茶を飲んで一息ついたことで、部屋を見渡せるくらいには体力が回復してきた。
キナの住んでいる部屋は非常にシンプルで、必要最低限の家具しか置かれていない。
どれもこれもグレードの高い物とは言えず、質素倹約を地で行くような部屋だ。
女の子の一人暮らしってこんなもんなのかな。
もっとヒラヒラフリフリの家具ばかりだと思っていたけど―――いや、これは俺の単なる妄想に過ぎない。
「あの、そうやって真剣に部屋を観察されると恥ずかしいんですけど」
「え? ああ、悪い。あまり気にしないでくれ」
「下着とかは干してませんからね?」
「俺の名誉のために言っておくけど、絶対にそういうのを探してんじゃないからな」
「本当ですかぁ? じゃあ何がそんなに気になってたんですか?」
「えっと、俺が王宮にある本を読んでで知ってる限りだと、エルフって魔法の扱いに長けてて、魔石がなくても快適に暮らせてた――っていうイメージがあるんだけど」
「そうですね、みんな魔法は得意ですよ。お母さんやお姉ちゃんは一族の中でもかなり優秀だと思います。でも、私には魔術の才能があまり無いので、クルシュさんたち人間が作った魔石に助けられてます」
「そうか。それはよかった」
王宮にいて働き詰めだった頃は、自動的に集積される使用データだけしか届かなかったけど、こうして直接感謝の声を聞くと、なんだか救われた気分になる。
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