北の工場から その⑦
「このままじゃ凍傷になっちゃいます。ウチに来てください」
「ダメだ。脱走したのがバレたらキナにも迷惑がかかってしまう」
「マガイさん達がクルシュさんの様子を見に来るのは、どうせお昼を過ぎてからでしょう? 朝早くに戻っておけばバレないです。ちょっと待っててくださいね。相棒を連れてきますから」
「……相棒?」
キナは第二管理室のある建物の裏に回り、とある乗り物を押して戻ってきた。
細い機体の前後に車輪が一つずつ付いており、全体像は彼女の耳のような流線型のフォルムをしている。
「魔導二輪って言うんですかね、人間の方々が作った乗り物なんですけど」
「俺の知ってる限りだとバイクって呼んでるやつが多いな」
魔石を動力として高速走行するこの乗り物は、四輪の魔導車よりも安価なため幅広く普及しており、王都でも走っているのを見たことがある。
「さぁ乗ってください。家までひとっ飛びですよ!」
そう言って彼女がハンドルを回した瞬間、バイクは不穏な音を立ててエンジンを停止させ、おまけに黒煙まで吐いた。
「……えっと、相棒の調子が悪いみたいだけど」
「ど、どうしたんですかインテレスト!? まずいです、このままインテレストが動かないと二人とも帰れません!」
「だったらキナも第二管理室に泊まるといい」
「やぁぁ、二人して氷漬けは勘弁してほしいですぅ……!」
「冗談だって。ちょっと見せてみろ」
俺はキナのバイク(インテレストというらしい)の前にしゃがみこみ、その動力源を探す。
「クルシュさん、な、直せるんですか?」
「原因が魔石にあればな。機械には詳しくないからそれ以外だったらアウトだ」
しかしどうやらキナは運が良かったようで、動力源から取り出した魔石は過剰機動でショートしていた。
積まれていたのは【Cランク】の安物で、この性能の魔石で動くのはせいぜい小型の機械が良いとこだろう。
なのに。
「キナの相棒はどうしてこんな貧弱な魔石で走ってるんだ?」
「貧弱なんですか? 私、そういうのにはあまり詳しくないので分からないんですけど……乗せ換えたりはしてません。お店で買った時にコレが付いてきました」
「良くない店に当たったんだな……まあ、走行中にぶっ壊れないだけマシか」
悪徳な店に騙されたキナを気の毒に思いつつ、俺は魔石のストラクチャーを書き換えていく。
バイクのエンジンなら、とにかくエネルギーを大量に生み出せるようにしておこう。余計な機能をいくつか切って、そのスペースを活用すればいい。
「これでよし、と」
特級錬金術師(元)の手によって生まれ変わった魔石を動力源に積みなおして再起動をかけると、バイクはまるで雄叫びのような機動音を発した。
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