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「どうしてさあ、妹はいつも悪者なの?」

「まあ、大概ワガママって印象があるからじゃ?」

「才色兼備の姉、それをちやほやする両親に囲まれたらぐれるのは当然じゃないの」

「だが、やってることは酷い。姉がかわいそすぎるだろ」


 いわゆる「婚約破棄」に「ざまあ」もの溢れたテンプレの作品を読み終わり、エリーはぶつぶつ文句を垂れる。それに律儀に答えているのは彼女の夫野呂島ケンだ。

 夫婦揃ってオンライン小説や漫画を愛好しており、寝る前はこうして読書に励む。


「そりゃ、自業自得なんだけど。こう闇落ちする前に誰かが助けてあげたらなあっていつも思うのよ」

「物語なんだから、悪者がいないと面白みがないだろう?で、別に最後死ぬパターンだけじゃないし、救いもあるだろう。作品によっては」

「うん。だけど、遅いのよ!」

「まあ、エリは妹だし、現に優秀なお姉さんがいるから、そう思うんだろうな」


 諭されるように言われエリは口を噤んだが、はっと気がついたように再び口を開く。


「私は姉ちゃんに意地悪なんてしてないわよ!面白くなかったけど、諦めたんだから。だからとっとと家を出た」

「まあ、正解だっただろうな。おかげで俺はエリと出会えたわけだし」

「な、何言って」

「俺のお嫁さんになってくれてありがとう」


 ケンに真顔で言われ、エリは恥ずかしくなって俯く。


 勉強も苦手だったエリは、高校卒業後に隣町で就職した。社宅ありの工場で働き始めケンに出会った。ケンも同様に高卒で、意気投合した二人は同棲を経てお互いが20歳を越えて結婚。そして一年後の今に至る。

 エリは家庭で自分が孤立していたこともあり、子供を育てる自信がなかった。また二人とも若いため、子どもを作る予定は今のところはない。


「この子も、ケンみたいな人に会えたら幸せになったのになあ」


 エリは先ほど読んだ物語の妹を思い出して呟く。

 姉を虐げその婚約者の第二王子を奪った妹。最後は、王太子と婚約した姉に盛大なざまあとくらって断罪。家は断絶。

 妹が姉を虐げ始めたのは12歳。その時に誰かが彼女の側にいてあげ、味方でいれば道を誤ることはなかったのはず。

 エリは物語にすぎないのに、断罪された妹に対して憐憫の思いを抱いていた。


「エリ。そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど」


 ケンがそう言いかけた時、突然彼女のパソコンが光り出した。


「なにこれ!」

「爆発?離れろ!」


『あなたの願いを叶えてあげましょう』


 パニックに陥る二人の前に、半透明の女性が現れた。

 それはまさに女神様。

 波打つ金色の髪に青い瞳。着ている服もギリシャの神話の神様と同じものだ。


「え?なになに!これ異世界転移?」

「うほっつ」

『喜んでもらえて光栄です。エリ。あなたの願いを叶えてあげましょう。あなたの夫ケンにステラを救ってもらいましょう』

 

ステラとは、先ほどエリが読んでいたオンライン小説の物語の中の悪役の妹の名前だ。


「え、あの」

「俺が?」

『さあ、ケン。くるのです』


 突然女神がケンの腕を掴むので、エリは思わずそれを阻止する。


「そういう意味じゃないんです!」

『あなたは「この子も、ケンみたいな人に会えたら幸せになったのになあ」と言いましたよね。だから私はその願いを叶えるためにきました」

「言いましたけど。ケンみたいな人って、ケン自身じゃないです!」

『そんな屁理屈は言わないでちょうだい』

「屁理屈?え?」

『さあ、ケン。行きますよ。ステラを救いますよ』

「まった、まった!」


 ケンは手を振り解こうとするが、さすが女神かその手はびくともしない。


「女神様!ケンを連れて行かないで!」

『あなたの願いですよね?』

「そうですけど、違うんです!」

『何をごちゃごちゃと。さあ、ケン!』

「離せ、この野郎。行きたくないんだって!」

『野郎?この女神に対してなんて口の利き方を!』

「女神様。私も一緒に連れて行ってください!」

「はあ?何言って」

『まあ、いいでしょう。一人も二人も同じことです』

「おい、エリ!何言ってるんだよ!」

「だってこんな経験めったにないよ。異世界転移だよ。きっと何かスキルとかももらえるんだよ」

『………』

「あれ?女神様が無反応?」

「おいおい、何にもないのに異世界転移かよ!」

『あなた方の身分は保証しましょう。ステラを救うので、彼女の側付きにします』

「身分だけ?え?やっぱりやめてください」

『もう遅い』

「え?」

「あ?」


 エリとケンはその声を最後に、女神から放たれた光と一体化して、パソコンの画面に吸い込まれてしまった。







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