第九話:三島 太陽が話 ……誤記じゃないよ?
『これで文化祭は終了、一旦解散 19:30からキャンプファイアーを行います っても学校で火を使うなんか許可出るはずがないから本来の意図からは外れるがこっちで“代わり”を用意した
参加者はだいたいその辺の時間でグランドに集まれ 以上 生徒会からでした』
このやる気の無さそうな声はさっきの西村さんだな。
「……別に行かなくていいよな」
帰宅する用意をしながら僕は思う。もう一回学校まで来るのめんどくさいし。
そんなことを考えてたらトントンっ と二度軽く肩を叩かれた。振り返ると、頬に指が突き刺さる。プニっ、て言うかグニっ、である。
「一応、言っとくけど」
僕が何か言うよりも早く普段の調子を取り戻したらしき暴君の口調で、
「来なかったら許さないから」
高藤 美咲は微笑んだ。後ろに鬼が見える。ト○コかこいつは。そのうち釘パンチとか撃ちそうだ。どうでもいいけどあれって二〇の極みそっく (ry
ところで行かなかったら何されるんだろ。
正直、困った。僕は夜月に餌…… じゃなかったご飯をあげる必要がある。あいつ炊事の能力が一切ないからな。日和の洗剤事件の二の舞と化す恐れがあるのだ。
「……仕方ない」
僕は父親の携帯に電話をかけた。
「白夜 取り引きをしよう」
……話は纏まった。まあ帰ったら夜月と日和を連れて外食行ってくれないか? ってだけなんだけどね。白夜はただ単に“取り引き”だとかそういう響きの言葉が好きなだけで単語自体に別に他意はなかったりする。
僕はとりあえず一旦帰宅した。夜月はまだ帰っていないらしい。メールを入れておく。僕の電波が送受信出来る相手は限られているので勿論携帯電話を使ってである。……これ説明の必要あったのかな?
それから簡単に汗を拭う。自転車通学なので割りと疲れる。ソファに腰掛ける。
すると唐突に眠気に襲われた。
「ちょっといろいろ有りすぎたかな……」
若干だけど不眠症の気があるしなぁ、僕。疲れて寝れたら儲け物……
「って訳にもいかないか」
寝過ごしそうだ。そうすれば高藤を待たせることになる。そろそろ本格的にキラーT細胞に捕食されかねない。僕は20時の更新を予告して23時になってようやく気付くどこかのバカ作者とは違うんだ。
アイスコーヒーを入れる。紙パックの微糖のやつ。それから牛乳を適量。濁りのある茶色の液体が喉を滑る。
「……まずいなぁ」
これに関しては“彼”と同意見だ。
カフェインの摂取、つまりは眠気覚ましにはほんとは緑茶か紅茶がいいらしいけど、生憎どちらもない。紅茶、嫌いだしね。缶コーヒーは好きだから近くに自販機でもあればいいんだけどそれもない。
時計を見る。午後の4時過ぎ。あと3時間と少しか…… 退屈凌ぎにテレビのスイッチを入れる。時間帯が悪いのかテレビ局が悪いのか特に興味を引かれるモノはない。
退屈を消費するために僕はやむを得ず思考を単独で旅行に出してみた。過去、という名前の。
……まあ実際、特筆すべき過去は特になかったりするんだけどね。三島 白夜と黄空 日和の元に長男として産まれて、特別なことと言えば人の死ぬ瞬間をいままでで2度見たぐらいかな。
1人目は僕が小学生の頃、ある遊園地に家族で行った際に通り魔に刺された。たしか中、高生ぐらいの女の人。隣に居た同年代ぐらいの男の子が何かを叫びながら刺したやつをボッコボコにしていた。たしか霧なんとか、って呼ばれてた人。隣で別の女の子が立ち尽くしてたな…… 魂かなんかが抜け落ちた虚ろな表情をしていた、あれは忘れ難い。
僕は漠然と人間の中身は真っ赤なんだなぁと、返り血を浴びた刺した人と殴ってる人を見て思った。じっと見てたら気づいた夜月に目を塞がれたけど。
翌日のニュースで僕は刺された女の人の名前を知った。そっちは覚える。雪島 みどり、みどりは漢字だったかも知れない。なんとなく忘れないでおこうと決めた。
2人目は、飛び降り自殺だ。友人と歩いていたら人が降ってきた。そして頭からグシャリと落ちて、潰れた。直視してしまった友人は即座に嘔吐した。僕は風に乗ってヒラリヒラリと落ちてきた紙切れを掴んだ。『遺書』とあった。開いて読んだ。そして捨てた。その友人には「なんか君って……、不気味」と言われてそれ以来疎遠になった。
これ、いつもの電波文じゃなかったりするから驚きである。他に何かおもしろいこと…… うーん。思い出せと言われれば意外と出てこないモノだな。あ そうそう。こないだ図書室で高藤に腕を折られかけたんですよー、薫の表現がぶっ飛びすぎててですねー…… 読者にとって既知の情報を流したところで面白味もクソもないし。
…………よ………よう……太陽、太陽ー ご飯まだー?」
夜月の声で僕はようやく瞼を閉じていたことに気付いた。目を開けてソファーに沈んでいた上体を起こす。
「……メール見てないのか? 今日は白夜が帰って来てから外食」
「でももうすぐ8時だよぉ 私はお腹が空いたのだ」
「……は?」
僕は慌てて時計を見る。7:30と少し、駆け出した。
「どこ行くのぉ? 夜遊びするような子に育てた覚えはありませんよぉ」
と夜月。そりゃそうだ。なぜならお前に育てられた覚えはないからだ。むしろお前は僕の作った飯で育っただろうが。って言いたいところだけど僕には返事をする余裕はなかった。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。キラーT細胞の餌食となってしまう。と思考の92%ぐらいをそれが占拠していた。残り8%は電波の送受信にしか使われていない部分。
玄関を飛び出して自転車に跨がる。そのまま全速力ですっ飛ばした。
……こんばんは、三島 太陽が熟睡中なので地の文を任された今井 薫であります。
ただいま時刻は7:20分、キャンプファイヤー開始の直前。太陽が寝てたので寝顔をじっくり観察してから起こすのが勿体ないなぁと放ったまま出てきた次第であります (笑) ばっちり写メに納めてます。
ちなみに地の文が太陽の担当では申告し辛かったんだろうけど、三島 太陽は中性的な印象のあるかなりのイケメソである。ただかなり独特の雰囲気を持ってるので異性に好かれ同性に嫌われるタイプだとわたしは思う。
閑話休題。いまはかっきー (垣内) と一緒に時間潰してる。高藤さんがやたらキョロキョロしてるのが少しおもしろい。太陽を捜してるのかな。
校庭のど真ん中に不自然に暗幕がかかってるけど、あれが放送であった火の代わり? ふむ、縦にかなりの大きさがあって下に行くほどに徐々に広くなっている。タケノコ状の形。ついでに電線らしき物が地面を這っている。あれが何なのかおおよその予想はついてるけど伏せといたほうがおもしろそうだから言わないほうがいいかな。
かっきーが横で話し掛けてるのを頷く。かっきーは結構なマシンガントークである。わたしは人の話を聴くのは好きだけど話を聞き出すのはあんまり得意ではないのでかっきーの存在は貴重だ。
かっきーが太陽に告白する、って言ったときはちょっと驚いた。……けどまあそれはいいや。
もうすぐ7:30、いまはとりあえずこのときを楽しむとしよう。なんて気取った言い方を漠然と考えてみる。
「うっし、キャンプファイヤーはじめんぞー!」
結構賑わってる周りに負けないぐらい大きな声がスピーカーから降ってきた。
「カウントダウンしやがれ
ほれ いーち」
「いーちっ!」
グラウンドに集まった多くの人間が放送に続く。例外はわたしと高藤さんぐらいだろうか。
「にーの」
「にーのっ!」
……にしてもいくら拡声器を使ってるにしろよく通る声だなぁ 声優か歌手になればウケそうだ。名前も知らない誰かさんの声だけに少し惹かれる。容姿には期待しないほうがいい……かな? だって〇川さんに幻滅してしまったのはきっとわたしだけではないでしょ。←失礼にもほどがある。
「さんっ」
「さんっ!」
暗幕が、校舎側にずり落ちた。暗幕の周りの数人が留め具を外すのと同時に上から釣っていた数ヶ所を外し、残る一ヵ所から校舎の方へ引っ張ったのだろう。
そして電飾に明かりが灯る。暗かった周囲が照らし出されて浮かび上がる。顕になったのは大きなクリスマスツリーだ。
「んじゃ神代、あとは任せたぞ」
声の綺麗な人はそれで引っ込んだ。明るくなったおかげでうっすらと人影が拡声器を譲ってグラウンドに降りてくるのが見えた。
少しどんな人なのか興味を覚えた。かっきーの手を引いてその人のほうを指差す。
「ん どった?」
わたしが歩き出すとかっきーは不思議そうな顔をしながらもあとをついてきた。
「え? あーあー、マイクテスト中? えっと、あいにくほんじつみじゅくもの 神代 梓はいきなりマイクを任されてテンパり切っております」
軽音 (わたしが行ったのは後半部だけど) で聴いた声だと思った。……あぁ、誰にも言ってないから誰も知らないだろうけどわたしは声に敏感だったりする。上がり切らないし低くもない、中途半端な自分の声が嫌いだからだ。だから意図的に口数を減らしている。そうしているうちに本当に話すのが苦手になってしまったけど。
まあ何処かの本にあったみたいに“自分の笑顔が嫌い”だからって誰かの笑顔を殺す、みたいなことはしないけど。……あれ? 本じゃなくて携帯小説だったかな? タイトルが思い出せない。夢で見ただけな気すらする。
「これから15分ほどお時間いただいて軽音部がライブやります? でよかったっけ? ボーカルはわたくし神代 梓でありますですよ にぱーってこれ全部西村が言うはずだったんですけど ってかうちの学校の放送部は何をやってる……?」
困惑の多分に交じった、でも少し楽しげな声。目立ちたがり屋なのかな。まあそうじゃなきゃバンドのボーカルなんて務まらないだろうけど。
「というわけでもう5分ほど準備時間を戴きたいです お願いしまーす」
で、5分ほどして曲が流れ出した。体育館と違って音が残響しないのでまた少し違う印象がある。わたしはあんまり知らないけど太陽がたまに聴いてた気がする。歌ってるバンドの名前はBUMP OF CHICKEN……だったかな?
少し聞き入った。
終わって、ボーカルの人がペコリと頭を下げる。周りがみんな拍手した。一応わたしも。
「んじゃ…… あれ? 西村どこ行った? ……まあいいや こっからは各自自由に楽しんでくださいなー 曲流すんで踊るもよし、残りモノ売ってるんで食べるもよし、好き放題喋るのも君たち次第なのであります」
じゃあ、と息を吸い込む。
「隣の人とでも踊ってください! ポチっとな!」
“曖昧3c…… 「間違えました、すいません!」
……なんだかなぁ
「先輩 あたしと踊ってくださいよぉっ」
「あー、どうしようかな」
捜してたら、わりと近くにさっきの綺麗な声の人が居た。うむ なんだかオーラ? 粒子? そのあたりが放出されてそうなペパーミントの香りなイケメソさんだった。女の子に囲まれている。多分あれが放送の人だろう。薄暗いのでよく見えなくて凝視する。凝視する。凝視する。フェードアウトしたりはしない。
「ん?」
イケメソさんがこちらに気づいた。ああ、やっぱりこの声…… いいなぁ。それになんか粒子が舞ってる。目とか鼻とか唇からミントとか生産出来そうだ。このへんでちゃんとしたBGMが流れ始める。この曲、なんだったっけな? 知ってるのにタイトルが出てこない。何処と無く幼いとはよく言われるので老化とは無縁のつもりでいたのだが、時間に猫被りは通用しないのだろうか。
「踊るか?」 と、イケメソさんはわたしに手を差し出して来た。他の男共はどうも尻込みしててカップル成立はほど遠そうだ。勢いに任せて男子が女子を誘うのはイケメソに許された特権みたい。意外と待ってたりするのにねぇ、女の子のほうも。
それはそれとして周囲の女子達から一斉にわたしに嫉妬の視線が向く。正直、ダンスなんてどうでもよかったけど…… いいねぇ、ゾクゾクする。っと、危ない。キャラが剥がれるところだった。天然キャラを発動、ぴかーん。首を傾げながら自分を指差す。
「そっ、あんた」
打算的に笑みを見せる彼。益々上がる周囲の嫉妬ボルテージ。わたしは頷いて見せてその手を取る。
キィィッ! とでも叫びだしそうな周りの女子、うむ 余は満足じゃ。
それからイケメソさんとわたしから興味を失った視線が拡散する。そのへんを見計らってイケメソさんはわたしを自分のほうに引き寄せた。
ん?、イケメソさんよ。手前に引きすじゃ……
そしたら軽く、
抱きしめられた。
背中に手が回る。彼の胸板に頬が当たる
……はぁぁぁぁっ?!
なにさらしてやがんだこの野郎。わたしは臆面もなく赤面する。いや 赤面してるなら臆面はあるのか。かっきー固まってるし。ヤバい。頭、めっちゃバグってる。
とりあえずわたしは、このペパーミント野郎の横っ面を叩かずには居られなかった。
パチンっ 小気味がいい音がしてビンタが頬に赤い痕を残す。ペパーミント野郎は避けなかった。それどころか薄ら笑いしてやがる。なんだこのマゾ野郎は。キモっ。“ペパーミント野郎”改め“マゾ吉”に内部表記の変更を要求する。
「……そうそう、そのあんたが見たかった」
「ッ……」
おい、マゾ吉とわたしは初対面だろ。それどういう意味で言ったんだ……?
「腹の中真っ黒だろ あんた、パッと見の天然っぽい振る舞いは全部猫被ってるだけだ」
周囲に聴こえない程度に声量を調節するマゾ吉。おかげで耳元で囁くような形になる。怒り心頭な脳ミソと裏腹に鼓膜だけが歓喜する。何度聴いても綺麗な声。なんでこの声が太陽じゃなくてマゾ吉に与えられてるんだろうか。恨むぞ、筆者。
わたしは端的に、しかし全てを終末に導くに足る一言でマゾ吉を制した。
「……黙れ」
それから足の小指を目掛けて踵を振り下ろした。
マゾ吉、悶絶する。ザマァww
「……」
まっ 口では拒絶しながらも、猫被りを人に見抜かれたのは初めてだったりするので少しだけ付き合ってみるのもおもしろいかも。とか考えてるわたしがいる。正直少し困る。
わたしはマゾ吉の足の小指をグリグリしながら周囲に視線を向かわせた。先ずフリーズしたままのかっきー。お、太陽 来てるじゃん。結構な人数の男子と一緒に居る。離れたところに、高藤さんが1人で居た。表情までは見えないがもしかしてかっきーの告白断って高藤さんもフッたのだろうか 何の勘違いやろーだよ。高藤 美咲にゃ敵わんとあきらかに勘違いさせるような言動とった地味な嫌がらせも功を博さなかったから諦めたのに、もしやちゃんとチャンスあったりしたのか?
……ちなみに特撮HERO好きは別に演技じゃないぜぇ と、架空の誰かに言い訳してみた。
読者と交信出来る類いの電波を私は所持していないのだ。




