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第六話:文化祭・準備


「調理? 僕が?」


 文化祭の2日前、店になる家庭科室の内装を整えている際に垣内さん…… だったかな? 前に薫と話しているのを見たことがある気がする。 が僕に言って来た。


「うん 三島っち、家庭科の調理実習のときスゴい手際いいじゃん? だからさぁ」


「正直いやなんだけど」


「おぉ 直球……流石三島っち」


「だいたい前に決めてた女子の調理組は?」


「いやぁ 面目ないことにあたし以外誰もまともに包丁握ったことなかったんだよねぇ……」


 垣内さんは苦笑して頬を掻いた。

 昨今の女子はまあそんなもんなのかと僕は適当に納得して…… あれ? 井上さんとか実習のときにはちゃんとやってたような……


 なんとなく、ここでまあいいかと投げ出してしまえるかどうかがどうもこの文化祭をどう過ごすかの転機な気がする。


「……まあいいか」


 たまには僕だって、ねぇ?



 内装が出来上がった。

 全体的に白っぽいイメージで簡単な装飾をしてあり前にある黒板には大きな字でメニューが、ちなみにクセのある丸文字のため僕には解読し辛い。

 窓とドアには内装の延長程度に見える黒い幕を張って覗き見を防止している。金を払わずに眺めるだけ眺めて帰る客予防だろう。しっかりしてるなぁ。


「じゃあいまからリハーサルやるよぉ」


 と、垣内さんがその場に居る女子全員に呼び掛けて男子を家庭科室の外に追いやった。なぜか僕だけが残される。


 ってか、リハーサル?


「三島っち、ちょっとそこ立っててもらっていい?」


「? うん」


「はーい 並んで並んでー」


 手際よくみんなを纏める垣内さん。僕や薫なんかよりよっぽど学級委員が似合うんじゃないだろうか。


「よしじゃあ1人目いってみよぉ!」


 先頭の女の子が、


「い…いらっしゃいませ ご主人様っ!」


 ペコリと頭を下げた。

 ……リハーサルってそういうことか。


「あの……垣内さん?」


「なに? 三島っち」


「なんで……僕?」


 いや、うん 僕も男だからね。なんていうか、くるものはあるよ? 役得だとは思うんだけど、僕はその先にあるキラーT (たかとう) 細胞の恐怖とも戦わないといけないんですよ……


「三島っちがふつうにイケメソだから」


 なるべく普通っぽい様子を装ったらしいけど垣内さんの声は少し上擦っていた。


「羞恥心の克服には三島っちぐらいの見た目はいるかなぁ、と」


 男子でアイスクリームのほう入れたの三島っちだけだしね、付け足して垣内さんはまた苦笑して頬を掻く。溜め息を吐きたくなったけど失礼かなぁと思って飲み下すことにした。


「遮ってごめん 続けて」


 直立不動って言うのはちょっと辛い物があるよなぁ…… なんて思考を軽くどこかへ飛ばしてみた。



 そして、その時が来た。Judgement Day、とかタイトルつけたい気分だ。

 列の最後尾に並んでいた、高藤 美咲が僕から3歩ほど離れた位置に壁なく直立していた。

 ちなみに今井は買い出し班なのでここにはいない。


 高藤、右手と右足を同時に踏み出して僕の前へ。緊張からか頬を紅潮させている。


「い……いいいいい………いらっ…………いらっ」


 繋げたら「いらいら」だ。


 ……それはともかくとして高藤は少し目を伏せている。頬の紅潮は益々広がって首まで真っ赤になって行く。


「いっ……いっ……いらっしゃいま、せっ ごごごご……ごすじっ」


 声の途切れ方が不自然だった。どうやら舌を噛んだらしい。


 可笑しいけど、別に誰も笑わない。似たような羞恥心は既に女子の誰もが体験してるんだし、やりたがらない高藤を提案者だからと無理矢理引き込んだ責任感もあるんだろう。高藤がふざけてやってるんじゃないことはわかり切ってるしね。彼女はそんなに器用じゃないから。


 高藤は一度、上目遣いの涙目で僕を睨んだ。僕は嫌みじゃない程度に微笑んでみた。

 とたんに彼女はキッ と目の端を吊り上げると


「いらっしゃいませ ご主人様っ!」


 ……めっちゃ大声で怒鳴ったのだった。




「あ そうだ、三島っち

 調理のメンバーさ 1から組み直すみたいなんだけど、この際だから三島っちが決めてくれない?

 あっ、あたしは調理のままでいいから」


「へ……?」


「じゃ、あたし帰るからあとよろしくぅ」


 颯爽、っていう言葉が似合うくらいあっさりと、小走りで先に行っていた女子グループのほうへ垣内さんは駆けて行った。



 おい 文化祭、明後日だぞ!?


 えーっと……、うちの学校の文化祭は午前、午後で別れていてうちのクラスは午後だけ店を開ける。だから調理のメンバーは4人と少ないんだけど。

 僕と垣内さんと……


「「………」」


 家庭科室に残された高藤。………不可抗力、だよな?


「高藤、ひまなときだけでいいから手伝って貰える?」


「ッ……」


 睨まれて、蹴られた。こころなしかいつもより力が弱い気がする。

 それから、長い沈黙を置いてから小声で「いいよ」と僕に顔を向けずに言った。


 ガラッ ドアが開いた。僕と高藤は反射的にそちらを見ると、北川が居た。


「あっちゃー……遅かったか」


 後ろ髪を掻く。買い出し班の北川は多分女子の“リハーサル”を見に来るつもりだったんだろう。


「北川、丁度よかった」


「ん? なんだよ、日照り (ひでり) 」


 ……あぁ、そうだ。北川は僕のことを“日照り”と呼ぶ。太陽から来てるんだろうけど正直そのセンスはよくわからない。


「人が足りてないんだ 調理手伝ってくれ」


「やだよめんどくさい」


 北川が身を翻してここから出ようとして、


「多分一番間近でメイド服の女子見れる位置「喜んでやらせて戴きます、三島様」


 ……僕に飛び付いてきましたとさ。





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