第三話:高藤 美咲な話
そんな訳で僕は日曜の昼前、駅前に居た。なぜか薫が着いてきた。むしろ憑いてきた?
一応、ご指名は僕だけみたいだと言ったんだけど聞く耳持たずだった。薫は結構芯が強い部分がある。
それでいま11:30である。……来ない。
「タイヨー 帰ろうよー」
と、薫が言ったけど僕は応じなかった。ま 僕はとりあえずひまだからねぇ。特にアルバイトをしてる訳でもないしまあ夕御飯の支度はあるけど、買い物は日和か白夜に頼めばいいし。
……なんでうちの一家は女性陣のほうが家事出来ないんだろうなぁ 日和は「洗濯ならまっかせない!」と全自動洗濯機を前に勝ち誇ってるけど。我が親ながら一度頭を洗濯されたらどうだろうか。
12:00、高藤はまだ現れない。自転車に腰を預けてぼけぼけー っとしてる僕を通行人がいぶかしみ始めた。……あーあと薫は少し前に帰った。特撮ヒーローの特番があるらしい。何しに来たんだろ、あいつ。白夜から聴いた叔母さんの奇行が少なからず薫に影響を与えているなら僕は彼女に同情を禁じ得ない。なんでも加奈子さんは子供のころ猫を追い掛け回して14km離れた街まで行ったんだとか。徒歩で、しかもしっかり捕まえて帰ってきたらしい。猫は基本的に縄張りから出ないものだよなぁと聴きながら思ってたら白夜もそのことは既知で「俺が見た猫は茶色だったんだがアイツが連れて帰って来た猫は白と灰の混ざったやつだった 多分どこかで見失って入れ換わったんだろう」と言っていた。
ちなみに加奈子さんによるとそのときの野良猫の子孫がソラらしいのだが真偽を確かめる術は僕にはない。ただソラの毛はたしかに白と灰の混ざったやつだが。
「……」
それとなく周りを見るけどやはり高藤は来ていない。駅前、という指定だけだったので別の駅に居るのかそれとも同じ駅の別の場所に居るのか。
前者は却下する。なぜならこの駅が僕と高藤の家から最も近く、またうちの学校の生徒に駅というとだいたいここを思い浮かべるからだ。
後者の可能性も…… おそらくないと思う。僕の居る場所は駅に入って周りを見渡せば先ず目に入る。まあ可能性は0じゃないので僕は自転車を押しながら少し歩いてみることにした。
右手に地下鉄への入り口が、ロータリーを挟んだ向かいに本屋やコンビニがある。左手には階段があってそこが改札。僕は右手側から本屋のほうへぐるりと一周まわってみることにした。日曜の昼だけあって人通りはなかなか多い。
「いない……よな?」
人並みに目を凝らしたり本屋の中なんかもブラブラしてみたけど居なかった。
僕は携帯電話を開く。着信はない。高藤に電話を入れてみたが通じなかった。
……ふむ、どうしようか。とりあえずコンビニに入ってパンとコーラを買ってみた。
かじる。あ これ、美味しい。コーラを飲む。でも炭酸に合わないや。
……1:00になった。連絡はまだない。自分が意地になってることを理解する。実際ひまだから別にいいんだけどね。
電話が鳴った。高藤の番号。通話ボタンを押して左耳に当てる。当たり前の動作がなんだか鈍く感じた。
「はい もしもし」
『どちら様でしょうか?』
「……はい?」
電話から聴こえて来たのは知らない声だった。って言うかそれこっちの台詞じゃないか……?
『あぁ、えっとこちらお姉ちゃんの携帯です』
「ああ」 ますますわかんねーよ。妹? いたのか?
『そちらさまお名前は?』
「三島 太陽…… って着信履歴にありませんでしたか?」
『ちなみにお姉ちゃんは病院です』
「……どこの? なんで?」
『着信履歴には番号しか表示されていませんでした』
「……」
会話が微妙に噛み合わない子だな…… ん? 番号しか表示されてないってことは高藤は僕の番号を登録していないのか? ……メモってる様子もなかったが、もしや暗記してる?
『長風呂し過ぎでのぼせてぶっ倒れました 念のために検査を受けましたが概ね問題ないそうです
いまは鈴島総合病院の703号室に居ます さっき連絡がありました』
「……ありがとう」
『“行けなくてごめん” だそうです』
「わかった」
『どういたしまして』
ここで通話が切れた。鈴島総合病院はここから五分もかからない。
「……見舞いに行くべきか帰宅すべきか それが問題だ」
僕は自転車を走らせた。
……家の方に。




