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第ニ話:今井 薫の話



 高藤にぼっこぼこにされた僕は命からがら逃げ帰ってご飯作って風呂に入ってさっさと寝た。


 という訳でこれは翌日、土曜日の朝のことである。


 ……えーっと、先ずは今井 薫の話をしようと思う。実は去年まで僕は彼女が従妹だと知らなかった。なんでも叔母の娘だが父は叔母とは絶縁していて意外と近くに住んでいるにも関わらず全く会うことはなかったのだ。

 その叔母がある日突然言い出したらしい。


「私、選挙に出るわ!」 と


 ……そうして選挙活動をほんとに始めやがった叔母さんは忙しくて暇が取れず、今井家の薫は飼っていたソラという猫と共に三島家に引き取られて来たわけだ。

 その際、親父は言っていた。


「いかに親がアホでも生まれてきた子供に罪はない あれのバカさの犠牲にするのは余りにも不運だ」


 とまあ叔母とは絶縁しているにも関わらずその娘は一時的に引き取ったわけだ。


(父さんもお人好しだよなぁ……)


 僕なら例え飢え死にしそうになってても夜月のことを見捨ててやる。……ような気がする。

 それともそのうち姉弟 (どう発音するんだろう?) にしかわからない絆的なモノが芽生えてきたりするのだろうか?


 なんとなく僕の隣に座ってテレビを見ている薫の横顔を見つめてみた。うん、ここ 僕の部屋のはずなんだけどなんでこいつは休日の朝から居座ってるんだろ。

 薫は視線に気付かずにテレビに没頭している。特に会話もない。テレビにかじりつく姿は現代っ子だなぁ、薫と僕。

 ちなみに母の日和と父の白夜は一回のリビングで寝ておりそちらにもテレビはあるのだが薫曰くは「オジサンとオバサンに迷惑かけれない」、だそうだ。

 僕にはいーのか? って訊ねると太陽は太陽だから とよくわからない返答をされた。……なぜか悪い気がしないのが不思議だった。


 ……ってゆーかさぁ


「薫……これ、おもしろいか?」


 所謂、特撮ヒーローと言えばいいのかな? 正確でなくともだいたいの意味は伝わったと思う。


 薫はコクコクと目を輝かせながら頷く。


 普段物静かで本好きな学校での様子からは想像もつかない様子だ。薫は僕の方に視線を向ける。


「こんなこと本には書いてないから」


 ……そりゃそうだろうな。


 勧善懲悪。ファンタジー系の物語は基本的にそれに則って描かれる。だけど最近の物語はその限りじゃない。


 “悪役にも事情があった”

 “ほんとは世界を守るために必要だった”

 “孤独だったから”

 “壮絶な過去があったから”

 “復讐”


 本当にこれでよかったのか? 出来のいい物ほどそう思わされるように出来ている。

 そう考えたら戦隊ヒーローやウル〇ラマンほどわかりやすい勧善懲悪はない。まあウルト〇マンは街をぶっ壊しまくってる怪獣と同義っぽい存在だけど、そういえばこないだ偶然つけたやつでちゃんと街を壊さないように戦ってたな。


 正義の味方 (自称) が街を壊しまくるのは小さい子供に多大な悪影響を及ぼすのですね。わかります。

 最も強いのはウ〇トラマンではなく視聴者なのですね。わかります。


 でも〇ルトラマンが街を破壊するのは解る気がする。何事もリスクなしでは解決出来ないという教訓なのだ。深読みし過ぎか。



(こんなこと本には書いてない……か)


 とりあえず、


 僕と薫は変なところでよく似てるのかもしれないと少し思った。




 僕の母親の日和は家事全般が苦手である。したがって僕は自然と料理のパラメータを伸ばさざるを得なかった。何せ現代にもなって米を洗うのに洗剤を使っちゃった人だもんな…… 僕と夜月は異臭を感じ取って手をつけなかったけど、気付かずに食べた白夜が救急車で運ばれて行ったのは衝撃的だった。

 当の日和は「ごめーん 間違っちった♪」と舌を出して笑顔。白夜としてはあと十歳若ければ、と言ったところか。


 閑話休題。という訳で僕はいまお昼ご飯を作っている。

 ……どういう訳か? 猫を抱いた薫に上目遣いに「お腹空いた」とぐいぐい袖を引っ張られたのだよ。


 ……薫は普通にかわいいからこういう挙動にはときどき焦る。



 出来上がったフレンチトーストを適当に皿に盛る。

 つまみ食いを催促する薫を制してテーブルに置いた。


「手、洗いなよ」


 さっきから腕の中の猫が薫の指をペロペロと舐めてるわけだし。

 薫は一度ムッとした表情を作ったけど自分の手がソラの毛だらけなことに気付いて渋々手を洗いに行った。


「……」


 薫と2人だと会話がないよなぁ とか考えながらぼーっとしてると2階から足音が聴こえて来た。まさか泥棒が潜んでて……?!、なんてこともなく多分夜月が起きて来ただけだろう。


「あ”ーおはよう だいよ……うっぷ」


 階段から降りて来た姉の夜月は隠しパラメーター『二日酔い』の数値がMAXなのであった!


「お ご飯ご飯」


 上機嫌に手を伸ばそうとする夜月の手を軽く叩いた。怪訝な顔をして僕を睨む夜月に対して僕は台所を指差す。


「これは僕と薫の二人分 夜月のはラップかけてあるから」


 僕は薫には甘いけど夜月には厳しいのだ。理由は歳上だからだ。年増に興味はないのだ。幼女万歳である。流石に嘘だ。


「むぅ……」


 正体不明の唸りをあげて夜月は台所へと引っ込んだ。入れ換わって薫が戻ってくる。猫の餌を抱えている。その後ろを猫がトテトテと歩く。


「食べようか」


 特に意味もなく言うと薫は嬉しそうに頷いた。座って猫の餌を自分の隣に置いて猫がそれを食べ始めたのを認めてからフレンチトーストを一口かじった。


「美味い?」


 結果はわかってるけど訊ねてみる。薫は頷くだけだ。

 言語の壁って言葉に体当たりしてるもんな。薫はいつも。……ちなみにこいつ、英語の成績だけいつも僕よりよかったりして発音もペラペラなので言語の壁自体はなんなく突破するのである。ほんと、基準の掴めないやつだな。


「あー……二人で食べ始めてる ズルい……」


 二日酔いで怒りを表現し切れてない夜月が皿を手に戻って来た。

 夜月は僕より3つ上で大学2回生だ。サークルのコンパだかなんだかで最近いつもこんな調子で帰ってくる。

 電波男と泥酔女、とかで一本書けないかなぁ

 ……どうでもいいけど電波な女の子は容姿や諸々の要素があればなんとかなるかもしれないが電波男はどうしようもないよな。あっはっは


 下らないことを夢想しながらフレンチトーストに手を伸ばすと、腕を噛まれた。猫かと思ったら、夜月だった。

 わたしはとてもおどろきました、まる


「……夜月?」


 歯が肉に食い込む。微妙に痛い。当の夜月は、


 そのままごろんと僕の腕を下敷きにして、寝やがった。


 …………………


 僕はとりあえずフレンチトーストを食べることにした。利き腕の右が枕になってるので左手を伸ばすと最後の1つで同時に手を伸ばした薫に触れる。無くなるの早くないか……?

 皿から顔を上げると対面の薫が珍しく眉間に皺を寄せて僕を睨んでいた。


 ……手を引いてみた。


 それを口元に持って行きながらも薫は表情を変えない。僕、なんか悪いことしたっけ?


 夜月は何を切っ掛けにしたのか知らないけどパッと目を覚ましてソラを見つけて「みらいのせかーいのぉ……ねこがたろぼっとぉ」とか歌いながら食べ出した。

 僕は右腕の唾液をティッシュで拭いてから席を立つ。


「きゅーん よつきさーびーしーいー」


 ……無視した。


 階段を上がって自室でベッドに寝転がる。なぜかしかめっ面のままの薫がついてきた。ベッドの隣に座って「ッ……」歯を立てて腕を噛まれた。夜月の比じゃなく痛い。

 そのまま力を緩めて頭を転がらせる。腕を枕にする。


「……寝辛い」


 愚痴を溢すが頭は上げない。僕の鼓動が微妙に早まってることにも気付かない。腕にかかる髪が微妙に痒い。


「薫?」


 薫は寝ようと尽力してるらしく目を閉じている。そのくせ頬が少し赤い。

 僕は腕にかかる黒髪に手を伸ばして、




 携帯電話が鳴った。ガタガタぶるぶると、マナーモードの携帯が全力で自己主張する。

 僕と薫は急激に羞恥心に駈られて跳ね起きた。

 携帯を取る。高藤から電話だった。微妙に震えてる手で通話ボタンを押す。


「は、はひ? もしもし」


『……? なんであんたキョドってんの?』


 至極真っ当な高藤。さて、


「30分前にゴキブリの巣を見つ『あーもういい! それ以上言うな!』


 とりあえず誤魔化せた。深呼吸して落ち着ける。


「なんか用事?」


『ひま』


「そう、じゃあまた明日」


 僕は通話を切った。即行でリダイアルされた。


『ひまだからなんか喋れ』


「……なんかって何?」


『昨日の弁明とか』


「昨日?」


 図書室のときのことかな?


『同棲してる、って何?』


 もどかしそうな高藤の声。


「事実」


 ベキッ 電話越しに何かが蹴られて壊れたらしい音がした。


「タイヨー?」


 隣で薫が「遊んで遊んで」と小動物の如くアピールする。頭を撫でてみた。そのうち「にゃあ」とか鳴き出しそうだ。


『……明日、11時に、駅前で』


「えっ……」


 プツッ と回線が切断された無機質な音が妙に耳に残った。


「……僕にどうしろって言うんだよ」


 中間テスト近いのに高藤は遊んでて大丈夫なのかなぁ とふと心配になった。




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