最終話:さる異端者に花束を
僕は西村 祐介さんが少し苦手だ。初対面の僕に向かって眉を寄せてしかめっ面を作ったあとに「二人か…… 多いな」と呟いたのだ。もしかしたら全然関係のないことだったのかも知れないけど僕には僕の目の前で死んだ彼女と彼のことにしか思えなかった。
彼は何の理由も予兆もなく、一見しただけで人を見抜く主人公体質の人間なのだ。その把握は直感とかいうレベルじゃなく、まあ言うなら直観かな? 人を直接覗き観る能力がある。少なくとも僕はそう信じている。
ちなみに神代 梓にバンドのボーカルをやるように勧めたのも彼だ。彼がプロデューサーとかやれば芸能事務所は大盛況だろうなぁ。
何か電波に繋がる部分があるかと思ったら一切なく過ぎてしまった。電波少年失格である。これではNHKの受信も検討せざるを得ないではないか。
……ただ自転車をすっ飛ばして周りの景色が矢の如く飛んでいくのを描写してもなんなので新キャラについて説明してみた。何の文脈もなくこんなことをしても許されるので電波少年は得である。小説の文字数稼ぎにもぴったりだ。こんなに主人公に向いたキャラクターはいないだろう。←他の作者様に怒られろ。
「……着いた」
本来20分はかかる道程を8分でコンプリートした。膝が笑ってる。頑張った、僕。自転車をおいて鍵をかける。満身の創痍を一ヶ所で作り出す膝は地面に足をつくとかかった体重に真っ向から抵抗する。辟易する。転げそうになる。もう少しだけ持ってくれ。あとは這いつくばってもいいから。
「高藤 どこだろ?」
あたりを見る。グラウンドのど真ん中に季節外れのクリスマスツリーが立っている。僕はなぜか高藤より先に薫を見つけた。垣内さんと一緒にいる。
「あ…… 先輩」
「お? 後輩」
先輩こと神代 梓が売り言葉に買い言葉で返す。うむ 誤用している。
「高藤を……、昼間のメイドの子みませんでしたか?」
「んにゃ 見とらんね」
先輩はあまりおもしろくなさそうだ。……いや 人となりが、とかじゃなくて態度が。
「もうちっとしたらライブやるけど後輩もくるかい?」
「はい 高藤見つけたら一緒に行きます」
「んむ ガンバれよ、後輩」
……頑張る? 何をだ? 浮かんだ疑問符を先輩に問おうかと思ったけど先に言われてしまった。
「彼女、あのときと一緒にはしないであげてね」
先輩は振り返らずに言うと逃げるように校舎の中へと入って行った。
僕はまた先輩とスレ違う。
「どこに居るんだ? あいつ……」
グラウンドは一回りしてみたけど、居なかった。もしかしたら帰っちゃったのか……?
僕は自分の中の微細な焦りに気づいた。そもそも僕が高藤を捜してるのは恐いから? 本当にそれだけか?
美少女は視界に止めて置くのがいい? 流石に建前か。
走った。膝はもう無理と弱音を吐く。マラソン選手なんて42.195kmも走るんだぞ。同じ人間だろ、無理な訳があるか。鼓舞する。みっともなく転ける。立ち上がろうとして、
トイレから出てきた高藤と目が合った。
「……………」
「……………」
タイミング、悪っ
無言で見詰め合う。……気まずい。不意に高藤が動いた。
踏まれる。と僕は直感的に思った。だけど靴底は飛来しなかった。
「……なにやってんの あんた」
ただかがみこんだ高藤から冷ややかな視線を頂戴しただけだった。
「いや ちょっとヘッドスライディングの練習をば」
「いつから野球部になったわけ?」
「3分前、でもいま退部届けを出しに行くところ」
フッ と高藤は鼻で笑って軽く息を吐く。
「30分も遅刻した」
……あれ 第3話似て数時間僕を待たせて結局来なかった人とこの人は別の人だっけ?
「ごめん」
「ペナルティ 30分遅刻したから30日間はあたしに近づかないで」
それだけ言うと高藤は身を翻した。1440倍の仕返しをするその顔は、たしかに笑顔だった。それは間違いない。だけど……
あぁ そういうことか。わかりましたよ、先輩。
あのとき真っ赤に潰れた死体を切っ掛けに「なんか、不気味……」と僕から距離を取ったあなたを僕は追い掛けませんでした。それが間違いだったんだ。追い掛ければよかったんだ。形振りなんて構わなくていい。不恰好でも人間は繋がって行ける。汚点1つで全ては否定出来ない。
「嫌だっ!」
あのとき、この一言だけが必要だったのだ。今度は間違えない。
唐突な僕の大声に高藤が驚いて振り返る。
「30日も離れるなんて我慢出来ない」
それはいつもの電波に等しい虚言だったのかも知れない。
もしかしたら僕はあの頃から変わらずに人間失格な、人を嫌いにならない代わりに人を好きになれない、クズ野郎なのかも知れない。
それでも喉をついてでた言葉は、
「君と一緒に居たいんだ」
痛いほど実直で紛れもない僕の本音だった。
しばらく2人の間に音はなかった。互いに何かを言い出そうとしてるのに、突っ掛かって喉を越えない。
そんなとき、
歌が聴こえて来た。多分外でやってる先輩のライブの曲が。
“小さな鏡を取り出して俺に突き付けてこう言った
「あんたの泣き顔 笑えるぞ」
呆れたが なるほど 笑えた”
───その歌が終わって、僕と高藤は互いに顔を見合わせて笑った。ただただ笑い転げた。
きっとこれは思春期によくあるあきらかな勘違いの1つだ。でもその歌がいま僕らのためだけにある気がしたのだ。きっと高藤もその思いを共有している。
「付き合おっか 太陽」
「うん」
僕は躊躇わずに、答えた。
「おーい ひでりーんっ」
グラウンドに戻った僕を北川が少し遠くから呼ぶ。
僕は高藤に目配せしてから北川のほうへ向かう。
「何?」
「もうちょいしたらクラスの女いない男ばっかりで打ち上げ行こう って話になってんだけど、お前彼女居なかったよな? 来いよ」
「あぁ…… ごめん 行けない」
「なんでだ? 用事でもあんのか?」
「いや 条件を満たしてないから」
北川の顔が突然凍り付いた。
「お前…… まさか」
「彼女 出来たよ、ついさっきだけど」
……あれ? なんで僕を囲んでるんだ? 打ち上げに行く組の男多数は。
「……殺れ」
「へ?」
僕は袋叩きにされた。
「……なんでだ?」
12人から一発ずつボコられた僕はよろめきながらとぼとぼ歩く。北川達は既に学校を出ていった。うーん…… この情けなさがあまりに僕らし過ぎて逆に笑えてくるな。
まあ高藤の蹴りよりは遥かにマシだけども。
「太陽?!」
高藤が駆け寄って来る。僕の顔に触れて土を払う。北川以外は本気で殴っちゃいなかったけど。
……逆説的に言えば北川は本気だった。瞼の裏に星が飛んだ。円形の綺麗な星が僅かに赤く輝いていた。赤血球?
「大丈夫……?」
「ん 平気、高藤のおかげかな? 多少の暴力には耐性がついたよ」
高藤は口元で むっ として目で泣きそうになる。
「えっと……」
僕の発言をいちいち真に受けるのかこいつは。僕は生粋の電波少年だぞ。地方の局しか受信出来ないのが欠点だが。
「……写真とっていい? その顔めっちゃいい」
嗜虐性をそそられる感じの「バカァッ!」額に右ストレートが突き刺さって僕は後方に1mほど吹き飛んだ。
ずさぁっ と盛大に地面に服が擦れる。恐るべしキラーT細胞……
「いっ……つぅ……」
「ぁ…… ご、ごめん」
「いや いまのは多分自業自得」
服が破れてないことを確認して起き上がる。何気なく視線を周囲に向かせる。
曲が流れてることに気づいた。外国の曲には疎いから曲名は知らない。クリスマスツリーを囲んでるカップルが踊ってる。
「……僕らも踊ろうか」
「え でも……私、全然わかんないし……」
「そんなのみんな一緒だよ ほら」
なんとなくステップを踏んでるだけでちゃんと踊れてる人なんて…… 居た。3年生徒会長の望月……なんだったっけ? まあいいや。
「ほら、行こう」
僕は高藤の手を取った。
こうして僕の世界は回って行く。
誰かの思惑と行動が少しずつ歯車を動かして行く。
昨日も、今日も、明日も、これから先も。
時に緩やかに、時に激しく。
だけど永遠なんて存在しないから。
だから僕は出来る限り長くこの時が続きますように
そう、祈った。
ハッピーエンドで終わって欲しい方は続きは絶対読まないでください。




