第八十四話
いろいろと事後処理を済ませ。
俺はゼタを連れて、とある南の島に来ていた。
スウェーデンのウクセンシェーナ家、日本の九条家の管理する元無人島。
正確には『鏡の竜』を撃破したときの余波でできた、新しい島である。地図には載っていない。
ちなみに先日、俺とゼタが漂流したのもこの島だ。
「さて、着いたよ~、ゼタちゃん。うちのお嫁さんたちを紹介するからな」
「なんだ……この、島は……」
二大財閥の最先端テクノロジーで管理運営されている島は、快適さにおいて百年ほど未来のレベルに達している。
新しい島なのに、すでに植生は遷移・多様化。
赤道に近い屋外でも、気温は調整されて快適。女の子たちの肌の天敵、紫外線はしっかりカット。潮風も抑制されている。
島全体をドームのような防御魔法が覆っていて、内部は快適に、外部からは目視含めて一切の観察・侵入が防止されている。例の『鏡』の完全反射・完全防御の権能が応用されているのだ。
さらに妖精魔法によって衣食住の99.9%は自動化――……
とは言っても、ミーゼス家も近い水準のテクノロジーは保有している。
ゼタが驚き、忌々しくこちらを睨むのには別の理由がある。
「き、き、貴様……ッ! なんだこの女たちは」
「全部俺のお嫁さんだよ。言ったよね?」
「複数いるとは聞いていたが、なんだこの人数は!?」
「ちょっと増加傾向でして」
北欧ヴァルキュリャ隊からは21人。部隊の候補生200人くらい続々追加。
九条ホールディングスからは4人。さらに新入社員も50人くらい採用。
エジプトやベトナムで仲良くなった子が20人くらい。
ちょっとだけ増やし過ぎたけれど、全員仲良く俺のお嫁さんとして幸せに暮らしている。ユニホームは水着か、それに類するもの。
全員俺の帰宅を歓迎し、腰をこちらに向けて大きく振れるように歩いている。南の楽園だね。
「バ、バカバカしい! これでは君主制の後宮ではないか……!」
「だいたいそんな感じ」
「こんなところに入ってたまるかッ。し、しかも……セシリア・ウクセンシェーナや九条楓まで……」
お、やっぱり知り合いなんだね。
さすが最上流階級の子たちだ。
そして案の定メチャメチャ相性が悪いのか。ゼタは、こちらに向かってくるセシリアと楓を睨みつけている。
セシリアと楓も、
「チッ、景一郎……また勝手に女を増やして……」
「ミーゼス家のコイツを連れてくるなんて……」
と不服そうだ。マウントの取り合いは上流階級のたしなみか。お互いが顎を天高くあげ、お互いを見下しているのだ。同じ地面の高さなのに。首疲れない?
二人とも、俺にいわれるがままに連れて来られたゼタの無様を鼻で笑っている。
そんなゼタも負けずに、
「なんだお前たち、その腹は。まさかこの男に屈したのか? 少しは骨のある奴らだと思っていたが……」
と嘲笑いを返す。
なにせセシリアも楓も、ぽってり♥ とお腹を膨らませて俺の子をスクスク育てており、令嬢の威厳なんてない。二人ともグツグツ♥ と恥ずかしさや、不安や多幸感を煮込んだような表情をしている。背の高いモデル体型に、大きいお腹は映えるなぁ。
「笑ってるけどさ、ゼタちゃん。お前もすぐこうなるんだぞ?」
「ふッ、ふざけるな……」
「今日からここで暮らすんだ。皆と仲良くできるかな?」
「馬鹿にするな! 私に家庭へ入れというのか? 断る!」
お嫁さんのくせに言うことを聞けなかったので、しょうがない。お腹をなでてやる。
するとゼタのへそ周りに刻印され、すっかり定着した紋様が怪しく光った。
「ゼタちゃん、今日からここで暮らすんだ。皆と仲良くできるかな?」
「だいたいッ! う、産むわけないだろうこんな下郎、属州男、黄色猿の……! ありえない、なんとか、なんとかしないと……」
うーん、まだ素直になれないね。
ナデナデとお腹をさすりながら、魔力もやや強めに流す。
「ゼタちゃん、今日からここで暮らすんだ。皆と仲良くできるかな?」
「こッ、断わる――
「そういうのもういいから」
「ぎぃ~~~~~~ッ?!!♥♥」
ごちゃごちゃうるせーから「ぎゅーっ♥」と紋様ごと、中のハラワタを握りつぶしてやると、ようやく素直に白目を向いて首を縦にふった。
命令聞けて偉いねぇ。
「さて、そっちの二人も」
ビク! と声を掛けられたセシリア、楓が直立体勢になる。腕組みとか腰に両手を乗せるとか、さっきから態度がなっていなかったよね。気を付け姿勢ができて偉いぞ。
「そっちの二人も、仲良くできるかなー?」
「でっ、できる♥」
「できますっ!♥」
よかった。今日の後宮も平穏だ。
……
…………
………………
満点の星空の下。
俺とお嫁さんしか居ない島で。
浜辺に並んで寝転びながら、俺はセシリアの手を握りしめていた。
セシリア・ウクセンシェーナ。
俺のはじめてのお嫁さんだ。
北欧出身。雪化粧を思わせるほど白い肌。白金細工の冠を連想させる銀髪。
鼻筋が高く、灰色の瞳は鋭い。濃いめのまつ毛も相まって威圧的な印象を受けそうだが――……
「んぐっ♥ うゔうううううう~~~~っ♥ ぎぃいッ♥ う、産まれっ♥ う!♥」
その目元はぐちゃぐちゃに歪められていた。
芸術品のようなEラインは、食いしばった歯がむき出しで台無し。白肌は夜中でも分かるくらいに赤面している。
臨月を迎えたセシリアは、大きく大きく育ったお腹をぐいーっと突き出して踏ん張っている。頑張ってるね。
「景一郎~~~~~~ぅ!♥ んぎいいいいい♥」
「はーい、居ますよー」
「ゔう~~~~~~!♥ 痛い゙!♥ こんなに痛い!♥」
「上手にイキめてますよー。さすがセシリアさん」
ぎゅっと手を握り返す。
あのセシリア・ウクセンシェーナが俺の子の母親になる。そんな幸せなイベントを片時も見逃すわけにはいかない。全方位撮影だけでなく目にも焼き付けなければ。
頑張っているセシリアを隣で励ます。励まし続けていると、ついに。
「あ!♥ やばいっ♥」
「お! あとちょっと、頑張って!」
「んゔあ゙ああああ~~~~~~~~っ♥♥♥」
ぱちゃっ♥
と新しい生命が。
浜辺に産まれ落ちる。
なんて健全で、プリミティブな。あとフェティッシュで、なんだっけ。なんでもいいか。
とにかくおめでとう。感動的だ。泣けてきた。
「ゔ……♥ あ゙ー……♥」
ぐりんっと焦点のあっていない目をまわし、唇を突き出してブサイク面を晒しながら痙攣。
その突き出された唇に優しくキスをする。幸せそうだ。本当によく頑張ったぞ。
すぐ近くに並んで座っていた九条楓は、
『自分ももうすぐこうなるのだ』
とうれし泣きなのか恥ずかし泣きなのか分からんが、泣き笑い。自分のお腹を抱えている。
そしてその隣のゼタ・ミーゼスは、
『こんな屈辱許されない』
と悔しそうに眉を寄せている。でもごちゃごちゃ文句は出なくなったので、成長傾向である。
「よく頑張ったね、セシリア」
「あ、ありがとう、ございま……っ♥」
「じゃあこの子にSランクアイテムの『星の勾玉』を相続させよう」
「はひっ♥」
俺の度重なる冒険で気づいたことだが。
やはり強力なアイテムは、俺が持っていても宝の持ち腐れだ。あんまり活かしきれない。
将来的には才能ある子孫に任せるほうがいい。セシリア、楓、ゼタの血筋なら文句なしに優秀だろう。
しかし、だれか一人に権能が集中するのはよくない。Sランクアイテムの三権分立ってやつだ。話し合いの結果。
『星の勾玉』はウクセンシェーナ家に。
『無限剣』は九条家に。
そして今回獲得した『鏡』はミーゼス家にて管理・運用することとなった。
三人は後見人となり、相続人の条件は扶桑景一郎と三人の血を引くこと。
「ながーく財閥を繁栄させたかったら、いーっぱい子供作った方がいいよね。三人とも出来るかなー?」
「「「はい……っ♥」」」
幸福、不安、屈辱が三者三様。趣深い表情のブレンドではあったが。
最終的に幸福が上回ったのか、三人と頷いた。
おしまい♥
うおおお完結だ!
マジ健全なハッピーエンドでよかったです!
途中投稿遅れてすみませんでした。
みなさんのいいね・感想でやる気を出して、完結まで書けました。ありがとうございます。途中で終わるとむずむずしますからね。
またお会いできる日を楽しみにしています。^o^b