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第八十二話

 ゼタ・ミーゼスの一撃が『鏡の竜』の頭部で炸裂した。


 人類最強の光と、最高峰のダンジョンモンスターの激突は――


 後者に軍配が上がる。


 光は一粒も漏らさず跳ね返され、ゼタの右腕をえぐり飛ばした。


「マ、マジかよ……!」


 あの一撃の凄さは身をもって知っている。あれを叩き込んでもビクともしないとは。どうすりゃ勝てるんだ。


 血まみれになりながら落下するゼタのもとへ滑り込み、俺はなんとか彼女を受け止めた。


「生きてるか?!」

「ぐッ! ……またお前か。こんなところまで追って来て、なかなかしつこい男――」


 ベシャッ


 と、吐血でゼタの台詞が中断する。


 まずいな。腕だけちぎれ飛んだわけじゃなさそうだ。脇腹やその奥の内臓も痛めているのか。


 俺は急いで自分の手首を噛みちぎり、動脈から噴き出る血をゼタの傷口に垂らした。


「死ぬなッ、死ぬなよ……」

「……リジェネレーションの魔術か」


 魔力を全開でめぐらせると、ゼタの血は止まり、ズタズタにちぎれた右腕も修復される。


「ん、ご苦労。なかなかの回復術だ」

「どーも」

「……だがなぜ助ける?」

「そりゃあ、アンタ抜きでアレを倒せる気がしないからなァ……」


 回復したゼタを両腕でかかえ、見上げる。


 『鏡の竜』。ピンピンしていやがる。


 こりゃあガチで手強い敵だ。必殺の瞬間移動隕石ドーン作戦も考えたが、跳ね返されてしまうだろう。以前討伐したヤマタノオロチよりも強いかも。


 こんなのを倒そうと思ったら俺一人では無理だ。


 ゼタのような強力な権能者が要る。国や陣営が違うからって争っている場合じゃない。


 あとこの子美人だし。美人さんには弱いのだ。そりゃ助けるよね。


「さーて、どうやって倒したもんか……うむ?」


 妙だ。


 竜がこちらをじっと見下ろしている。


 初撃では俺のことなど意に介していなかったのに。おそらくゼタを脅威と見なしたのだろう。警戒している。


 そしてブルブルとその巨体を震わせると、


 ガシン!


 と金属音を響かせる。竜本体からの音ではない。周囲から、この空域全体から金属音は響いてくる。


 やばそうな雰囲気だ……。


「なんじゃ~~?」

「見ろ、日本人(ジャップ)! 鏡が出来上がっていく」

「おぉ?」


 ゼタが治った右手で海面付近を指差した。


 本当だ。さきほどまではキラキラと乱反射していたチャフの破片が、整列していく。


 ガシン! と音が鳴るたびに列が増え、鏡の幅が広がる。


 ガシン、ガシン、ガンガンガンガン……


 みるみるうちに鏡の列は曲面に。そして立体的な半球面になっていく。


 完成した巨大なパラボラアンテナは太陽光を一点に、竜の口元へと集め、そして――


「来るぞ、躱せッ!」

「チィッ!」


 とっさに。直感的にタイミングをはかってゼタの肩を抱え、俺は空間を跳躍した。


 瞬間移動0.5メートル!


 それと同時に竜の口元が「ガシン!」と鳴る。超広範囲から集められ、精密に収束された太陽光が、


 俺の半身を焼き飛ばした。


「ぎぃぇえ~~……っ! あ! あ! やべえ!」


 一瞬で脳と臓器と四肢の半数が焦げて塵になる。


 残った右脳で本能的に退避。ゼタかばいながら、どうにか光の奔流から抜け出す。


 急激な損傷と回復で吐き気をもよおしながら振り返ると、光線はまったく減衰することなく直進。海面にぶつかり、巨大な水蒸気爆発を起こした。


「うええ……なんて奴だよオイ」


 まさに自然災害。海中火山の噴火にも匹敵するエネルギー量。


 だがどうにかこうにか生き残ったぞ。今度はこっちが反撃する番だ。


「しかしどうする。奴の反射防御を突破する方法はないぞ」

「あるんだな~、これが」

「なんだと?」

「知りたい? 知りたい?」

「早く話せっ」


 あまり回転が速くない脳で一生懸命攻略方法を考えていた俺は、なんと今しがたグッドアイデアを思い付いていたのだ。


 ゼタに自慢したいのでもったいぶってみたが、「バキッ」と背中を殴られたので話すことにしよう。とても痛い。


「アンタがくれたヒントだぜ」


 俺はゼタを背中に乗せながら、この子の台詞を思い出していた。


「三すくみだ」


 ゼタ本人が言っていた。


 Sランクアイテムのような強力な存在は、一つでは独占が起きる。二つでは対立が起きる。


 しかし三つならば、互いにけん制し合い安定が起きる。


 つまり相性があるんだ。


「『無限剣』は()()()で負けるだろうな。どんなに無限大の魔力を打ち込んでも、全て跳ね返されてしまっては負けて当然だ」


 さきほどゼタの一撃が跳ね返されたように、正面からでは負ける。


 だからもう一つのSランクアイテム。『星の勾玉』の瞬間移動を使う。


「反射される直前に数センチ瞬間移動させて、俺の拳をねじ込む。でもそれだと杭をあてがっただけだ。パワーが足りない」

「……なるほど」

「杭を打ち込むのは君だ、よろしいか」


 いけ好かない女ではあるが。


 口が悪くて、他国を見下していて、他国の資源を強奪していくカス女ではあるが。


 手段を選んでいる場合ではない。太平洋が魔物に支配されるかどうかの瀬戸際なんだ。


 二国間のイザコザはいったん忘れようではないか。


「いくぜ、お嬢ちゃん! 日米同盟ファイヤー!」

「ふん。な、なかなか悪くないではないか。ふーん、ジャップにもまぁまぁ頼りがいのある男がいるものだな。お前、名前はなんといったかな? ああそうだ、扶桑。扶桑景一郎だったか? うん、名前くらいなら覚えてやってもいいし、今度ミーゼスの館に来い。12000番目の夫候補として品定めしてやってもいい」

「人の話聞いてやァ! いくよ? 本当に大丈夫?」

「そもそも属国のモノは私のモノなわけで、お前の意見など聞く必要はないのだがな。気持ちの準備を整える時間をもらえること、光栄に思いなさい」

「大丈夫なのォ~~!?」


 ちょっと何言ってるか分かんねえよ。ネイティブ英語でまくし立てるの止めてくれ。聞き取れないし集中できない。


 再び太陽光線(ソーラービーム)の発射体勢に入った竜の口元に突撃。


 キラキラとランダムに舞う鏡が、この一瞬だけは位置を固定される。


 ガシン!


 と金属音が響き、竜の口内に展開された鏡面を、瞬間移動で腕だけすり抜ける。


 巨大な舌を握り、捕まえたぞ。


「俺の右ひじ()()打て!」

「ハァッ! 『建国と支配の権能』!」


 太陽光線が走る直前。


 俺の右腕を通して、ゼタの魔力が竜の口内で炸裂する。


 バッチリ狙い通りだ。反射の鏡面をすり抜けた一撃が、竜の頭部をコマ切れにする。


 そして行き場を失った巨大なエネルギーが、俺たちを水平線の彼方まで吹き飛ばした。


――

三すくみ:鏡は『無限剣』に勝つ。『星の勾玉』は鏡に勝つ。ちなみに『無限剣』は瞬間移動しようがどこまでも伸びて届くので『星の勾玉』に勝つ、というポテンシャルがあるが扶桑景一郎の実力が備わっていないのでそういう使い方はできないぞ。結局は才能と実力次第だ。

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