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第八十一話

 甲板を蹴り上げ、そのまま垂直にPAのエンジンをふかして上空へ。


 PAはVTOL性能に極めて優れる。速やかな離陸、戦闘態勢は全兵装で最速を誇る。


 そのまま上空で戦況を見渡すと――


「うおっ! また霧かよー!」


 さきほど怪獣がせり上がってきたあたりに、濃霧が立ち込めている。


 キラキラと輝くのでただの霧ではなさそうだ。


「こちら扶桑! ヴィンセント、聞こえるか」

『おう』

「君の大好きな扶桑隊長が突入するので、誘導よろしく~(笑)」

『了解した。敵味方識別(IFF)の切り方を確認中だ。新城、やかましい扶桑機を撃ち落としたいときはこれか?』

『一つ左のスイッチだ』

「だはは~」


 通信で冗談をぶつけあいながらも針路クリア。


 ヴィンセントの『風の権能』がもくもくと立ち込める霧を払い、空中にポッカリと道を作った。


『鏡の欠片をばら撒いてチャフにしているようだ。突入時はレーダーに頼りすぎるな』

「了解~」


 すいすいといい感じに霧中を進む。ギミックダンジョンボスみてぇだなぁ~。


 やっぱ有能な部下がいると楽ちんだぜ。


 誘導されるがままに空中の道を進み、討伐目標の『鏡の竜』へとたどり着く。


「デッカい!」


 そんで眩しい!


 山のように巨大な竜は、すべての鱗に鏡面を備えており、反射光と海面からの照り返しでギラギラと輝く。


 デカすぎて呼吸や歩行(――まさか海の底に足ついているくらいデカいのか?)だけで大気が震えるし、そのたびに反射光がチラつく。


 ただ、サイズ差のおかげか気付かれていない。チャンスだ。戦はいつでも先手必勝。まずは一発。


「てや――っ!」


 ボボボボッ!


 と、バルカンを撃ち込んでみる。ダメだ。全然効いている気配なし。


 しかも撃ち込んだ弾は全部コッチに跳ね返ってきた。完全な反射。『鏡の竜』というのはまさにその通りの命名だ。


 せっかく新城達海上自衛隊の皆さんに頼んだのに、装備がボロボロである。


「いきなり穴だらけになっちゃッタ……」

『扶桑、あまりPAをボンボンと壊すな。高価なんだぞ。国民の血税で出来ている』

『無駄だぜ新城。この男、いままでで三機ぶっ壊してる』

『正気かね?』


 なめんなよ。ウクセンシェーナ家の個別依頼とかも含めると、七機だもんね。


 さすがにSランクのボスだな。


 遠距離の射撃は全部弾かれるか……。


「ならばッ!」


 直接攻撃はどうか。


 極限まで励起させた魔力バーナーを半身に構える。


 そのままフェンシングの要領で『鏡の竜』の瞳に突き刺し、さらに左手の平で握りを押し込む!


 と、いう一撃も、反射&逆噴射されたバーナーで手が焦げ落ちるだけ。やべぇ。


 打つ手、ないかも……。


 なんかさ。最近思うンだけど回復スキルって結局どう相手を倒して良いかよく分からないよね。どうしたもんかな。


『よう、扶桑隊長。調子はどうだ』

「やっぱ君の言う通り帰ったほうがいいかなー……」

『だから言ってんだろ。んで、次だが。試しに竜の頭頂部から……ーーッ! 隊長! ズムウォルト級に高熱源!』

「んお?!」


 えーっと、どれだっけ。その名前確か覚えたぞ。


 あれだ。角ばった奴。


『なんて隠し玉だ……射線から離れろ!』

「おお?!」


 ヴィンセントから送られてきたアラートに従い、慌てて竜から離れる。


 その次の瞬間。


 ギイ――――――ィィッ


 と金属の弦が引き絞られるような機械音が響き、そして竜の頭部に見たこともない速度で砲弾が直撃した。


 閃光。


 そして一拍おいて磁界のゆらぎ、着弾の衝撃がビリビリと伝わってくる。


 ただの艦砲射撃じゃない。砲弾の大きさはほどほどだったけれど、速度が尋常ではない。山一つ吹き飛ばすくらいの運動エネルギーだ。


「なぁにこれッ」

『大容量レールガンだ。これがアメリカ海軍の伏せ札か。あの艦は高出力の推進用電源を、兵装電力にも回せるからな』

「近未来だな! そんなもん作ってんのかよ!」

『実験段階のハズだがな』


 ズムウォルト級の船体を大きくしたのは、コンデンサや電磁気系の増設のためか。こそこそ秘匿して、もったいぶりやがって。


 真に最先端の兵器っていうのはいつだって、完成から公開まで時間がかかる。


 あとで知ったがこの砲撃はただのレールガンではなく、魔術的な炸薬と電磁加速を同期させた一撃。極めてハイレベルで魔術と科学を融合させたものだったらしい。


 隕石直撃くらいの威力はありそうだ。


「クソ、こんなもんあるならさっさと出せー! つーか友軍(おれ)が居るのに撃つなよ!」

『いや……これは……!』


 多少のことでは動揺しないヴィンセント・ミルド大佐が絶句している。


 俺もちょっとばかりビビった。いや、実はめちゃめちゃビビった。


 あれだけの一撃でありながら……『鏡の竜』は鱗に傷一つ付けられることなく、反射。


 撃ち込んできた射線をそのままソックリ撃ち返し、砲台を吹き飛ばしていた。


 砲台だけで被害は済んだズムウォルト級が、かろうじて横転を免れる。だがありゃあ戦線復帰は無理だな。


 それすらも。


 最新鋭の砲撃すらも(おとり)。目くらまし。


 ズムウォルト級へ向かって咆哮した竜の後頭部に、アメリカの象徴、ゼタ・ミーゼスが取りつく。


「『建国と支配の権能』」


 まばゆい光が、『鏡』で乱反射されながら周囲を照らす。


 人類最強の一撃が放たれた。


――

扶桑くんが壊したPA:北アフリカ戦線で二機、新ソビエト連邦の宇宙基地攻略で宇宙用三機、ベトナム解放戦線で陸戦用一機、汎用二機。一機あたり、おおむね第五世代戦闘機と同じくらいの価格。血税だぞ。

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