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第七十三話

 敵のミサイル発射システムに、棍棒(メイス)を叩き込む。


 落下しながらの一撃に、新ソ連製の発射台が爆散した。S300だか、S400だかいうヤツだ。


 どっちだろう。兵器って数字が多くて覚えにくい。数字が大きいほうが値段も高いんだっけ。


「上陸してからだいぶ進んだなー。これちゃんと基地中心に向かってんのかな」


 わからん。さっきから計器の調子が悪い。


 霧にそういう効果があるのだろうか。自分の位置情報や、新城達との通信も切れてしまった。視界も全然ない。


 これ半分遭難だろ……。


 ただ、基地中心の方向はわからんけれど――


「こっちだな」


 敵のいる方はわかる。


 強者によるピリピリとした気配(プレッシャー)。おそらくB程度のハイランク権能者がいるだろう。


 強敵だ。味方の上陸部隊と連携できない以上、俺が前に出て被ダメージ担当をしたほうがいいな。


 ドンドンと霧が濃くなるほうに向かってPAを飛ばしていると、


 ()()()


 と、視界の端の空気が揺れた。


「『霧の権能』」

「おっ! 居るやんけ」


 濃霧の中から男が一人。


 不敵な笑みを浮かべ、胡散臭くカールした口髭の男がこちらに手をかざしていた。


 とっさに反応した俺は、男の手から打ち出された白い塊を弾く。


 が、スカっと俺の裏拳を通り抜けた濃霧の塊が、こちらに直撃。


「お……? お? お? やばば、壊れる」


 バチバチと不吉な悲鳴をPAがあげる。


「くっそ、ヤベエ全部ショートしてる……!」

「愚かなウクセンシェーナの猟犬よ。我が『霧の結界』に単身迷い込むとは」

「あだーっ!」


 ドチャリ! と墜落。


 せっかく新城に貰った海上自衛隊用PAがズタボロである。電気系統から黒い煙を上げている。


「ペッ! ……やるじゃねえか『霧の』」

「恐れ入る。我がグランキン家に伝わりし秘術、とくとご覧あれ」


 男はペコリと仰々しく頭を下げた。


 でも俺のほうは墜落して地べたに、奴は十メートルくらい高いところからの一礼だ。まさに慇懃無礼。


 その芝居がかった男の姿を見て気づいた。


(こいつ、PAを着ていない)


 魔法使い同士の戦いでも、銃火器や文明の利器は積極的に採用される。特に火力の底上げには、伝統的な魔法杖よりも儀式・洗礼などを受けたアサルトライフルのほうが優れている。


 だがこいつは――


(マントと、長手の魔法杖だけ……か)


 おそらく大量生産品の、電子機器を満載したPAと『霧』は相性が悪いのだろう。なんかすごくショートするし。


 俺もヤツに合わせて装備を脱ぎ捨てる。


「クックッ、猟犬よ。貴様の戦力調査は完了している。腕力だけの三流魔法使い。その棍棒(メイス)一本でどこまでやれるかな?」

「ハッ、やってみなきゃ分かんねえぜ」

「分かるとも! 我がグランキン家に代々伝わりしこの『霧の結界』! 半径百キロメートルにおよび、脱出は不可能!」

「……ま、たしかに」


 基地の敷地をすっぽり覆うほどの広がりだ。かなり高度な術だ。こいつ強いな。


 でもなんで勝手に能力喋ってるの? ラッキー。めっちゃバカじゃん。聞くだけ聞こう。


「貴様の方向感覚を奪い! 通信機を奪い! 装備を奪い! さらに……」


 もったいぶって男は数拍溜めた。はよ喋れよ。


「さらに! この『霧』は貴様の魔力さえもジワジワと霧散させる」

「げッ! マジすか」

「魔力なし、棒切れ一つで私に勝てるかな?」


 そういうことか。こいつ、お喋りバカじゃない。考えてやがる。


 俺の全身にべったりと結露した『霧』から、魔力が霧散していく。


 ベラベラと喋って大して情報は渡さず、こちらの魔力が散る時間を稼いだのか。


 このままだと魔力切れでグッタリ行動不能になるな。短期決戦でやるしかない。


「いくぞ猟犬! そして死ねぃ!」

「うおっ!」


 しかも普通に魔法使いとして腕がいいし。バシッバシッと魔力弾を撃ち込まれて、脇腹がえぐれ、右耳は吹き飛ばされた。


「ははは、どうしたそんなものか! まずは貴様を殺し! 次に沖合の艦隊でも沈めてくれる――」


 ダン!


 と、踏みつけた地面が一気に遠ざかる。


 代わりに頭上にただよう男めがけて一直線。驚愕の顔の男に激突する。


 全力ジャンプで飛びかかって男の首を握りしめ、そのまま上空へ。


「がッ!? き、さま……ッ!」

「半径百キロだァ~? フカしてんね~、せいぜい十キロ弱ってとこじゃねぇか」

「かはっ!」


 『生還の権能』は肉体強化をしてくれる。その脚力で思いっきりジャンプすれば、小高い山くらいまで飛び上がれる。


 俺はその大ジャンプの頂点約五百メートルから、眼下に広がる『霧』を眺めた。その発生源の男と一緒に。


 こいつの敗因は一つ。


「お前、最初に霧広げるとこ見せちゃったろ。ダメっしょ、能力のスペックは隠さなきゃ~」

「ぐうっ、離せ……!」


 (恐らく自然現象としての霧と同様に)、この濃霧の高度は大したことない。せいぜい数百メートルなのだろう。


 沖合で見た。最初はドーム状に広がったが、その後は地面に這うように横方向にしか広がらなかった。


 その支配から逃れて上へ。つまり上空へ突き抜ける。


 使用不可(ショート)から解放された魔力バーナーを励起させ、


「やめろ! 分かった、私の負け――」


 ジィィイィイイイイ


 と男の首を焼き切った。


――

我がグランキン家に代々伝わりし『霧』:権能は原則、他者と被ることは無い。ただし、体質やダンジョンの相続により家中で引き継ぐ例もある。

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