第七十二話
急速に広がる濃霧に敵基地が包まれていく。
一番槍を譲ってもらったおかげで、俺はその様子をギリギリまで見ることができた。
砲台の位置は見えた。
高度を速度に変換し、PAのジェットエンジンを回してランダム軌道をとりながら、対地ミサイルをばらまいた。
「ふへへっ、先手は貰い!」
手ごたえあり。霧の向こうから着弾の音が聞こえる。
そのまま落下を続け、敵駆逐艦の艦橋を踏みつぶす。小回りの利くPAに、駆逐艦では反撃オプションがない。
「はっ! このまま一人で全部潰しちゃうぜ~」
『扶桑殿』
「お、新城さん。どーよ、先鋒は俺に任せてよかったっしょ!」
『ええ、あなたの初撃が効いたようだ。反撃が少ない』
「だっしょー?」
ヤバイ。俺が強すぎる。
もう一隻手ごろな敵艦を見つけ、土手っ腹をぶん殴って穴をあけて、バルカン砲を叩き込む。こうするとなんかメッチャ燃える。
大破炎上する敵艦を背後に、戦場を見渡した。
毎度のことながら雑魚狩りは超得意なんだよね。
「はい二隻目~」
『扶桑殿、警戒を。濃霧の分析結果が出た。電波や念波通信を遮断している、妨害系の権能のようだ』
「マジ?」
『霧の発生源を叩く必要がある。扶桑機は揚陸フェイズへ』
「了解、了解」
やっぱ雑魚ばかり狩ってたらダメだな。
こちらの狙いは包囲作戦なのに、通信を遮断されると面倒が大きい。一気に突入するか。
飛びあがって前傾姿勢をとったところで――……
霧が動きをみせた。
ドーム状に滞留していたのが突然、触手を伸ばすように何本も向かってくる。
「なんじゃァ~~?!」
その先端にバルカンを撃ち込んでも、手ごたえ無し。そのまま止まることなく味方の、新城たちがいる艦隊へ向かっていく。
「新城、なんで避けない! ……そうか、チィッ!」
味方の動きが妙に緩慢だ。
この霧、電磁波を遮断するとしたら。その伸びた霧を通り道にして、対艦ミサイルが進んでいたとしたら。
味方は検知できない。
基地で仲良くなった海自隊員たちの顔が浮かび、俺は霧の触手に突っ込むことを決めた。どれにミサイルが通っているか分からんけど。
「んー、たぶんこれ!」
山勘で入ったところに、ちょうど敵のミサイルとかち合った。ラッキー!
ドカン!
と、軍艦一隻にとっての致死量の爆薬が炸裂。PAの装備もかなり剥ぎ取られた。
かろうじて無事だった通信機で新城を呼び出す。
『扶桑機! どうした!』
「霧の道を通ってミサイルが飛んできてる。電波探知に頼ると死ぬぞ」
『ぐっ……! そういうことか』
母艦の長門が光学照準に切り替えて迎撃を始めた。やらないよりマシだが精度が低い。この精度では迎撃しきれないだろう。
俺も助太刀でバルカンをばら撒く。
電波探知は封じられているけれど、こっちには別の探知方法があるぞ。
味方の艦を背にしながら迎撃することで、ミサイルが必ず自分に向かってくるように位置をとった。これで『生還の権能』の危機感知が使える。
キン、と来たほうに向かって弾を撃てばかなりの精度で迎撃できる。
ただ……敵も手練れだった。
なかなか直撃できない俺たちを見て、霧の道をいくつも交差させ始めた。迎撃の選択肢が増える。追いつかない。
目の前でギリギリ落としたミサイル。その爆発の奥からも、もう一発来る。
『生還の』直感が走り、思わず叫んだ。
「新城、面舵だ!」
『面舵ッ、回避急げ!』
至近弾。
長門の機関部付近でミサイルがはじける。
全身でかばった俺越しに、爆発の余波が機関部を痛めた。
やべえじゃん。なんか打つ手ない感じじゃね?
「チ! どーすんの新城、じり貧だぞ!」
『扶桑、貴様は上陸して『霧の権能』者を叩け!』
「ハァ~~? いま俺が抜けたらアンタら死んじゃうでしょうが!」
『問題ない。迎撃が間に合う距離は掴んだ』
「!」
へぇ、やっぱ自衛隊って優秀なんだな。
転送されてきた分析結果には、霧の有効範囲・動作速度が載っている。仕事早い。結果から、敵ミサイル砲台との安全な距離も推測できるだろう。
『海上は艦隊戦力で持たす。行け!』
「へっへっへ、了解~~! 戻ってくるまで沈むなよ」
光学照準にも慣れてきたのか、少しずつ長門の迎撃精度もあがってきた。
新城の手際もいい。
「スイッ」と舵をとって、距離を保った。
「まぁ、これやるとPA部隊への援護がなくなっちゃうんだけど、帰る母艦が無いよりはマシか」
海自のPAに「先鋒は任せろ」とハンドシグナルを送る。
そして海面ギリギリまで降下。突撃するなら姿勢は低ければ低いほどいい。
諸島の少ないベトナム東海域は、沿岸まで波が高い傾向にある。今日の波高は1.5メートルってとこか。いい高さだ。
ジェットエンジンを全開に。
ジグザグに飛んで波を盾にしながら、俺は霧の中心へと突入した。
――
妨害魔法:魔法が一般的になってから、最も熱心に研究された分野の一つ。電磁波の通信妨害、光学的な位置欺瞞など。それを回避するために念波会話魔法が利用されたが、さらにそれを妨害する……と妨害と対策はいたちごっこの状態にある。
また更新できてうれC ありがとう運営感謝イェー