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第七十話

 ブリーフィングルームの正面モニターが輝く。


 画面以外、照明が落とされやや薄暗い部屋で。モニターの横に立ち、作戦指揮者の新城(しんじょう)光大(こうだい)一等海佐が発言を始めた。


「本作戦の開始にあたり。先ほどベトナム政府から正式な承認と、参加の申し入れがあった」


 日本自衛隊、スウェーデン国軍および北欧諸国軍、北アフリカからのエジプト、スーダン軍。軍服がバラバラの全員が、身を乗り出すような聞く姿勢をとった。


 ベトナム政府からの承認は、作戦の要点である。


 国土の東に長い海岸線をもつベトナムは、領海への接近、進入が必須。政府側の了解は不可欠だった。


「ずいぶんと渋られていたようですが、先方の見解が変わったのですか?」

「不明だ。ただ、上層部間でのネゴシエーションがあったのは間違いない」


 チラ、と新城がこちらを見た。気づかないふりをしておいた。


「PAの追加補給。スウェーデン、エジプト本国からの開戦の承認。各装備の運用マニュアルも、すべて揃った」


 何故か急にな、と新城が意味ありげに付け加える。チラと再びこちらをみたので、目を逸らした。


 逸らした先のヴィンセントがひそかに笑っている。


「なんで内緒にすんのよ、隊長。補給やネゴも武功の一つだろ」

「上司の言う通りにしてたらたまたま上手くいっただけだ。過大評価されたら仕事が増える」

「謙虚だねえ」


 コホン、と新城の咳払いがひとつ。


 私語は控えろと俺達を制して。


「これをもって作戦名(オペレーション)・ビンミンを立案」


 新城がモニターを指すと、ベトナム全土の地図が表示された。南北に長い、熱帯~亜熱帯の国土は長い海岸線を持つ。


 南側にベトナムの独立派。北には現状の植民地政策を維持したい新ソ連の基地。


 俺達はその海岸線の沖合に浮かんでいる海上基地。この基地ごと、新ソの基地に横付けする形で移動中だ。


 つまり味方は城ごと動いて、敵城を攻める。


「新ソビエト連邦軍は強力な機甲部隊を持つ。が、兵站に弱点を抱えている。これまでの独立派との戦闘で各地の物資集積地が損壊」


 ピ、ピピピッ


 と、地図上の新ソ勢力を示す赤い丸の輝きが、鈍くなっていく。破壊した拠点か。


「彼らはウラジオストクからここ東南アジアまでの物資移動に苦心を重ねてきたが、限界が近い。物資流通(ロジスティクス)の効率化のため、根拠地を一つに固めた」


 ピン


 と強調した赤丸で表示されたのが北部基地。


「これを陥落させれば、ベトナムの独立は成る」


 なるほどね。グエン・バン・タインが率いる泥沼のゲリラ戦は、決して無駄ではなかった。


 逃げ回るどころか、反撃して敵を硬直させる戦果をあげていたわけだ。俺達の目的を、たった一つの基地陥落に落とし込めるほどに。


 新城の説明は、背景から作戦の本筋に移った。


「作戦開始と同時に、海上基地ビフレストはベトナムEEZで艦隊を展開」


「長門型パワード・アーマー(PA)運用艦、長門が西進。PA部隊で敵の海岸防衛網を突破し、強襲する」


 俺が担当するのはここかなー。まぁ、ぶっちゃけ先駆けならなんでもいい。最初から最後まで前線で、いっぱい弾撃ち込むのが役目だ。


「続けて、ビフレスト基地からF-15編隊が発進。制空権を確保」


 航空自衛隊の士官っぽい人が了解した。PAが主力の今も、航空機がやる任務は非常に多い。


「基地機能を麻痺させたところに、南からはスウェーデンの海兵部隊」


 ひらひら、とヴィンセントが手を振って応じた。「任された」の意味。彼らの練度ならそつなくこなすだろう。


「西からは各国艦隊のミサイル攻撃。東からは現地ベトナム兵が呼応する手筈になっている」


 モニターにオブザーバーとしてしていた、グエン・バン・タインが頷いた。


 ふーん。ま、いンじゃねえの。


 俺は隣にいるヴィンセント・ミルド中佐に顔を寄せて、ひそりと聞いた。


「ヴィンセント、トールハンマーの申請は?」

「却下された」

「まじかぁ」

「市街地が近く、質量兵器の大規模破壊は上層部が嫌っている」


 敵の基地が一か所しかないなら話は早い。隕石を瞬間移動させてぶち込み、皆殺しにしてしまえばいい。


 ウクセンシェーナ家(ってか俺)が技術保有するSランク瞬間移動アイテムなら可能だ。


 トールハンマー。


 北欧神話最強の雷神トール、その一撃になぞらえた必殺兵器。隕石の連続瞬間移動による攻撃。……は却下か。一回だけ実戦でやったことあるんだけど、あのときも相手は人間じゃなくダンジョンモンスター。市街地どころか地下奥底のシチュエーションだった。


 まぁ、さすがに一般人が近すぎるわな。それも敵国ではなく、味方であるベトナムの人たちが近い。


 一撃ドカンは無しで、正面から殴り合うしかねえか。


「ただ、ま。俺はあんまり嫌な予感はしていないぜ、ヴィンセント」

「同感だ。なにせ――」

「「指揮官が良い」」


 ヴィンセントとハモって、モニターの前で作戦詳細を説明している新城へ評価を下した。


 PA部隊、各国の艦隊、基地ビフレストと戦闘機、スウェーデンのグリンカムビ隊、ベトナムの現地兵。よく惜しみなく配置している。


「全部の手札を揃えてぶっ込むのは悪くないぜぇ~」

「指揮官に必要な資質だ。()()()()()。逐次投入は作戦の成功率が落ちる」

「んー、難しく言えばそういうこと」


 へらへらと二人で私語をしていたら、その新城に叱られた。


――

ビンミン:ベトナム語で夜明け。

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