第五十五話
最近、会社生活が忙しい。
ダンジョンの採掘スキルの研修を受けたり。あとはプレゼン資料を作り、業務の方向性を決めることも増えた。
それに何より。
役員室の女上司どもをしっかり監督する業務も追加だ。
夜。
全社員が退社したあと。社長室の隣に密かに追加されたVIP専用休憩ルームにて。
楓が俺にプレゼン自己アピールをする。
ルールとして発表者は、ウルトラミニなタイトスカートで堂々と仁王立ち。どこも隠さずが原則。
また、待機している椿、眞帆、くろえらは、四つん這いでシーツの上で土下座している。『見える化』は基本なので、尾てい骨に各位の名刺を載せて。
素晴らしい待機態勢だ、よろしい。
んで。楓のプレゼンは、といえば。
「こっ、このように。私、九条楓のスリーサイズは年々増加傾向にあり、景一郎様の御子をいっぱい元気に育てるにっ、最適と考えますっ」
「ほほーむ?」
「いっ、以上で、報告を終わります」
「ん。おつかれおつかれー」
屈辱だ、と口をキッ結んでいる楓。だが、これをしないと夜に相手してもらえないので、毎日やっているのが可愛い。
財閥令嬢だの、ヴァルキュリャ隊だの、飛び級ハーバード院卒エリートキャリアウーマンだのは、我がままな性分が強いからな。親に甘やかされて育てられた分、こうやって性根から躾けるのが大事だ。
さて総評。
「んー、そうねぇ。どこから手を付けたもんかねぇッ!」
「……っ」
「分かりにくいよね? この資料。自覚あるでしょ、社長もさぁ」
ぺしぺし
と直立不動で講評を受けている楓の、胸元を丸めた配布資料ではたく。紙資料である。
ちなみにDX化が著しい君らはどうか知らんがねぇ。ここ夜の役員室では配布資料は紙! お茶は女が出す! 上の言うことには「はい」か「すみません」だ! バチクソにパワセクシャルハラが横行しているが、夫婦間のことなのでセーフ。
「これだと社長の胸囲の伸びしかわかんないよねぇ。手持ちのデータをテンプレートに当てはめるなんて、三流コンサルみたいなことをまーーァだやってんのか君はァ」
「はいっ、ごめんなさい!」
「他にも重さとか味とか重要なデータあるよねぇ。それが分かんないよねぇ」
「はいっ、すみません!」
「社長もこの仕事何年やってんの? プロとしてさあ。顧客つまり俺の、バリューを最大化するためにゼロベースでスキームを構築して、PDCAを回して、提案をハイクオリティにブラッシュアップしてさぁ。新しいバリューを常に創出することを忘れないでね? DAY1とは言え、これくらいはやってください」
「はいっ……参考資料を添付いたします……っ」
「ふーむ。Gカップの後半、か。片方で重さ二キログラムってところか。よろしい! 今後もすくすく成長するように」
笑顔で、青筋を立てながら参考資料の現物を差し出した楓。屈辱と羞恥でこちらを睨む。
『明日の昼のミーティングは覚えておけ』と顔に書いているが、無視だ。正直まったく怖くない。
楓も、他の三人も。夜はクソザコキャリアウーマンなので相手にならないのだ。昼は反撃でめっちゃシバかれるけど。
そうそう。
他の三人と言えば。
態度が悪くてお預けお食らった楓社長の左隣。秘書の椿はなかなか魅力的なダンスをプレゼンしたので、一回寵愛を恵んでやった。
ぐったりとシーツの上で腹這い。しばらくは起き上がって来れないだろう。小刻みに震えて「ひぐっ♥」と鳴いている。はしたないぞ。
「んじゃ、社長はそこで何が悪かったのか、がに股反省ポーズでよく考えてくださいね」
「くっ……! 本当に覚えていなさい」
「怖~い(笑) で。次は眞帆の番」
「はい。では説明させていただきます」
ぺラリ
と元カノ・今ヨメの眞帆が直立して配布資料の説明を始めた。こっちも俺の嫁にふさわしい、いい発育具合だ。
「このグラフは横軸が時系列で、縦軸が景くんの好感度です!」
「むむう」
「将来はもっともっと大好きになって貰えるように、がんばります」
「可愛い。すげえ分かりやすい」
即承認。
抱き寄せて、よしよしと撫でてやった。
ただ、この先日までの好感度は低すぎるな。ずっと愛していたぞ。朱書きで修正しておこう。
「え゛ー!? なんか、眞帆さんのときだけ評価甘くないですかー?」
隣で四つん這い姿を晒していたくろえが、抗議の声を上げた。
そんなことないぞ。ちゃんと審議している。眞帆が可愛いのをちゃんと採点したぞ。
ハァ~俺の元カノ今ヨメ、超可愛い。二度と離さん。
いったん放流していい女に育ったのは良かったが、育ち過ぎだ。油断していると他の男に取られるからな。完全に独占して絶対に離さん。
「いや、絶対眞帆さんだけ評価甘いですよぅ」
「甘くない、甘くないぞ」
「景くんって呼び方もなんか怪しー。え、なんか隠してます?」
「隠してない隠してない」
「ふーん。チッ、こうなったら……」
くろえが「奥の手だ」と言わんばかりに、声色を変えた。
「ココアもぉ、景一郎くんの承認欲しいなー♥」
「えっ、可愛い。天使かな?」
「ハァ? ちょっと、景くん。なんで今ので私のキスよりもそっちに集中するんだい? ココアってなに?」
「いっ、色々あるのだなこれが」
「なんか隠してる?」
「隠してない隠してない」
眞帆が両腕で抱き着いたまま、頬を膨らませている。可愛い。マジ嫁。
「あ、よそのVTuberからコラボ依頼来た。へぇ~男のVか~。受けちゃおっか――きゃ♥」
「それもダメ!」
こっちも嫉妬をかきたてようとしているのが可愛い。マジ俺のアイドル。
忙しい。忙しいぞ。
眞帆を愛しつつ、くろえも捕まえて離さない。
椿も頑張って回復して物欲しそうにすり寄って来たし。
さすがにがに股で立ったまま反省させてる楓も、相手してやらないと可哀想だ。
やはり日本のサラリーマンは二十四時間働きっぱなし。忙しくて困ったなあと思った。
――
ここまでの獲得権利:
ハード面ではいくつかのマジックアイテムを獲得しているが、ソフト面でも下記を獲得。
・ウクセンシェーナ・グループ人事権(一章)
・グリンカムビ隊指揮権(二章)
・エジプトのハイランクダンジョン採掘権、スエズ運河領有権、現地企業の優先株購入権(二章)
・九条家(九条ホールディングス、九条採掘やそのほか子会社含む)の人事権 ←New