表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/80

第五十一話

「景一郎、お茶おかわり」

「こっちを先に」

「……あ゛?」

「何か」

「私の方が先だが。茶も、妻になったのも」


 爆心地のような会合が始まった。始まってしまった。


 セシリア・ウクセンシェーナ。


 ウクセンシェーナ・グループの次代トップ。既に安定期に入って膨らんだ腹を、見せつけるように撫でている。「お茶はカフェインレスで」と勝ち誇った一言。俺の子はマウント取りの道具ではないぞ。


 九条楓。


 九条ホールディングス、そして創業家である九条家の次代トップ。ヤマタノオロチ討伐と、そのSランクアイテム確保で大きく評価を上げ、不動のものとした。現当主高齢につき、すでに全権を確保。


 その二人の会合。


 ビギリ


 と濃密で苛烈な魔力(オーラ)のせめぎ合いに、ティーカップが耐え切れず悲鳴をあげた。かわいそう。


 どちらも『地球上で自分が一番』と自負している二人。絶対相性悪いに決まってるじゃん。


 俺の部屋で。


 財閥令嬢の二人には似つかわしくない、みすぼらしいワンルームアパートで。


 お互い椅子に腰かけ、向かい合い。顎を上げて相手を見下している。俺の部屋なのに俺の椅子は無い。


「フン、一番目の妻とはこいつか。そんな気はしていたが」

「フ……。これが景一郎の、新しい妾候補見習いですか」

「ああ。この人の会社の上長で、最終的な意思決定者で、生殺与奪権を持つ者だが?」


 え。そこまで俺って楓社長に人権握られてんの? 初耳ですが。


 てか、やっぱり。二人とも面識はあるんだ。


 上流階級の娘同士だし。社交界で会ったことはあるらしい。そもそもウクセンシェーナと九条はダンジョン開発関連で提携相手。互いを知っているのだろう。


 仲はすごく悪そうだけど。いやもっと言うと、俺が二人と知り合う前から、元々なんか仲悪そう。


 二人とも外面は良く保つ方だし、ビジネス上はうまくやっていたのかな。


 色恋がからむまでは。


「聞いているぞ。我が国、日本のSランクマジックアイテムを無断で持ち出したな」


 楓が財閥の長の顔になった。冷徹で、利益を他所には回さない。為政者の顔。


 これはセシリアも痛い所を突かれたな。


 ってか君、もともと産業スパイで違法盗掘の犯罪者だからね。なんか偉そうな態度にすっかり誤魔化されてるけど。


「魔法関連輸出規制法に違反している。速やかに返却せよ。あと景一郎本人も返しなさい。この残飯食らいのウクセンシェーナめ」

「フッ、フフ。持ち出した? 国で一番いい男に見切られた、の間違いではなくて? 景一郎にはスウェーデンの市民権を速やかに付与する予定です。彼はもう我が国のもの」

「あ゛ァ?」

「あん?」


 ヒェエエ~~~~~~ッ?www??w ^∀^;


 仲悪いってレベルじゃねぞ!


 天敵じゃん。よく業務提携とかしたなコイツら。


 ちなみにここでのSランクマジックアイテムとは『星の勾玉』のことだが。ヤマタノオロチ討伐でもSランクのアイテムゲットしていた。


 『無限剣』。


 と、名付けた剣だ。


 あの爆炎が上がるボスエリアにて。ヤマタノオロチの尻尾と尻尾の間から零れ落ち、俺の手元に収まった。今は俺の右手の甲に刻印されて収められている。


 本質化エッセンシャリゼションと呼ばれる処理をしていて、出したりひっこめたりできる。(――貴重なアイテムはそうやって、魂に刻んでしまっておく。楓の名刀『桜橘』とか、俺の『星の勾玉』とかもそう)


 剣の方は、なんかいっぱい魔力出る剣だ。


 魔力バーナーと何が違うのかよーわからんけど。楓たちは、


「魔法項を加えた修正熱力学第一法則を破る」


 とか、


「永久機関の根源」


 とか、


「ただでさえ魔法エネルギーの躍進で青色吐息の中東石油会社が息絶える」


 とか難しいことを言っていた。すごいアイテムらしい。理系は苦手だ。賢い妻たちのほうが上手く扱えそうなので、適当に貸してあげよう。


 さて、そのマジックアイテムの輸出管理に関する議論がエスカレートしてきた。


「ま。そうやってアイテムを輸出したということは、な。景一郎は日本など放って、見切って、スウェーデンを選んだということだ」

「見切られてなど、いない! この人は日本生まれの日本人だ! ね? 景一郎くん」

「ハッ。引き留めているがなァ。お前ら、この人を時給四百円で働かせていたらしいな」

「う……!」

「ふざけているのか? よくも私の夫を奴隷扱いしたな。恥を知れ。今さら引き止めて、妻になるなんてもっての他だ」

「そっ、そーだそーだ! 時給あげてくれ!」


 セシリアもたまには俺のことを気にかけてくれる。


 良いこと言ったぞ。もう百円くらいあげてくれ! 五百円台がいい!


「ち、違う……! この待遇はその。そう、この人の……そう、成長を促すためのもので」


 えっ。そーだったの?


「そうなのよ、景一郎くん。あなたを昇進させて、役員にしようという話も上がっているの」

「役員? 役員って正社員スか?」

「正確には正社員というか、社員ではない。会社のトップ層として、経営に責任を持つの。株も所有できます」

「え! 社長、俺を正社員にしてくれる……ッて! 昨日言ってたッス!」


 楓と枕を共有しながら。


 正社員になって、車を買って、ドライブデートするのが夢だ。と伝えたら、昇進を考えると言ってくれた。


 なのにウソってこと? ひどい。


「いや、だからね」

「正社員がいいッス! な、なんでェ~~? また、評価下がるようなことしちゃった? お昼のプレゼン資料ダメでした?」

「あれは割とダメだったけど……、そうじゃなくて。んん、まあ、正社員がいいならそうしましょう」

「シャオラ!」


 あんなにいがみ合っていた二人が、なぜか可哀想なものを見る目で目線を向けている。


 なんでじゃ。昇進嬉しいだろ。


「まぁ、いいでしょう。こうなったら、九条の。勝負だ」

「ええ。ウクセンシェーナと九条の一騎打ちといきましょうか」

「妻として責務を果たせるのがどちらか」

「世界の支配者はどちらか」

「一晩かけて、この人を満足させた方が」

「「真の妻で」」


 こうしてウクセンシェーナ対九条、巨大財閥同士の決戦が始まった。


……

…………

………………


 なんで学習しないんだろ、この令嬢たち。


「……♥! ♥!」

「う♥ くっ♥!」


 夜の勝負で決着をつけるとか言ってたけど。


 君らが勝者になるわけないだろ。

 

 二人ともワンパンで。シーツの上で仰向けのまま陥落。両手を上げて降参している。


「こ、これはマズイ……! くっ、オ、オリヴィエ、聞こえますか」


 セシリアは援軍が必要と判断したのか、スマホで副隊長に指示を飛ばす。


「こうなったらっ、ヴァルキュリャ隊の候補生も動員しなさい! とにかく九条に勝つのを優先、ええ、そうです。三百人×三学年を全部、この人に捧げてっ。なんとしてもウクセンシェーナが主導権――はひ!♥ ごめんなさい! ちゃんとサボらずお相手します!♥」


 それを受けて楓も援軍を呼ぶようだ。


「塚原さん!♥ こ♥ これほどとはっ。と、とにかくウクセンシェーナは数で来る! こちらも、役員室メンバーはすべて。あ、あ、あとはっ、女性社員の人事情報も全部差し出してっ♥ そうっ♥ 既婚も未婚も全員妾として捧げて! なんとしても九条に引き止め――ひっ!♥ 申し訳ありません! お躾、ありがとうございます! ありがとうございます!♥」


 二人とも。俺の相手をしているときによそ見して電話とはいい度胸だ。


 まだまだ躾が足りないな。


「んじゃ。勝負は俺の勝ちね。二人も財閥も、全部俺のモノだから。仲良くするように」

「「はいっ♥!」」


 ウクセンシェーナ対九条。


 世界規模の富の行方を決める頂上決戦。勝者は扶桑ということで、めでたしめでたし。


――

『無限剣』:今回のクリアアイテム。使い手が調整して安定状態に保てば、無限にエネルギーを取り出せる。魔法項を加えた修正熱力学第一法則を突破できる、永久機関のキーアイテム。だが持ち主の実力よって、単位時間当たりに取り出せるエネルギーは変動する。いまのところちょっと強めのエネルギー剣。


本質化エッセンシャリゼション:単純な物質は破損・紛失が避けられない一方、マジックアイテムはこの処理を行うことで術者の心の中にて保管・修復することができる。出し入れ自由だが、処理自体には相当のリソースが必要。そのリソースを費やしても構わない貴重品などに処理が施される。

事後的な表現を研究がんばります。


本章のボスはとっくに倒しましたが、もう少し続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。 評価・ブックマーク・感想お待ちしています!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ