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第三十六話

 セシリアを抱きしめて、婚姻を成立させる。


 つい先ほどまでは厳正な雰囲気だった妻も、腕の中で撫でたらあっという間に柔らかくなった。


「でっ、では、正式に。これで私と景一郎は夫婦になりました」

「うん。改めてよろしくね」

「ええ。これからもしっかりウクセンシェーナのために働くように」

「はぁい。一生お仕えします」

「フン、殊勝でよろしいっ」


 セリフとは裏腹に心底嬉しそうな表情。いい女だ。毎回これだから、愛情を伝え甲斐がある。


 もともと生涯を誓い合った仲。


 だが正式な儀式は済ませていなかった。正式に、というのはつまり、親族にも認められたという意味。


 婚姻を認めたセシリアの母・カタリーナが、新婦側の嫁入り道具や持参金を持ってくる。


 額面のゼロが多すぎて数えられなかったので、お金の方は無しで。セシリアお手製の食器とか調度品は貰っておいた。ちょっと気位が高いデザインだが、これに見合う男になれるように頑張ろう。あとで聞いたらミスリル製で、俺の生涯賃金では針一本すら材料費を払えなくてひっくり返った。


「ご当主。栄えあるウクセンシェーナ一族の末席に加わること、お認めいただけますか?」

「よかろう。正式に婿として迎えることを、認める」

「ありがとうございます」


 言葉や、形だけの儀式ではない。魔術的にも重要な意味を持っている。カタリーナの『契約の権能』にて、セシリアとは生涯添い遂げることが確定したのだ。


 こうして義母カタリーナも認められてよかったなあ。


 よかったよかった、ハッピーエンドです。


「んじゃ、次」

「はいっ」

「うー……」


 嬉しそうなカタリーナと、名残惜しそうなセシリアが位置を変わる。


 北欧神話式の、祭司の位置へセシリアが。俺の腕の中へカタリーナが移る。


 もう一つの結婚式も、一緒にやってしまおう。


 教会ではなく、参列者もおらず。俺と、セシリアと、カタリーナの三人だけ。深い森の奥で。


 ウクセンシェーナではキリスト教よりも北欧神話を信奉している。十字架はないし、牧師や神父も居ない。あと何のモチーフかしらんけどさ。ハンマーとか飾るの怖ない? なんで北欧の連中は時々暴力的なんだ。 


 そんなちょっと恐ろしい飾りつけも、本日二回目なら慣れた。


 儀式は進み、誓いの言葉を告げる。


「一生お仕えすることを誓います、カタリーナ様」

「よっ、よろしいっ。では、ウクセンシェーナの入り婿となることを認める」

「あれ? もう入り婿だけど、いいのかなぁ。いいよね。当主本人がOKって言ってるし」

「うう……記録にはどう書けば……」

「あ、それも誓っておこうか。ほら、リハで言った通りに」

「うっ。……カ、カタリーナ・ウクセンシェーナはっ」

「はい」

「未亡人のくせにっ、娘婿にドハマリしたと後世の歴史家にバレバレになることを承知でっ、生き(イキ)恥晒しながらっ、景一郎様の婿入りを家系図や正式文書に残しますっ。誓います!」

「よろしい」


 Wピースでキメたカタリーナを抱きしめる。


 セシリアに、ヴァルキュリャ隊、それにカタリーナ。仕える主人がドンドン増えるな。柔らかく熟し切った腰を抱え、愛の言葉を交わした。


 祭司役のはずのセシリアが張り合って俺の腕にすがったので、儀式はこれまで。


 ご主人様たちの要望に応えることにした。


……

…………

………………


 森の奥。


 婚姻の儀式のための小屋。


 ウクセンシェーナ一族の結婚をいままで見届けてきた、神聖で由緒ある場所で。


 花嫁姿のウクセンシェーナ当主と、次代当主が腰を高く掲げている。前屈して頭よりも腰を高く。ただし。俺の短い脚、低い腰と合わせるように緩やかに膝を曲げること。その分、更に頭を低くすること。


 末席の入り婿が指示したことを、よくこなしている。


 交互に味わっている間も、お互いに切磋琢磨していい感じだ。いい勝負だぞ。最高の(メス)を目指してがんばってくれ。


「ふー……っ♥ わ、カタリーナ(わたし)のウクセンシェーナ・グループのTier0(ティアゼロ)株式、五十パーセントは、その……全部景一郎様に差し出そうと思う。なので、次は私の番――」

「母様ずるい!♥ セシリア(わたし)は四十パーセントしかないのに!」

「ふっ。序列を守りなさい、セシリア」

「そもそも! 母様の株式は、いずれ私が相続する。法定相続分で半分は私が権利を持っているのですよ。勝手に動かさないで――」

「それはお前が一人っ子の時の話であろう。いずれと言わずすぐに、景一郎様と――」


 相続議論が白熱しているなあ。


 ウクセンシェーナ・グループは世界最大規模の財閥だ。


 その頂点。


 グループ企業はそれぞれ、格や資本関係によってTier1、Tier2、Tier3……と位をつけて呼ばれる。Tier1の公開株が一番上と世間では思われている。


 が、一族しか保有できない本当の頂点。非公開株。


 グループ全体の資本関係を確実に統治する、Tier0(ティアゼロ)と呼ばれる企業の株式が、母娘丼で次はどっちの順番かの喧嘩に使われるとは。


 グループ企業の社員の皆さんも泣いちゃうだろ。


「あー、二人とも」

「「はいっ♥」」

「俺、株式とか分かんないから。不動産とかも。だからそういうのは要らないよ」

「むう」

「フッ、そう! そうです。景一郎はそういう男なのです。何も知らないのですね、母様」


 君もついさっきまで、金にモノを言わせて千六百兆円くらい差し出してたけどな。


 うーん、やっぱ金より愛情だよね。


 良いこと言った。そもそも君らが持っているものはどうせ俺のもんだし。俺が持っているより、君らの方が運用で増やせそうじゃん。頭いい女を嫁に貰うと助かるなあ。


「株式も、不動産もダメ……? ダンジョン保有権も、美術品も断られたし……」

「他に何があるかなー」


 悩んでいるな。


 なかなか俺が持参金を受け取らないので、二人とも四苦八苦しているようだ。


 ちなみに最初の一回は、ヴァルキュリャ隊候補生(入学:三百人/年)の宿舎合い鍵(マスターキー)を差し出したセシリアが勝った。そうそう。こういうのでいいんだよね。


「うう、では、では――……! 我が『契約の権能』にて、人生を捧げることを契約に残そう」

「おぉっ? よさそう」

「それも人生一回ではない。死後の世界(ヴァルハラ)に旅立ち、生まれ変わった後も!」

「そんなことまで契約できるんだ。カタリーナすごいや」

「はいっ♥ よかったら、権能の一部貸そう。好きなように私を扱う契約文を」


 そう言ってカタリーナは『契約の権能』の力を羽ペンに分け与え、俺に渡した。


 うーんそうだな。取りあえず生まれ変わっても全細胞が俺のモノで。代わりに気が向いたらカタリーナに愛情を注ぐって契約にしておこう。カタリーナも合意の欄へ嬉しそうにサインしている。うむ、喜んでくれてよかった。


 どうやらカタリーナの『契約の権能』は、魂に刻むものらしく。


 人生一回どころか二回でも百回でも捧げられる、非常に強力な権能のようだ。


「早速、百回ほど人生を捧げるのでっ♥、次は私の番――……」

「では私は千回」


 次の相手はカタリーナの番と決まったかに見えたが、一人娘(セシリア)が待ったをかけた。デッドヒートだな。前屈し、横並びになりながら腰を押し合って、俺の目の前を取り合う。いい勝負だ。


 セシリアは自分の分の契約書にゼロを一個書き足し。母親の尻を自分の尻で追い払った。


「な! で、では、私は人生百万回! この程度、景一郎の妻なら覚悟して当然――」

「十億」

「一兆!」


 母娘の張り合いがまた始まる。


 ゼロが三個ずつ増える人生貢ぎ。


 キリがなさそうなので。とりあえず一千兆回ずつとして、二人の腹の刻印に数値を追記しておいた。


――

ここまでの獲得アイテム:

ダンジョン由来…『星の勾玉』

妻由来…『死と戦争の剣』『契約の羽ペン』

ここで第二章完結です!

ここまで読んでいただきありがとうございます。

また、たくさんのブックマーク・評価・感想も非常にありがたいです。


とてもモチベが出るので、また第三章でもお付き合いいただけたら嬉しいです。

(第三章でも雰囲気やエンディング方針は同じです。)


あらためて、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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読んでいただきありがとうございます。 評価・ブックマーク・感想お待ちしています!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公が急に調子乗った感じなのが非常に気になる章でした。
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