第二十六話
無線からヴィンセント・ミルド少佐の声が聞こえる。
彼は狙撃部隊を率いて援護に回っている。俺は最前線に立って、敵を引き付ける役。
全体を見回せるのはヴィンセントのほうなので、最新情報を貰った方が良い。
『扶桑隊長』
「あいあい!」
『燃料と残弾は?』
「だいぶヤバイなー。でもこっちは大体全部倒したぞ」
『……敵の戦車大隊が居たはずだが……』
「居たけどもう居ない」
砂丘の頂上から見下ろす。
眼下には破壊された敵戦車や車両が転がっている。まだ進もうとする奴はいない。完勝だ。
ただ、主力=敵の権能者を見つけていない。
もう少し南東の方か。
そう伝えると、ヴィンセントは局面の移動を具申した。
『了解だ。隊長が今いるエリアは別部隊で押さえる』
「俺はどっちいけばいい?」
『味方の高速艇が南下している。そこで補給してくれ』
「オッケオッケ」
『その後は隊長の火力を効かして攻勢に移る。敵の権能者にも当たってくれ』
「イェッサ!」
うーん、この指揮系統。やっぱ隊長はヴィンセント! 頼りになる男だ。
ありったけの弾丸や対戦車ミサイルをぶっぱなし、敵が沈黙した隙に反転。
背中や脚部に取り付けられた熱・魔力複合ジェットエンジンをふかして一気に離脱した。
パワード・アーマー。
と、呼ばれる比較的新しい兵器だ。略称はPA。
ライダースーツみたいに鎧を着こみ、動力アシストされながら四肢で戦闘を行う。全身に推進器を備え、複雑に飛び回ることが可能。推進機能は念動力で念じただけで動くようになっている。権能者や、それに準ずる魔法使いの戦力アップに使う。
日本のとあるバカな重工業メーカーが、
『権能者ってさ~、戦闘機の操縦桿握らせるよりも魔法使わせた方が強いよね~。作ってみるか~』
と思い付きで作ったらマジで強かった。
四肢を自由に使えると、魔法を使いやすい。
急速に類似品が広まり、今や戦闘機、戦車、ヘリなどと合わせて戦場の顔。ある程度のランクの権能者が着れば、戦局を変えるくらいに強い。ヴァルキュリャ隊が着たミスリル製PAとかは、戦術核を凌駕するレベルで敵に警戒される。敵国が泣いて謝る。
でもあの子たちが居ないから、三下の俺がヒーコラ働かないとな。
「ええと、高速艇、高速艇……あそこか!」
俺はエンジンを巡航速度に回し、四十ノットで進むヴィタ型高速艇に後ろから追いついた。高度低下。二十メートル、十メートル。
着艦。
この兵器のいいところは、人が立てるスペースがあれば垂直離着陸ができること。それにコンパクトサイズなので、船が小さくても補給が簡単だ。大掛かりなカタパルトなども不要。
待ち受けている整備兵も少数で済む。着艦と同時に補給作業に突入する。
無線を通して整備兵が難しいこと言っていたので、
「うーん、わからん。とりあえず全部のせ」
って言っておいた。
なんか、燃料の組成とか重量バランスとかで色々チューニングできるらしンだけど。オススメで。
『隊長! ありったけ載せますよ!』
「はーい。どんどん積んで。対戦車ミサイルはあるだけよろ。全部撃っちゃった」
『了解!』
『燃料、Eパターンで混合。給油完了まで三十秒』
『制空権は確保している。対戦車・対権能者装備を優先』
『マジで全部で三トンくらいありますからね! ホントにありったけ載せますからね!』
「はいはーい」
バルカン砲に加え、携行用の対戦車砲も両手に一門ずつ。
五十台規模の戦車・装甲車を撃破可能な弾数。それを自動装填するサブアームを背負う。
念動力で操作する自爆ドローン十機。軍用魔力バーナー二本。これら総重量三トンを、音速でぶっ飛ばせるジェットエンジン三基と増設燃料タンク。
それらすべてをアーマーとして着こむことで、人間火薬庫が完成する。
ゴテゴテだ。ちょっと盛り過ぎ。
シルエットは隕石に近い。
普通の権能者ならもっとスマートな人型シルエットなのだが。俺は才能がイマイチなので、火器を盛るしかない。
『燃料・弾薬、補給完了しました。扶桑隊長、発艦よろし』
『ヤベエわ隊長。なんで立ってられんの?』
『重量バランスを弾薬で合わせたのは、さすがにヤバかったかなァ。隊長、撃てば撃つほど左に傾くんで気を付けて!』
「重ぉーいぞ」
『船は最大戦速。進路東へ』
『五十キロ東に敵の権能者との交戦情報あり。PAを着ている模様。これの撃破を最優先』
「りょりょ」
『扶桑隊長、発艦!』
バシン!
と甲板を蹴り上げながら垂直発艦。
ベクトルを真上から徐々に東に。それと合わせてエンジンを全開まで回す。
音速を越えての飛行。いや、翼もなにもない鉄の塊をぶっ飛ばしているだけだ。飛行と優雅に呼んでいいものだろうか。
全身ミサイルみたいなもんで、推進と呼んだ方がいいのかも。
ぐんぐんと加速し、陸地へと到達。後方には大量に巻き上げられた砂ぼこりが舞う。
超低高度で敵の警戒エリアに侵入し、先頭の装甲車両に携行ミサイルを叩き込んだ。
――
各話の最後にこの解説欄を載せていますが、マジで流し読みでOK。
パワード・アーマー:略称PA。パワーアシストスーツの軍事発展版。権能者・魔法使いを軍事転用した形の一つ。拡張性が高く、個人の権能・魔法系統に合わせてチューニングできる。
扶桑景一郎のPA:パワーアシスト機能をサブアームとして移設。各武装を素の腕力で持つ代わりに、サブアームによる搭載量・装填速度UPのチューニングしている。本来は作戦シチュエーションによって弾薬数等を調整するが、扶桑景一郎が毎回全部のせるので総重量は三トンを超える。
権能者と魔法使いの違い:権能を持っていると権能者。一般的な魔法を扱える者は魔法使い。権能者は全人口の数パーセント。魔法使いは石投げれば当たる程度に多い。
権能と魔法の違い:じゃあ権能と魔法は何が違うんだよ。って、もっとややこしいけど、権能は世界で一人しか使えないダンジョン由来のもの。魔法は誰でも使えるように原理が一般化されたもの。例えば『生還の権能』は扶桑景一郎しか使えない。念動力は彼含めて大多数が使えるコモンな魔法。魔法の使い方はYoutubeとかで解説されている。
全然ダンジョン潜らなくて草