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第二十二話

二章です。

引き続きよろしくお願いします。

 ざらららら――と、砂に混じって大量の薬莢が流れていく。


 北アフリカ。サハラ砂漠。


 このエジプトの地では軸足が砂にとられて、踏ん張りが効かない。


「お、おわわ~」


 俺――扶桑景一郎は、バルカン砲を振り回しながら砂丘を滑り落ちた。


 もともと乾いていた口に砂が入り、ますます乾いてしまった。視界が反転するなか、とにかく敵が撃ってくる方に弾丸をばら撒く。


 射撃音に混ざって耳元で無線の声が聞こえた。


「隊長。扶桑隊長! 応答を」

「はいはい、聞こえてるよ――……ワギャー! わ、わァ、なんかすげえ撃たれてる! 撃たれてるぞ、少佐」

「はぁ……。単独で突出し過ぎです。後退してください」

「後退! みんな後退だってよー! 後退だー!」

「アンタだけだって。そんな遠くにいるの。あ、敵弾注意」

「えん?」


 ボォオン


 と至近距離に着弾。耳が一瞬遠くなる。


 どうにかイヤホンを付け直し、無線から聞こえる声はウクセンシェーナ・グループ所属の味方部隊。


 俺はその応援として参戦していた。


 普通の日本人サラリーマンだったんだけど。いろいろあったのだ、いろいろ。話せば長い。


「扶桑隊長、これ何回も言っているけど。味方部隊は十分後退しています。あなたも下がってください」

「下がるって、陣地どっちだっけ」

「現在地からまっすぐ北です」

「北って」


 どっちだっけ。


 こう言うといっつも無線の相手――ヴィンセント・ミルド少佐に笑われるので、あんまり言いたくない。少佐はこの部隊の古参。戦場は慣れっこの、根っからの軍人だ。


 彼や他の部隊員は同僚だが、新参者でいきなり隊長になった俺を良く思っていない。


 ミスをするとまた笑いの的だ。


 この一カ月弱、部隊から歓迎されていないのはよく分かっている。


「えっと、北、北。こっちかな~ァ。たぶんこっち」


 退路に向けて射撃開始だ。


 手持ちの火器を向け、照準器(サイト)に魔力を込める。


 魔術的な近代化改修を施された銃砲は、手で最終照準をしない。この照準器に魔法石的なものが取り付けられていて、グッと念じると勝手に銃口が向く。


 いわゆる念動力(サイコキネシス)の応用だ。


 夢の無いことに。サイコキネシスで物質を飛ばすよりも、サイコキネシスを銃の照準につかった方がより効率よく敵を倒せるってわけ。剣と魔法のファンタジーとは縁遠いぜ。


 向けた先に弾をたっぷりと撃ちこむ。


 そのまま突撃。一気に突破して帰還といこう。


「待った、隊長。扶桑隊長」

「あい」

「そっち南。めっちゃ敵陣」

「アレェ?!」


 逆じゃん。


 急制動して、またしても砂丘を滑り転がり。


 砂丘というのは遠くから見たらちょっとした上り坂という感じ。だが、こうやって立ってみるとサイズ感が思っていたよりずっとデカいことが分かる。


 スキー場の上級者コースくらいの落差がある。


 ごろごろと転がり落ちる様は、うーん、命をやり取りする戦場には相応しくない間抜けさだ。


「ヤバイぞ隊長。包囲される。とにかく離脱を」

「ちょ、ちょま、って―― ワぁん!」


 ミルド少佐の無線に応答した瞬間。あたりに大量の煙幕(スモーク)がばら撒かれた。思わず足が止まる。しまった、目くらましだ。


 こちらの突撃と火線が緩んだ一瞬を突いて、敵兵一人が突撃して来た。


 速い。


 この突撃速度。Cランク以上の権能者か。もしくはそれに相当する使い手。


 重火器を振り回したらエイムが追い付かない。すでに交戦距離はクロスレンジだ。


 白兵戦で潰すしかない。


「こいつッ――……ウォォォオオッ!」


 ビシュゥウ


 と肉の焼け焦げる音が鳴った。


 軍用『魔力バーナー』を抜き放ち、出力を全開。左下から斜め上に、居合の要領で薙ぎ払う。瞬間的に二千数百度まで到達した刃先が、敵兵の胴をミリタリーアーマーごと焼き切った。


 一応、剣と魔法のファンタジー? だな。


 コウ、と高く鳴るバーナーの刃を戻す。突っ込んできたのは今の一人だけらしい。


 部隊の中核がやられたからか、包囲する敵の動きも鈍い。これなら離脱できそうだ。


「はぁあぁあ。危ねぇ~。勝ち~。離脱しま~す」

「隊長、そっち南。敵陣」

「うぇぇ……」

「日が落ちるまでには帰ってこいよォ」

「ひぃん」


……

…………

………………


 北アフリカ戦線。


 エジプト・スーダン対エチオピア・ソマリアを対立軸としつつ、周辺諸国や支援する超大国を巻き込んだ戦場。


 なんでこんな所に一般平凡リーマンの俺が居るかというと、複雑な事情がある。


 ある日。


『景一郎。来なさい』

『へいっ、セシリアさん』

『ちょっと北アフリカがきな臭いから何とかしてきて。その後は中東と、東欧と、朝鮮半島と、北極海ね。あとヴァチカンとポリネシアも怪しい。全部何とかしてきてください』

『俺一人でェ?』

『ヴァルキュリャ隊が一人残らず戦えなくなったのは、誰のせい? 行きなさい』

『……はぁい』


 こんな塩梅で嫁さんに命令された。


 ええい、なんて失礼な。ガツンと夫の威厳を見せつけるべきかと思ったが、俺は優しいのでやめておいてやったのだ!


 嘘だ。美人だけど超怖い嫁さんなのだ。


 セシリアとヴァルキュリャ隊は強引なダンジョン接収をしてきたが、あれはあれで地域の紛争を抑制していた。抑制というか、武力で全部解決してきた。だいたいセシリアのグーパンチで敵基地は壊滅し、取り巻きのカツアゲで敵勢力は武器を捨てた。


(一個艦隊に相当するAランク権能者が、十人も二十人もいるから当然だけど……)


 彼女たちがにらみを利かせていると、その地域は平和。


 だけどそのヴァルキュリャ隊はメンバー全員、産休で活動を停止している。


 節操無く手を出しまくった(げんきょう)が、セシリアたちの代わりに寝る間も惜しんで働いているという次第。


 おかしいな。


 ハーレムハッピーエンディングだったのに。人生にエンディングは無い。


――

北アフリカ戦線:エジプト・スーダン連合vsエチオピア・ソマリア連合の戦い。ナイル川の水利権を巡った小競り合いが、複数国を巻き込んだ戦争に発展した。ヴァルキュリャ隊の活動休止に伴い、戦線激化の兆しがある。

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