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第二十話

 扉を開けると、ヴァルキュリャ隊のメンバーが全員そろっていた。


 正確には隊長であるセシリアを除いて。でも他は全員勢ぞろいだ。


 軽く話したことがある子もいれば、正直言って顔しか知らない子、顔も覚えきれていない子もいる。


 そんな娘たちが全員、シーツの上で横一列。


「「よろしくお願いします、景一郎様」」


 礼儀正しく正座のまま、半透明のネグリジェ姿で、頭を下げた。シーツにすりすりと額をこすりつけている。


 副隊長のオリヴィエに腕を引かれ、部屋の中へ。


 ()()()


 と甘い香りが充満していた。


 香水ではない。女性から出るフェロモンが二十人分重なっている。


「景一郎様。どうぞ、端から順に」

「ぅえ、あ、はい……」


 横一列に並んだ北欧娘たちの右端、一人目の前に立つ。その子だけが背筋を伸ばして正座に戻った。


 めちゃめちゃ美人で、めちゃめちゃ胸が大きくてスタイルが良くて、めちゃめちゃ愛嬌がある子だ。こんな愛嬌の良い子いたっけ。


 ……そういえば、ヴァルキュリャ隊には睨まれたり嘲笑われたりの経験しかない。


「プロポーズお受けいただき、ありがとうございます」

「あ、ああ」


 かなり若い。


 セシリアよりもさらにもう一、二歳ほど若く見える。


 言いたいことが一つ。知らない子だ。知らない子が、透け透けのネグリジェの裾を「つい」っと持ち上げる。


「あの、本当にごめん。ええと、君、お名前なんだっけ」

「はい。アリーシャ・ウクセンシェーナです。よろしくお願いします。求婚させていただきます」

「あれ? ウクセンシェーナ? 君も?」

「ええ、私は分家の出ですが」

「分家。へぇ~」

「セシリア姉様からみて、従姉妹にあたります」


 確かに顔立ちはセシリアに似ている気がする。


 セシリアに負けず劣らずの美少女だが、目尻は少し丸みを帯びて、あどけなさを感じる。


 ということは、この子も桁違いに良家の出身。


 本来ならば言葉も交わせない格差がある。はずなのに……。 


「失礼します、景一郎様」


 そのアリーシャは、何も指示されずとも正座の体勢から「コロリ」と後転。仰向けの体勢に変わった。


 膝の裏側やふとももが眩しい。


 現実感がなさ過ぎて足が震えてきた。


 会ったことはあるけど、話したことも、名前すら知らなかった子と。それもヴァルキュリャ隊という、世界トップクラスの優秀美女が集まる集団と。


「はいっ、どうぞ。味見ですのでお気軽に」

「味見が気に入ったらどうなるの?」

「景一郎様の妻として一生お側に置いてください」

「き、気に入らなかったら?」

「……残念ですが……。妻にはなれないので、別の形で景一郎様をお支えすることになります。出来れば毎日お側に居られるような、本邸の家政婦が良いです。でもご希望でしたら別荘の家政婦でも良いです」


 しゅん、と不安そうにアリーシャが眉を垂らす。


 おわわ、かわええ……。


 普通なら愛を確かめ合ってから婚約する。


 ただ、俺は本来なら一生独身の雑魚だった。それがなんだか知らんけど、ちょっと命を救ったくらいでプロポーズされている。しかも若くて超美人なスウェーデン娘。


 絶対に逃がせないチャンスだ。


 この一晩でアリーシャを確実に捕まえておこう。


 しっかり抱きしめて、完全に俺のメスとして手籠めにする。他のオスが敬遠するくらい、俺の痕跡を確実に付ける。


 それをアリーシャはとても幸せそうに受け入れてくれた。お嫁さん二人目ゲット。


……

…………

………………


 次の子はまだ、いきなり諸手を掲げて降伏するのは受け入れていなかった。


「『宝石の権能』、エメリアです」

「初めまして」

「夜伽という事ですが。まず、一言忠告を。格の違いを理解し幸運にむせび泣きなさい、扶桑景一郎」

「は、はあ」


 ハッキリとしたシャープアーチの眉。鋭い眼光。豊かなロングウェーブを威圧するように払う。


 またも綺麗な子だ。


 というか、部隊員全員ハリウッド女優なんて目じゃないくらい綺麗だ。


 こんなに美人なら覚えているはずなんだけど。数が多すぎて。


 エメリアは顎を上げ、精一杯威厳を保ちながら自己紹介を続ける。


「私はかのヴァーサ家の血筋を引いています。極東の田舎でも、もちろん知っていますね」

「……うーん、エメリアさん……話したことあるような、ないような……」

「ウクセンシェーナとともに国を支える双璧を成す私を――」

「あ、思い出した」


 この子、顔は覚えている。名前は知らなかったけど。


「ダンジョンに入って来た時、俺に話しかけてくれた子でしょ?」

「ッ!?」


 さっ、とエメリアの血の気が引いた。


 さきほどまでは興奮と緊張、威嚇で赤くなっていたのに。明らかに真っ白だ。青い血管の色まで分かる。


「違うっけ? そうじゃないかなぁって思ったんだけど」

「…………。どこまで覚えていますか?」

「?」

「ほ、ほ、ほッ、翻訳ッ! スウェーデン語を翻訳していたでしょう。話しかけたとき」

「ん? んぁー……なんだっけ。電子辞書で自動翻訳したっけ。えーっと」

「う、お、ぼえて、いないのね。そう。それは良かっ――」

「あぁ、確か。下層民とか」

「ぅ!」

「あと、未開人とか、小さな猿とか、汚物とか、貿易のカモとか、ゴミとか。だったかな」


 最初は威圧していたエメリアが、気の強そうな眉をへにゃへにゃに曲げた。


 絶望しながら頭を抱え、極度のストレスでガシガシと頭皮を引っ掻いている。


「ち、がう。それは、安物の辞書なので、スラングを、正確に訳せて、いないようね」

「あ~そっかぁ」

「違う、全然……! 違う。もっと穏当な言い回しでした。絶対に」

「よかった。エメリアさんに嫌われているのかと」

「嫌って、いません……っ。生まれて一度も。お願い、お願いします。せめて一回求婚チャンスをください」


 必死に取り繕うエメリアが不憫だったので、嫁に貰ってやることにした。


 なんだかの由緒ある貴族家の直系とか言っていたが、古い文化とかよく知らないので普通に一夫多妻制に納得させた。


 幸せそうに家族計画を語って可愛かったので、全部叶えてあげることにした。お嫁さん三人目ゲット。

 

……

…………

………………


 何時間も。


 ヴァルキュリャ隊との仲直りは長く続いた。


 順番に。全員と。


 今、幸せそうに俺の腕を枕にしているのは、副隊長のオリヴィエ。


 戦闘態勢では凛々しい、武人らしい表情なのに。寝具の上では恋が成就した乙女の顔だ。


「ふーん、オリヴィエはそんな細かいこと気にしてたんだ」

「ええ……っ。その、十月一日、午前十時三十二分の言動を、訂正させてください。ダンジョンで最初お会いしたとき、非常に失礼な態度を取ってしまいました。どうしてもお詫びしたく」

「そうだったかな。よく覚えてないや」

「襟元をこう、吊り上げて……暴言も……」

「あー。あったあった(笑)」

「その後、瀕死のところを手当ていただいて。す、す、すごく、優しくて、腕の中が安心して、ほ、惚れてしまいました」


 確かに、セシリアの護衛役であるオリヴィエは負傷も酷かった。


 こうやって抱えて手当てしたっけ。再現してやると、嬉し過ぎて何も考えられない様子で抱き着いて、全身をすり付けてきた。


「吊り橋効果かもねぇ。それでもいいのか~? 見下してた相手と結婚することになっちゃうぞ~」

「いっ、良いです! 一生、一生お仕えします! セシリア様よりも景一郎様を優先しますっ!」

「やったー。お嫁さん、二十一人目~」

「お、お、お嫁さんっ。やった。ひどいことしたのに一発逆転お嫁さんっ。ありがとうございます! ありがとうございます!」


 一人ずつ時間をかけて丁寧に。徹底的に所有権を明らかにする。最後のオリヴィエも陥落し、これで全員俺の所有物(モノ)だ。


 ただ、一周ではみんな満足しなかった。


 全員仰向けのまま、つま先は天井に向けて高く掲げている。


 そうして長い脚を掲げていると、俺が気に入って寄ってくると分かっているからだ。


 一生懸命そうしているのが大変そうだったので、全員が気絶して旗を下ろすまで相手をしてやった。


――

オリヴィエ・スヴァルトホルム:ヴァルキュリャ隊の副隊長。スヴァルトホルム家は数百年間、ウクセンシェーナ家に仕えてきた護衛の家系。その家に伝わる魔術、剣術の最高傑作。(魔法は最近になって一般常識になった。が、一部の家系では古くから秘匿され、受け継がれてきた)

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