9.皇帝陛下との謁見(3)
セシルはかつて帝国の学園に通っていた。
そこは、突出した実力があれば、身分や国籍問わず自由に入学することができることで有名で、卒業生には騎士団長や大司教にまで出世したもの。
文明を著しく発展させる発明を行ったものなど、多方面にわたる才能を輩出している。
その学園でセシルは、当時皇太子だった皇帝陛下と、公爵令嬢だった皇妃陛下と同級生だったこと。
親交を深め友人となったこと。
セシルは学園を首席で卒業したこと。
そのどれもが、アシュリーが初めて知ったことだった。
セシルはアシュリーに、自身のことは何一つ語らなかった。
アシュリーの知る母セシルとは、王国の王妃で元平民。
いつも厳しく優しくされたことはなかった。
それくらいのものだった。
それがここ数日で数えきれないくらいの、知らないことを聞かされた。
「王族の者を帝国に向けて送るって私たちが指示したことになってるけど。あれ、セシルが言い出したことなの」
「そう言ったら、確実にお主が送られることだろうと予想してな。仮にも王族であるお主が、貴族の横やりが入らずに、安全に王国を抜けるにはこの方法が最善だと」
「そんな、お母様は何も……」
そう。何も言ってはくれなかった。
アシュリーの頭の中は、母セシルに対する様々な思いが入り混じって、ぐちゃぐちゃになっている。
そんな中……
「そうか。そなたの母はそなたのことが大好きなのだな!」
アシュリーの中に渦巻いている暗い感情をぶち壊すように、そうレオノーラは断言した。
「本当にそうなんでしょうか……」
「うむ! まあわらわは、会ったことがないから知らんがな! はっはっは!!」
「……どうしてそこまで自身たっぷりに言えるのですか」
「そんなの決まってる…………勘じゃ!!!」
そう自身を持って発言するレオノーラに、あきれつつも励まされたアシュリー。
「(いつか、ちゃんとお母様と話したいな……)」
アシュリーは、今度セシルと会った時に、今まで聞けなかった、話したかったことをちゃんと話したい……そう思った。
「父上! 母上! これからアシュリーの歓迎パーティーを始めましょう!」
「レオノーラ様?」
ここでレオノーラから、突然のアシュリーの歓迎パーティー宣言。
突然すぎるので、アシュリーは皇帝陛下たちが許可しないだろうなぁ、と考えていると。
「そうじゃな。それがよかろう」
「皇帝陛下?」
「いいですよ。レオノーラは先に私とお話してからね」
「いや、それは後日にしましょう?」
「駄目です」
「……はい」
両陛下はあっさり許可を出してしまった。
突然のことに遠慮がちになるアシュリー。
「いえ、そんな、私はそこまでしていただかなくても……」
「気にするでない! それに準備は既に初めているから、今更中止にはならん!」
「そんな……」
アシュリーは、戸惑いながらも、自分が本当に歓迎されていることにうれしくなった。
自分に何ができるか分からないけど、帝国で精一杯頑張ろう。
アシュリーは決意を新たにした。