11.ルシエ・メラルバ侯爵
「帝国へようこそ。アシュリー・クローネ様。メラルバ家侯爵当主。ルシエ・メラルバにございます」
アシュリーと対面しているルシエ・メラルバは、現皇帝陛下が即位したときに叙爵された家。
女性にして当主を務める彼女の手腕はすさまじく、今では帝国でも一二を争う程の有力貴族と言われている。
「帝国でのアシュリー様のことは、わたくしのほうで面倒見させていただきます」
「よ、よろしくお願いします」
「お付きの侍女たちも侯爵家で雇います。アシュリー様のお付きとさせていただきますのでご心配なく」
「ありがとうございます」
自分に着いてきたアリア達侍女とも、一緒にいられることにアシュリーは安堵していた。
ルシエ侯爵は事務的に淡々とアシュリーに説明している。
「(お母様みたい……)」
ルシエ侯爵に対するアシュリーの第一印象はそうだった。
「? どうかなされましたか?」
「いえ……女性なのに侯爵様なんてすごいな……って」
「ああ……帝国は実力主義ですから」
王国の貴族は実力関係なく、男性が当主になると決められている。
女性は子供を産むための道具、政略のための道具としか見られていない。
反対に帝国は実力さえあれば、女性が当主になることができる。
それだけルシエ侯爵の能力が優れていることの証明とも言えるのだ。
「ルシエ侯爵は、相変わらず堅いのう。あ、お茶のお代わりもらえるか?」
とアシュリーに同行していたレオノーラは、相変わらず自分のペースでのんびりしていた。
「レオノーラ様。今の貴方の姿、皇后陛下に報告しておきますね」
「ちょ……それは勘弁してほしいのじゃ」
ルシエ侯爵は、幼少期のレオノーラの教育係を務めていたこともあり、レオノーラは彼女のことが苦手なのだ。
「まぁ、アシュリー様の手前、今回は多めに見ておきましょう」
「危ない危ない、また母上の雷が落ちるところだったわ」
レオノーラがいるおかげか、アシュリーは変に緊張することなく、ルシエと対面できている。
「アシュリー様には、メラルバ家の領地で過ごしてもらうか、学園に通ってもらおうかと思っているのですが」
「学園ですか?」
「ええ、レオノーラ様もそちらに通っていらっしゃいます」
「父上たちも通っていたところじゃ。面白いところじゃぞ」
「皇帝陛下達も……ということはお母様も」
アシュリーは学園へ行くという選択に迷っていた。
お母様が通っていたところだから、見てみたいという好奇心はある。
ただ、学園に対しては良い思い出は、一つもなかったから。
「王国でのアシュリー様の扱いは、わたくしの方でも把握しております」
周りから『王家の面汚し』と揶揄され、馬鹿にされた日々。
学園中で笑いものにされていたアシュリーに、学園に通う日々は苦痛以外の何物でもなかった。
「私は……」
「そんな貴方だからこそ、学園に通ってもらいたいです」
「……え?」
「それに我が学園は王国のそれとは、違いますから」
「違うって……」
確かに王国と帝国とでは学ぶ内容とかは違うけど……
とアシュリーはまだ迷っている。
「そんなに不安になるでない! わらわも通っておる! 心配はいらん!」
「そういわれても……」
「よし! 明日わらわが迎えに来てやる! 一緒に通おうぞ」
「レオノーラ様は相変わらず勝手な……まあ今回は多めにみましょう。わたくしの方で明日から通えるように学園長に話はしておきます」
「うむっ。明日が楽しみじゃのう!」
「既に通う方向で纏まってる……」
とアシュリーが口を挟む間もなく、とんとん拍子に学園行きが決まってしまっていた。