1.『王家の面汚し』婚約破棄
「君との婚約を破棄させてもらおう。君との婚約よりも、ラビニア嬢との婚約を結んだほうが、両家の利益となるからね」
王宮で開かれた側室主催のパーティーで、そう宣言したのは、フォンス・クレイン公爵令息。
対して婚約破棄を告げられたのは、 アシュリー・クローネ第一王女。
この王国の第一王女でもある彼女に対して告げられた婚約破棄宣言。
王家主催のパーティーでの出来事に、招待された貴族たちの殆どは、まるでパーティーの演出を楽しむかのようにして、その光景を見ている。
「そんな、このような場で何故……」
「決まってるじゃない、お姉様」
声の女性は、フォンス公爵令息のそばに歩み寄ると、その腕に寄り添うように隣に立つ。
彼女の名はラビニア・クローネ第二王女。
アシュリーとラビニアは、姉妹だが母親が違う。アシュリーの母は王妃であるのに対し、ラビニアの母は側室である。
「平民の血の入ったお姉様は、フォンス様の婚約者にふさわしくないわ」
現国王と王妃との間に生まれたアシュリーだが、彼女は貴族と平民との間の子供だ。
なぜなら、王妃は貴族ではなく、元は平民出身だから。
「この件はお父様も了承しているわ」
「陛下も……」
その言葉を聞いたアシュリーは、思わず国王の座している方を見る。
そこにいるのは、この王国の国王であるガース・クローネⅡ世。その隣にいるのは、側室でありラビニアの母親でもあるリーテルマ。
アシュリーの母親であるセシル王妃はこの場にはいない。別室で隣国エスメラルダ帝国の大使と、外交交渉をしているから。
「王家に平民の血は不要である」
「貴方にはこれから、エスメラルダ帝国に向かってもらうわ」
「エスメラルダ帝国に……」
帝国の名を聞いた途端、周りの貴族たちがざわざわとしている。
『エスメラルダ帝国』
この国と隣接している国の一つで、この国の建国以前より成立していた、大陸一の国土を誇る大国である。
ひとたび帝国と戦争にでもなったら、この国は一瞬で滅亡してしまうだろう。
ゆえに、帝国からの要請に逆らうことはできないのだ。
「今回の交易の条件として、向こうに王族の誰かを送ることになってな。丁度いい」
「それはお母様……王妃様も知っていることでしょうか」
「ええ。あの女も何も反対しなかったわ。貴方は母親に帝国へ売られたのよ」
「そんな……」
交易の対価に王族の人間を送る。言ってしまえば人質ということ。
「光栄に思うことね。『王家の面汚し』のお姉様が私たちの役に立てるのよ。ありがたいことじゃない?」
とラビニアは馬鹿にしたように言ってきた。
アシュリーの学園での成績は、毎回最下位か下から数えた方が早い。それに対して妹のラビニアは常に学年1位をキープし続けている。
もちろんアシュリーとて勉強していないわけではない。むしろ人一倍勉強しているにもかかわらず、成績が一向によくならない。
それに対してラビニアはというと、全く勉強していないのもかかわらず、常に学年1位を取り続けている。
優秀なラビニアと落ちこぼれのアシュリーを比較して、周りの貴族からアシュリーはこう呼ばれていた。
それが――『王家の面汚し』