不吉な予感
研修も気付けば数日が過ぎてきた。
PCをセットアップし、IDE(統合開発環境)をセットアップし、
渡されたサンプルを読み込んで何やら動作している。
目の前にあるプログラムコードで
いつも見るWindowの画面が作れているのかと思うと楽しくなる。
根岸もすげーなどと言っていて共感できるやつだった。
でも根岸は正直どうでも良い。
綾瀬さんが楽しく無さそうなのが問題だった。
課題は進んでいるようだから興味の問題かもしれない。
詰まった時に華麗に助けられるように
まずは研修組で一番先を行くしかない。
そんな中、長野だ。
「楽勝っすね。」
どうやら一番先を行くにはこいつに勝たねばならないようだ。
そうこう考えていたら長野が話しかけてきた。
「水上さん、まだマウスっすか。時代はトラックボールですよ。」
長野は自前のトラックボールを持ち込み使いだしていた。
トラックボールと言うのはマウスの代わりに利用できるもので、
マウスより一回り大きく置き場を固定して使うもので、
それ自身を動かさない代わりに埋め込まれた球体を転がして使う。
「それ使って良いか聞いたの?」
「問題無いっしょ。業界の先輩に聞いても自前は常識って言ってたし。」
使って良いのかもしれないが、
仕事上のことなのに確認していないところに常識の無さを感じる。
「そうなんだ。」
取り合えず適当に返事をしておく。
長野がトラックボールを使っていることは関係無い。
問題はまずは仕事に慣れることだった。
そんなこともありながらさらに数日が過ぎ、課題も徐々に難しくなった。
プログラムの作成環境を再現して自分のPCで動かすところから、
自分で作ってみようという方向に変化していた。
西園寺さんは講義のようなものをしたり、
時々プログラムを解説してくれるが、
全体としてはわからないことだらけである。
それでも余裕を示していた長野の変化は面白かった。
「俺がやってたのはこれじゃない。」
などと言ってみたり。
「学校ではちゃんとできたのに。」
などと言って、順調に脱落の気配を見せていた。
そして一方で、ここは長野を採用する会社なのかと思うと少し不安がよぎった。