決断
「ハイタレントの中村と申します。水上様でしょうか?」
エージェントからの電話だった。
「はい、水上です。」
「早速ですが先日面接に進まれたバリューライズ社の
選考結果が返ってきましたのでお伝えします。」
ドキッとした。
理想の企業で苦労して辿り着いた最終面接結果ではない。
それでも今の自分は就職できるのかどうかと考えていたので、
合格するかもしれないという気持ちと、
期待に反して落ちていたらと心配する気持ちが波打っていた。
「内定いただきました。おめでとうございます!」
「ありがとうございます。」
ただ嬉しかった。
「それで、今後は就社時期と条件面での確認が必要になります。」
「はい。」
「先方の希望入社時期は4月となりますが、問題無いでしょうか?」
「はい。問題無いです。」
まだ2か月以上あり、新しい年度というのもちょうど良かった。
しかし、その先に問題があった。
「承知しました。では次に条件面に移ります。
希望年収は250万円ほどとお伺いしていますが、
残念ながらそこからダウンでの提示となっています。」
正社員経験が無いとは言え、今月末には28歳になる。
知的労働者として年単位での経験もある。
給料の良いと言われるITの正社員だし、
経験を汲んで250万円~300万円と考えていた。
友人は就職して何年も経って、リーダーを任されたり、
年収も業界の平均並みにはもらっていると聞く。
そういう焦りも就職を後押ししたのは事実だ。
「詳しく教えてもらえますか?」
「はい。水上様はIT業界の経験が無いため
一旦は今回新卒と同じ年収200万円で入社いただき、
若手を引っ張っていく存在となってもらうとともに
昇給する形でお願いしたいとのことでした。」
「そうですか。わかりました。」
新卒200万円はIT職としては少ない気がする。
でも経験が無いと仕方ないのかもしれない。
「他の媒体経由で他の応募もあるかと思いますが、
内定承諾の場合は1週間以内のお返事となりますので、
ご検討いただければと思います。」
「わかりました。検討してお返事します。」
正直金額はどうあれ、内定をもらうことは嬉しい。
でも年齢と金額を考えてこれで良いのかわからない。
スキルは新卒と同じから仕方が無いのかもしれない。
実は他の企業にも応募したが、あっさり書類で落ちていた。
複数のエージェントとやりとりしたくなかったため、
今他の候補は無い、つまりこの内定を承諾するかしないかだ。
悩みは尽きなかった。
想定より金額が低かったが、
実力次第の業界ならばこれから伸びるとも考えられる。
良いところに綺麗なオフィスを構えて社長はやり手だろうし、
きっと大きくなる会社に違い無い。
結局、そんな風に考えて内定を承諾した。
するとふと、やる気が満ちてきた。
自分が会社を大きくするんだ!と。