社長面接
「水上誠と申します。よろしくお願いいたします。
X大学で経営工学を学び、yyyy年に卒業しました。
その後、5年間塾の講師をして中学生に数学を教えていました。
講師として指導した学生の中には、高い偏差値が要求される、
学区内でトップと言われる高校に入学した生徒もいました。
私は丁寧に準備して丁寧に答えることを意識していたので
その結果だと考えています。
また、生徒からは質問し易いと言われており、
そうしたコミュニケーション力は御社でも生かせると考えています。
簡単ですが以上となります。」
よし、大体練習どおりだ。
こちとらITの仕事なんてやったことが無い。
能力がありそうで、人柄で良い印象を与える、それだけだ。
とは言うものの、はっきり言って余裕はない。
面接で社長を目の前にする初めての経験に汗が止まらない。
10秒、いや実際は2,3秒だろう、黙ってた社長が口を開いた。
「塾の講師か、そっかそっか。これは、アルバイトかな?」
そりゃ聞かれるよな。
30が近づいているのに社員の経験が無いなんて。
「はい、そうです。」
そのままを答える。
「なるほど。じゃあプログラムはやったことある?」
「学生の頃に授業で少し…」
当時面白そうという理由でコンピュータ基礎という科目を取った。
その時一番流行っていたらしいVisual Basicという言語だった。
詳しい友人に聞くと「VBは簡単」と言っていた気がするが
そんなことは無く、最後の方は匙を投げていた。
「どんなことをやってたの?」
「えっと、タイマーを作ったりしてました。」
正直中身は覚えていないし、
ただ完成して実行した時の画面を思い出しながら答えていた。
「なるほど。
じゃあ話は変わるけど、この仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?」
「インターネットの発展を目の当たりにし、
そこに関わりたいと思ったからです。」
「では、当社を選んだ理由を教えてください。」
「御社のホームページを拝見し、
ITで社会の価値を向上させるというミッションに共感して、
一緒に働きたいと思ったからです。」
よし、貴社と御社を間違えずに言えた。
面接の前に色々と調べて分かったことだが、
相手を立てる時、対面では御社、文面では貴社と言うらしい。
統一してくれ。
そうして、様々なやり取りが続き、何とか最後を迎えた。
「では、何か質問があれば仰ってください。」
そう言われて、用意していた質問を繰り出した。
そのやり取りも終わり面接が終了となった。
「では本日の面接は以上となります。
結果はエージェントを通じて数日中にご連絡します。」
「ありがとうございました。」
感触が正直良くわからない。
いきなり社長というのもびっくりしたが、
中小企業なら良くあることなのだろうか。
様々なわからないことだらけの中、会社をあとにした。
面接終了後、エージェントに電話を掛けた。
終了したら知らせるように言われていたのだ。
そして面接の様子、受け答えの内容などを話した。
「そうですか、悪く無いと思いますよ。
未経験で30歳が近づいている点では不利ですが、
私もフォローしておきますね。」
「ありがとうございます。」
そんなやり取りがあった。
そして数日後、エージェントから電話があり、現実を知った。