4 悪役令嬢、異世界転移の裏事情を知る。
「では交渉がまとまったところで詳細を話そう」
と、語り出したクマッティ曰く。
昨今、神々の間では異世界の人々を呼び寄せることが流行っているらしい。
不慮の事故で若い命が散った場に偶然居合わせた神のひとりが、その魂が不憫だとこちらの世界に転生させたことに端を発するのだとか。
この世界の水が合ったのか、その魂を宿した者はメキメキと頭角を現し、蛮族を散らして国を平定したのだと言う。
「それがジークラム開国の父、ヒャルターじゃ」
「ほう」
あまりに突拍子もない話ではあるが、考えられないことではない。
ヒャルターの出自は杳として知れない。
貴族でもなければ高名な冒険者でもなかった彼が国王にまで上りつめる──この国の子供なら誰でも一度は聞いたことがあるヒャルターの伝説と、クマッティの話は似通っている。
無論それだけでヒャルターを異世界人だと決めつけるのは短絡的ではあるけれど。
「ヒャルターの功績に気を良くした神たちは、その後も異世界から人々を呼び寄せた。と言ってもヒャルター並の者の死に居合わせるのは万にひとつの確率。だから目星をつけた者をその肉体ごと移動させる……転移じゃな、それが流行り出して」
「つまりは生きたまま連れて来る、と」
「通販でも組み立て式より組み立て済の家具のほうが高いじゃろ? ネジひとつ締めるにしろ素人と職人では違うように、こっちで魂と肉体を合成するより丸ごと持って来た方が間違いがない」
「〝ツウハン〟が何かは存じませんが、神が趣味のために何の罪もない者をさらって来るなんて世も末ですこと」
「さらっては来とらん。一応は向こうの世界に未練のない、こちらに来てもいいと承諾した者をスカウトしておるのじゃ。彼奴らも新たな世界で無双できると喜んでいるしの。
で、まぁ、そんなわけで、より多大な功績を残す転移者を呼び寄せることを競うようになったのじゃが、見込み違いと言うか思う成果が出ない者も当然いるわけで。そうすると審美眼が間違っていたと嗤われるわけで。
つい、神の力まで分け与えて底上げ──要するに課金チートみたいなもんじゃな、に手を出して……ひとりがそれをすると他の連中も真似し始めて……そのせいでこの世界の未来が本来の道から外れつつある、と気がついたのは、情けない話じゃがつい最近のことじゃ」
「本当に情けない話ですわ。要するに人を見る目がなかったこと、及び、無能な者を連れて来たことを隠すために神の力を与えて誤魔化したと言うことでしょう?」
どうせなら吟味に吟味を重ねて優秀な者を連れてくればいいものを、『思う成果が出ない』とは何だ。審美眼、間違いどころか腐り落ちていますわよ。
頭が痛くなる。
「して、私が倒すべき転移者は今何処に?」
しかし思いつく端からツッコミまくっていたら話が進まない。
呆れた神の暴挙は置いといて、私は先を促す。
重要なのは私の命。神への粛清はテンイシャとやらを葬り去った後でいい。
「まぁ待て。まずは敵を知ることじゃ。チートスキルは伊達ではない」
クマッティは勿体ぶったように腕を組……みたいのだろうか。でも短いので両腕が届かない。合掌すらできない。
なのに無理に組もうとするから腕がプルプル振るえている。
「っ」
ツッコミを回避したのに、別のツッコミ案件を振って来るとは。
恐るべし神の力! ってそうじゃない!
「お主、カジウラなる男を知っておるか?」
「……………………勇者カジウラのことでしたら噂程度には」
勇者カジウラとは二年前、彗星のように現れた冒険者だ。
冒険者ギルドに登録して最初のランク決めでいきなり六段階評価中の二位ランクを叩き出し、僅か一ヵ月で首位ランクに上がり、先ほどもちらっと話題に出した隣国との小競り合いを治めたあの〝勇者〟のことだ。
その功績を称えられ、今は跡継ぎのいなかった東の辺境伯(エアハルト伯)の養子に収まっている。
貴族でもなかった者が何時しかそのあたりの貴族たちよりも上の位にいる。
そんな夢のようなサクセスストーリーが民の間で受け、一躍、時の人となったのは記憶に新しい。
「彼が私を悪役令嬢にしたテンイシャなの?」
だとすれば倒せばいい、と言う話ではなくなってくる。
カジウラは救世主のように見られている。破滅フラグを回避するために彼を倒したところで、そんな理由は誰にも伝わらない。
結局は〝救世主殺し〟の咎を負って断頭台に上がることになるだけだ。
「あー。カジウラは直接はお主とは関係ないもうひとりの転移者なのじゃが」
「もうひとり!?」
敵はひとりではないのか!?
「そうじゃ。そしてカジウラのために人生の階段を転がり落ちた者がおる。舐めてかかればお主も同じ道を辿ることになる」
クマッティ曰く、「カジウラのしたことは良い方向に向いているように見える。しかしそう見えても実際に起きるはずの未来を歪ませたことに変わりない。その皺寄せは別のところで必ず生じる」のだそうだ。
例えば、カジウラの功績が別の者が成すはずのものだった、と言うように。
「カジウラの功績は、本来ならば冒険者ディナエルが手にするものじゃった。しかしカジウラは常にディナエルの先を行き、ディナエルの功績を全て奪ってしまった。まるで未来を……クリアまでのルートをあらかじめ知っているようじゃったのう」
「ただ単にディナエルの行動が遅かっただけの話ではなくて? 東がキナ臭いのは今に限ったことでもなし、魔物や隣国の兵士を排除する依頼もギルドには常設されていたでしょう?」
だがしかし。
『未来が見えるように。あらかじめ知っているように』と言うと特殊能力者と錯覚してしまうが、そもそも常設されていた依頼なら其処に行けばイベントが発生するのは確定している。
先に動いたカジウラが先に功績を得るのは当たり前のことで、転移者か否かは関係ない。
偶然先を行っただけでそう言うのは難癖というものだ。
「いや。見えるのじゃ。それがカジウラが手にした神の力。〝転移勇者〟じゃ」
クマッティ曰く、〝転移勇者〟のスキルを使えば、自分の進む道・対峙している敵が次に出す一手が見えるのだと言う。
宝箱の位置やレアモンスターが出没する場所などが予めわかるわけではないから、そこは自分で探さなければならないが、そのあたりは多くの先人が〝宝の地図〟などの名称で残してあるからさしたる問題ない。
カジウラのスキルはその道中、罠を回避したり、仕掛けの解がわかるものであるらしい。
だから短時間で成果が出せる。
さらには敵に遭遇しても攻撃が事前にわかるから被害に遭う前に対処可能、というとんでもないものであるらしい。
「だからライバルはどう足掻いても奴の踏み台にしかなれないのじゃ」
「いくらカジウラに攻撃を読む能力があったとしても、武芸に無縁だったのなら相手が負けっぱなしになるとは思えなくってよ?」
しかしだ。
いくら先が読めようとも身体能力が追いつかなければ意味はない。
スタートダッシュに勝ったところで足が遅ければ追いつかれてしまうし、組み合えば力で押し負けてしまう。
カジウラが転移前の世界でも超人的な身体能力の持ち主だったのならわからなくもないが。
「うむ。多分、ではあるが、カジウラは先にディナエルの、いや他のライバルたちの力をも奪っておると思う」
「そんなことが?」
首を傾げる私に、クマッティは「トラウラがやったのだろう」と付け加えた。
確かに神が相手なら、どれだけ勇猛な冒険者だって勝ち目はない。
だがそのトラウラと言う神、自分が連れて来た転移者をヒャルター並に見せかけるためにそこまでするのか?
自分の世界の神ながら、情けないを通り越して粛清したくなってくる。
「あと」
クマッティの目がキラリと光った。
これは重要なことに違いない。盛り上がるネタは最後に出すと相場が決まっている!
「転生者・転移者は何故か異性にやたらといい男・いい女に映る。これも歪みのひとつかのう。奴らのほとんどが〝はぁれむ〟を作るのはそう言うわけじゃ。
ううむ、これぞ男の夢! 男のロマン! あ、もちろん女にはイケメン逆はぁれむが待っておるが、野郎が誰に惚れようがそっちはクッソどうでもいい」
「…………………………本当にどうでもいい情報ね」
最後だからとっておきの必殺技でも出して来るのかと思ったら。
男の夢かもしれないが、カジウラが美女を侍らせたところで私には関係ない。
と言うか、このクマ、さっきからどうでもいいことしか喋っていない。




