地を潜る者
4人が警戒して動きを止めた。すると辺りはシンとなった。
長い時間が過ぎた気がする。それでも動かないでいると、巨体の男が地面からザブンと出てきた。仰天する4人。
「俺の名前はウンリュウだ。お前ら動いてくれないとどこにいるか分かんねーじゃねぇか。もっと焦って逃げ回りやがれ!」
クロウは、こいつはバカだと思った。音で居場所を感知してるのだ。その弱点を自ら曝さらすとは。
しかしデカい男だ。ジョエルより一回り大きな体をしている。半袖シャツに海パン、格好はいたってシンプルだ。
「お前らは生け捕りにして持って帰る。その方が賞金がいいんでな」
クロウが脅しをぶつける。
「4人を生け捕りにするなんて無茶だぜ、特にこの女の子はな」
クロウが言うか言わないかのうちに黒い玉を飛ばすズズ。拳大にウンリュウの胸をえぐる。
「痛てー!何だ今のは。とにかく子分4人も間もなく到着するんで覚悟しておくんだな」
ザブン!
また潜ってしまった。クロウ達は協議する。
「もうここから逃げよう」
と、クロウが弱気な事を言うと
「いや待て。ああいう手あいはしつこい気がする。弱点も向こうが勝手に曝してくれたし、ここで倒してからにしよう」
と、カルム。
その時突然カルムの足元から長剣がザン、ザン
ザンと3発突き出す。
「うわ。やば!」
カルムが叫ぶ。どうやら敵は生け捕りのために足を狙っているようで、そう深くは潜っていない模様だ。それを見てクロウがひそひそ声でみんなに通達する。
「どうやら話し声も探知出来るようだ。だまっていよう。策はある。ズズ、俺が相手の居場所を勘で指し示す。そこにできるだけ大きな玉をぶち込んでくれ」
「分かったわ」
ズズはさっそく両手で大きな黒い玉をつくりあげる。
今度はクロウに長剣が襲いかかる。右足を少し切ってしまった。
集中するクロウ。敵はどうやら土の中で立ち泳ぎをしているらしい。場所はまだクロウの下の辺りだ。
クロウは真下を指差し、「ここだ!」と叫び、横っ飛びにでんぐり返る。
そこへズズが大きな玉を投げつける。
「うわー!」
ウンリュウがザバっと顔を出す。
「この野郎!いてーじゃねーか!」
どうやら左手の肩口を切ったようで、まずは作戦成功と言える。
「お前ら足だけを狙ってやっていたが、もう怒った。殺して首を持っていってやる!」
ウンリュウは目視をすると、今度はジョエルに襲いかかる。
ザン、ザン、ザン、ザン!
「お~っと」
ジョエルは4発を軽々と避ける。そこへクロウがジョエルの背後を指差す。
うなづくズズ。そしてぶつける。ジョエルは前方に宙返りをして黒い玉を避ける。
地面に大きな穴が空くも、今度は反応なしだ。
そこへ4人組の子分らがやってきた。
「おっと、お前らの相手はこの俺だ」
4人に向かってジョエルが言い渡す。
「親方、持ってきましたぜ!」
ザブンとウンリュウが顔を出す。ズズがすかさず黒い玉をぶつけるも空振りに終わる。
子分が持ってきたのは5カイルもある長い槍だ。長剣で足を狙うんではなく、槍で串刺しして殺す作戦に切り替えたようだ。
ウンリュウは投げつけられた長い槍を手だけ出して掴み取り、槍を地面に引きずり込む。
横では子分4人とジョエルが対峙している。まず小手調べに一人がぶつかっていく。ジョエルはくるりと回り右後ろ蹴りを腹に極め、正拳突きで後ろに吹っ飛ばす。
それを見ていた3人は短剣を抜き、ジョエルに向かっていくが傷を負わせるどころかかすりもしない。
「おらおらどうした?」
ずりっとジョエルは歩を進める。突っ込んできた1人の短剣を内受けし、見えないパンチを頬へ叩きこむ。次は二人だ。左の男の腕を狙い蹴りを放ち、短剣を吹っ飛ばす。その勢いで顔面に横蹴りを極める。もう1人の男にはさらに逆回転し左の後ろ回し蹴りをぶっぱなす。
あまりの強さに最後の1人は腰が抜ける寸前だ。「いやー!」っと叫びながら腹を狙うも右腕で外受けされ、同時に見えないパンチを浴びせられる。
ジョエルは右手を見つめている。
(よしよし、もう1本の腕も使い慣れてきたぞ)
ジョエルは新しい腕に自信を深めつつあった。
1つの部屋で複数の男らが大麻を吸っている。大麻窟にはその煙が充満し、前がまともに見えないほどだ。
「う~ん、やはり大麻はいい」
中央の豪華な椅子に座った素っ裸の男が、大麻を吸いながら言葉を発する。そこにいる者全員が「しかり」と、同意し、また大麻を吸ってはトロンとした目になる。
男の肩にはハートのタトゥーが入っている。
「マインド様、来客がいらしていますがいかがいたしますか?」
せむしの小さな召し使いが、煙を払いながらマインドと呼ばれた男に報告にくる。
「通せ」
「はっ」
現れたのは30歳くらいの髪の長い男。
「やい、マインドとやら、よくも俺の可愛い妹を凌辱し、大麻漬けにしやがったな!目にもの見せてくれるわ!」
男は短剣を抜き、照準をマインドに合わせる。マインドがしかめっ面をする。
「無粋だねぇ」
マインドはそう一言いい放つと、なんと宙を浮き男に近づいた。
やってきた男は大きな声で言い放つ。
「俺の異能を受けてみろ! ビジュアル・ブレイク!」
マインドの視界がいくつもの欠片に割れ、どこに焦点を合わせていいのか分からなくなった。
「死ねい!」
男は短剣でマインドの胸を突こうとすると、ふわりとかわされる。
「その異能、気にいった。ブレイン・キラー!」
男は突然何をしにここに来たのか分からなくなってしまった。大麻窟なので、大麻を吸いに来たんだろうと思う。
もうもうとする煙でもうだいぶ大麻に酔っている。隣の男の吸引器を強引に取り上げ、自身も大麻を吸い始めた。
マインドは男の全ての記憶を消した。そう延髄に至るまで……
男は、呼吸をする事まで忘れてしまい、ぐったりと横になる。
やがて事切れてしまった。
「劣等異能者め……」
マインドは、男の死体に片足を乗せ、充血した目をむき大声で叫ぶ。
「うおー!」
マインドに新たな異能が身に付く。体が熱くなり、気力が充満する。
「我は成し遂げたー!」
マインドは満足し、また椅子に座り大麻を吸い始めるのであった。
こちらはクロウ達。戦局はさほど変わってはいない。地面には、ところどころに大きな穴が空き、見えない相手に苦戦を強いられている。
ザン!
時おり槍がクロウ達を狙って天を突く。敵の深さは槍の長さを考えれば5カイル以上。もうズズの異能では届かない。
ジョエルが子分4人を叩きのめしてクロウ達と合流した。
「なんだまだやってんのか」
「突破口がないんだ」
ザン!
危うくクロウを捕らえるところであった。
カルムの足にも傷が付いていた。痛がっている様子で足を押さえつけている。
「剣から槍に変わったんだろう?簡単じゃねーか」
ジョエルは自信ありげに足を踏みつけ音を出す。
「やーい、もぐらのくそ野郎。悔しかったら突いてみな!」
ザン!
槍の切っ先がジョエルを襲う。その時!
がしぃ!
なんとジョエルは槍の切っ先の下を掴んだではないか!
「なるほど!」
クロウが驚嘆の声をあげる。
ジョエルは怪力で槍を引きずり上げ始める。4カイル、3カイル、2カイル……
そして下に向かって見えないパンチを繰り出す。
ボコン!
手応えがあった。もう一発。
ボカン!
たまらずウンリュウがザバンと顔を出した。
「この野郎。2発も打ちやがって!」
この時を待ち構えていたカルムが糸を飛ばす。
「ぐげ!」
首に巻き付く糸。カルムは思い切り糸を引っ張り、引き寄せる。
ずるずるとカルムに引き上げられるウンリュウ。苦しいのか両手で首をかきむしる。
そのまま数分が経過した。カルムの顔は憎悪で歪んでいる。
「カルム、止めるんだ。死んでしまう」
「クロウ、甘い!」
5分が経過した。ウンリュウはぐったりと動かなくなった。
その時である。
「うおーー!」
カルムは体内の熱が上がっていくのを感じ、叫ぶ。
「我は成し遂げたー!」
「何を言ってんだか」
ジョエルのちゃちゃにカルムが真面目に答える。
「分からない。そう叫びたくなったんだ」
クロウが言う。
「何も殺さなくても……」
「クロウ、甘いんだよお前は。相手は俺達を殺そうとしてるんだぞ。ここで命を絶っていないと後々禍根を残すかも知れない。手配書が出回った時点で、もう後戻りは出来ないんだ!」
クロウはジョエルを見る。
「俺もそう思う。悔しくはないのかクロウは。組織こそ違えど下劣な奴等に母と妹を殺されたんだろう?お前は復讐のために旅をしているんじゃないのか」
もっともだ。みんな覚悟を決めている。自分ひとりが甘ちゃんだったのだ。拳を握るクロウ。
「分かった。俺も覚悟をきめる」
その時である。ズズがクロウの前に出て、涙ながらに叫ぶ。
「なんでみんなしてクロウを責めるのよ!」