表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

地を潜る者

4人が警戒して動きを止めた。すると辺りはシンとなった。




 長い時間が過ぎた気がする。それでも動かないでいると、巨体の男が地面からザブンと出てきた。仰天する4人。




「俺の名前はウンリュウだ。お前ら動いてくれないとどこにいるか分かんねーじゃねぇか。もっと焦って逃げ回りやがれ!」




 クロウは、こいつはバカだと思った。音で居場所を感知してるのだ。その弱点を自ら曝さらすとは。




 しかしデカい男だ。ジョエルより一回り大きな体をしている。半袖シャツに海パン、格好はいたってシンプルだ。




「お前らは生け捕りにして持って帰る。その方が賞金がいいんでな」




 クロウが脅しをぶつける。




「4人を生け捕りにするなんて無茶だぜ、特にこの女の子はな」




 クロウが言うか言わないかのうちに黒い玉を飛ばすズズ。拳大にウンリュウの胸をえぐる。




「痛てー!何だ今のは。とにかく子分4人も間もなく到着するんで覚悟しておくんだな」




 ザブン!




 また潜ってしまった。クロウ達は協議する。




「もうここから逃げよう」




 と、クロウが弱気な事を言うと




「いや待て。ああいう手あいはしつこい気がする。弱点も向こうが勝手に曝してくれたし、ここで倒してからにしよう」




 と、カルム。




 その時突然カルムの足元から長剣がザン、ザン


 ザンと3発突き出す。




「うわ。やば!」




 カルムが叫ぶ。どうやら敵は生け捕りのために足を狙っているようで、そう深くは潜っていない模様だ。それを見てクロウがひそひそ声でみんなに通達する。




「どうやら話し声も探知出来るようだ。だまっていよう。策はある。ズズ、俺が相手の居場所を勘で指し示す。そこにできるだけ大きな玉をぶち込んでくれ」




「分かったわ」




 ズズはさっそく両手で大きな黒い玉をつくりあげる。




 今度はクロウに長剣が襲いかかる。右足を少し切ってしまった。




 集中するクロウ。敵はどうやら土の中で立ち泳ぎをしているらしい。場所はまだクロウの下の辺りだ。




 クロウは真下を指差し、「ここだ!」と叫び、横っ飛びにでんぐり返る。




 そこへズズが大きな玉を投げつける。




「うわー!」




 ウンリュウがザバっと顔を出す。




「この野郎!いてーじゃねーか!」




 どうやら左手の肩口を切ったようで、まずは作戦成功と言える。




「お前ら足だけを狙ってやっていたが、もう怒った。殺して首を持っていってやる!」




 ウンリュウは目視をすると、今度はジョエルに襲いかかる。




 ザン、ザン、ザン、ザン!




「お~っと」




 ジョエルは4発を軽々と避ける。そこへクロウがジョエルの背後を指差す。




 うなづくズズ。そしてぶつける。ジョエルは前方に宙返りをして黒い玉を避ける。




 地面に大きな穴が空くも、今度は反応なしだ。





 そこへ4人組の子分らがやってきた。




「おっと、お前らの相手はこの俺だ」




 4人に向かってジョエルが言い渡す。




「親方、持ってきましたぜ!」




 ザブンとウンリュウが顔を出す。ズズがすかさず黒い玉をぶつけるも空振りに終わる。




 子分が持ってきたのは5カイルもある長い槍だ。長剣で足を狙うんではなく、槍で串刺しして殺す作戦に切り替えたようだ。




 ウンリュウは投げつけられた長い槍を手だけ出して掴み取り、槍を地面に引きずり込む。





 横では子分4人とジョエルが対峙している。まず小手調べに一人がぶつかっていく。ジョエルはくるりと回り右後ろ蹴りを腹に極め、正拳突きで後ろに吹っ飛ばす。




 それを見ていた3人は短剣を抜き、ジョエルに向かっていくが傷を負わせるどころかかすりもしない。




「おらおらどうした?」




 ずりっとジョエルは歩を進める。突っ込んできた1人の短剣を内受けし、見えないパンチを頬へ叩きこむ。次は二人だ。左の男の腕を狙い蹴りを放ち、短剣を吹っ飛ばす。その勢いで顔面に横蹴りを極める。もう1人の男にはさらに逆回転し左の後ろ回し蹴りをぶっぱなす。




 あまりの強さに最後の1人は腰が抜ける寸前だ。「いやー!」っと叫びながら腹を狙うも右腕で外受けされ、同時に見えないパンチを浴びせられる。




 ジョエルは右手を見つめている。




(よしよし、もう1本の腕も使い慣れてきたぞ)




 ジョエルは新しい腕に自信を深めつつあった。






 1つの部屋で複数の男らが大麻を吸っている。大麻窟にはその煙が充満し、前がまともに見えないほどだ。




「う~ん、やはり大麻はいい」




 中央の豪華な椅子に座った素っ裸の男が、大麻を吸いながら言葉を発する。そこにいる者全員が「しかり」と、同意し、また大麻を吸ってはトロンとした目になる。




男の肩にはハートのタトゥーが入っている。




「マインド様、来客がいらしていますがいかがいたしますか?」




 せむしの小さな召し使いが、煙を払いながらマインドと呼ばれた男に報告にくる。




「通せ」




「はっ」




 現れたのは30歳くらいの髪の長い男。




「やい、マインドとやら、よくも俺の可愛い妹を凌辱し、大麻漬けにしやがったな!目にもの見せてくれるわ!」




 男は短剣を抜き、照準をマインドに合わせる。マインドがしかめっ面をする。




「無粋だねぇ」




 マインドはそう一言いい放つと、なんと宙を浮き男に近づいた。




 やってきた男は大きな声で言い放つ。




「俺の異能を受けてみろ! ビジュアル・ブレイク!」




 マインドの視界がいくつもの欠片に割れ、どこに焦点を合わせていいのか分からなくなった。




「死ねい!」




 男は短剣でマインドの胸を突こうとすると、ふわりとかわされる。




「その異能、気にいった。ブレイン・キラー!」




 男は突然何をしにここに来たのか分からなくなってしまった。大麻窟なので、大麻を吸いに来たんだろうと思う。




 もうもうとする煙でもうだいぶ大麻に酔っている。隣の男の吸引器を強引に取り上げ、自身も大麻を吸い始めた。




 マインドは男の全ての記憶を消した。そう延髄に至るまで……




 男は、呼吸をする事まで忘れてしまい、ぐったりと横になる。




 やがて事切れてしまった。




「劣等異能者め……」




 マインドは、男の死体に片足を乗せ、充血した目をむき大声で叫ぶ。




「うおー!」




 マインドに新たな異能が身に付く。体が熱くなり、気力が充満する。




「我は成し遂げたー!」




 マインドは満足し、また椅子に座り大麻を吸い始めるのであった。






 こちらはクロウ達。戦局はさほど変わってはいない。地面には、ところどころに大きな穴が空き、見えない相手に苦戦を強いられている。




 ザン!




 時おり槍がクロウ達を狙って天を突く。敵の深さは槍の長さを考えれば5カイル以上。もうズズの異能では届かない。




 ジョエルが子分4人を叩きのめしてクロウ達と合流した。




「なんだまだやってんのか」




「突破口がないんだ」




 ザン!




 危うくクロウを捕らえるところであった。




 カルムの足にも傷が付いていた。痛がっている様子で足を押さえつけている。




「剣から槍に変わったんだろう?簡単じゃねーか」




 ジョエルは自信ありげに足を踏みつけ音を出す。




「やーい、もぐらのくそ野郎。悔しかったら突いてみな!」




 ザン!




 槍の切っ先がジョエルを襲う。その時!




 がしぃ!




 なんとジョエルは槍の切っ先の下を掴んだではないか!




「なるほど!」




 クロウが驚嘆の声をあげる。




 ジョエルは怪力で槍を引きずり上げ始める。4カイル、3カイル、2カイル……




 そして下に向かって見えないパンチを繰り出す。




 ボコン!




 手応えがあった。もう一発。




 ボカン!




 たまらずウンリュウがザバンと顔を出した。




「この野郎。2発も打ちやがって!」




 この時を待ち構えていたカルムが糸を飛ばす。




「ぐげ!」




 首に巻き付く糸。カルムは思い切り糸を引っ張り、引き寄せる。




 ずるずるとカルムに引き上げられるウンリュウ。苦しいのか両手で首をかきむしる。




 そのまま数分が経過した。カルムの顔は憎悪で歪んでいる。




「カルム、止めるんだ。死んでしまう」




「クロウ、甘い!」




 5分が経過した。ウンリュウはぐったりと動かなくなった。




 その時である。




「うおーー!」




 カルムは体内の熱が上がっていくのを感じ、叫ぶ。




「我は成し遂げたー!」




「何を言ってんだか」




 ジョエルのちゃちゃにカルムが真面目に答える。




「分からない。そう叫びたくなったんだ」




 クロウが言う。




「何も殺さなくても……」




「クロウ、甘いんだよお前は。相手は俺達を殺そうとしてるんだぞ。ここで命を絶っていないと後々禍根を残すかも知れない。手配書が出回った時点で、もう後戻りは出来ないんだ!」




 クロウはジョエルを見る。




「俺もそう思う。悔しくはないのかクロウは。組織こそ違えど下劣な奴等に母と妹を殺されたんだろう?お前は復讐のために旅をしているんじゃないのか」




 もっともだ。みんな覚悟を決めている。自分ひとりが甘ちゃんだったのだ。拳を握るクロウ。




「分かった。俺も覚悟をきめる」





 その時である。ズズがクロウの前に出て、涙ながらに叫ぶ。




「なんでみんなしてクロウを責めるのよ!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ