デーデの力
「ズズー!」
ジョエルが瞬間移動し、ズズ救出に向かう。気絶しているようで、ピクリとも動かない。
「クリア!」
デーデが催眠術を解く。
マインドが宣言する。
「お前ら男どもを全員殺したら、その女をいただく。最近女を喰ってないんでな」
「なにぃー!」
ジョエルの顔色が変わり全力のラッシュをかける。
その攻撃を容易く見切るマインド。
と、突然マインドが叫ぶ。
「ビジュアル・ブレイク!」
ジョエルの視界がいくつかの欠片に割れ、焦点が合わなくなった。拳をいくら叩き出してもやたらめったらの突きになる。
マインドが超速で自分の席に戻ると、立て掛けておいた長剣を鞘からスラリと抜き、ジョエルに迫る!
「クリア!」
ジョエルの視界が元に戻った。目の前のマインドを見ると袈裟懸けの動作に入った瞬間だった。
剣先を見えない右手でがっしりと掴み取り離さない。その勢いで隙があった下段に蹴りをぶっぱなす。
右足のふくらはぎに極まった。
苦悶の表情を浮かべるマインド。
マインドはとっておきの異能をジョエルに向かって放つ。
「ブレイン・キラー!」
相手の行動を忘れさせる異能だ。術にはまると何がなんだか分からなくなる。
「ジャミング!」
これをデーデが妨害する。
「このくそガキ!」
ジョエルから剣を引き抜き、マインドがデーデに迫る。
するとデーデが透明になって逃げていく。きっと幼いころからこうして食べ物などを盗み、生きながらえてきたに違いない。
「くそっ!このガキの事は何も聞いていないぞ」
デーデを見失ったマインド。
超速移動しながら辺り一面をなぎ払っていく。しかし手応えがない。
「いやぁー!」
右足を引きずっているのを見抜いたクロウが、マインドに迫り短剣で突く。
カン!、カン!
2発突いたがマインドの力はまだまだ落ちてはいない。
マインドが長剣でクロウの心臓を狙い突きを出すとジョエルの見えない右手が横から払う。
ズバッ
肩を切り裂かれたクロウ。
「くそぉ!」
その時なぜか突然ビジョンが見えた。
でっふりと太ったダブルのスーツを着た男が札束をばらまいている……
スーツを着ているはずなのに、なぜか腕のタトゥーがみえる。それは天秤の柄だった。
「それ!」
現実世界に引き戻される。喉にマインドの長剣が伸びてくる。クロウは短剣で上に払いのけお返しにマインドの喉に向かって3連突きをかけるも、体をふっと後ろに下げかすりもしない。
「マインド様が圧倒的に優勢です」
ブリザードが、水晶玉を覗きながら言う。
「そうか。あいつならやれる。うまく立ち回ればいいがな。しかしデーゼとの戦いでの奴等の潜在的なパワーの事も分かったし、気が抜けない」
「潜在的なパワー、ですか」
「そうだ。奴等は群れると予想以上にパワーが出たりする。潜在的なパワーをお互いに引き出しあっているようなのだ。もしここでマインドが倒されたらオペムも楽々と倒し、俺の所にやってくるだろう」
デウスはワインを口に含む。そしてカーテンを開け日の光を部屋の中へ取り込む。
「面白い事になってきた。ふふ…」
そして窓の外を眺めた。
マインドがクロウに回し蹴りと後ろ回し蹴りの連続攻撃を打ち付ける。しかしその攻撃をかわそうと短剣を振り回すと、マインドの左の膝に当たったではないか!
「あぁー!」
ざっくりと膝に深い傷を負ったマインド。 これで俄然クロウのチームが優勢に転じた。
「イノセンス!」
マインドが新たな精神攻撃をクロウに仕掛けてくる。
記憶を奪い取り、それは延髄にまで達し呼吸まで忘れさせ、窒息死させる最も危険な異能だ。
「クリア!」
デーデの素早い対応で危うく最強の異能を食らわずにすんだクロウ。マインドは激怒し、声がした方向にひとっ飛びし、空中に向かって蹴りを何発か放った。
しかし当たらない。デーデは絶えず動き回っている。予測不能なデーデの動きの対応に苦慮しながらも、クロウと、ジョエルと戦わなければならない。
いまやデーデのお陰で圧倒的に不利な状況に追い込まれてしまったマインド。とにかくデーデを始末しないと精神攻撃をかけられない。
そこに両足に2本の糸が絡み付く。
動けなくなった両足の糸を剣先で切ろうともたもたしている間にジョエルの足技の猛攻が始まる。
5連続の横蹴りにぶっ倒れる。倒れてもジョエルの執拗な下段蹴りが続く。
ボキィ!
遂にマインドの右足が膝下から折れた!
それを合図に、ジョエルが右手で猛攻を続ける。何発も顔面にパンチを受けるマインド。すでにサンドバッグ状態になってしまった。
この事態を想定していなかったマインドは、防戦一方となる。
上段回し蹴りを右手でガードし、細かい連続突きを重い前腕で受け止める。そこに渾身の力が乗った正拳突きだ。これを顔面にくらいまた後ろに倒れるマインド。
マインドの異能は1人だけにかけられる。ふたり、3人と重複してかけられないのだ。重複してかけると前の人間にかかっていた術が解ける。
先ほどのジョエルの猛攻で顔が腫れ上がってきた。両まぶたが膨らみ視野が狭くなってきた。
「俺の顔をこんなにしやがって!くそぼうずどもがー!」
長剣を足におろし、なかば強引に糸を切断する。そして決断する。精神攻撃が出来ないのなら、自慢の肉弾戦でいくしかない。たとえ足が折れていようと父親……師父にたたき込まれ身に付けた技の数々…今頼れるのはそれしかない。
皮肉な事に退屈だと思ってきた事にすがりつく自分がいる。天才だと褒められ讃えられ、全ての弟子たち、全ての人間に勝ったと自惚れていたあの頃。旅に出て世間を知り、道場やぶりをした先である男に惨敗をきっし、その男をつけ狙い背後から剣で斬りつけ、逃れ、逃れたのがグイードといういつわりの安住の地。虚しさを埋めてくれたのが大麻だった。さらに腕を認められ、ヤクの売買の元締めとして君臨している。
今自分の人生が、走馬灯のように輝き消えてゆく。
不思議なもので、落ち着きを取り戻した。
マインドは骨折にひびかないように少しだけ浮きあがり、両掌をふわりと前に出して構える。
クロウとジョエルは打ち合わせをし、前からジョエルが、後ろからクロウが攻撃しようと決めてポジションについた。
まずはジョエルの攻撃だ。直突き、横突き、下突きを縦横無尽にくりだし、左の回し蹴りでしめる。クロウの方は後ろから袈裟懸けに斬るも、超速で避けられまた位置を移動する。このパターンで何度か攻撃を繰り返すも決定打には至らない。
その時である。マインドがクロウの方に向き直り突然精神攻撃を仕掛ける。
「ビジュアル・ブレイク!」
クロウの視界が幾重もの欠片に割れた。クロウは目を閉じ、己の勘を信じて短剣で思い切りマインドを突いた!




