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片腕の空手家

「ポートよ、なんだそこにいるじゃないか。ん? 誰だお前は」




 親方に気づかれたクロウ。こうなったらもう破れかぶれでいくしかない。幸い背丈は1.6カイル (1カイル≒1メートル) 程しかない。あまり強そうには見えない。




 相手は武器を持っていない様子。クロウは短剣を振りかざし親方の喉元に切っ先を当てる。




「な、何をするんだ。俺を誰か知っててやっているんだろうなぁ!」




 多分異能者に違いない。異能者は自分の力に自信が出て、悪の道に走りやすい。




「この男の子から聞いたよ。1日千ビードルしか分け前を与えないんだってな。もっと気前よく3千ビードルくらいやったらどうだ」




「だからお前は誰なんだって!」




「この子が俺にやられた金を取り戻そうと異能を使ってバッグを盗みに来たんで取り返しに来ただけさ」




「分かった。さあもういいだろう、離してくれ」




 クロウは静かに離れた。しかし短剣の切っ先は親方に向けたままだ。




「親方、なんで今日来たんだよ。明後日あさってが集金の日だろ」




 少年が訝いぶかしげに問う。




「急に金が要りようになったんだ。もう50万は稼いでいるんだろう、早く金を渡せ!」




 少年が戸棚の小さい金庫をいじくっていると、親方は手のひらに収まるくらいの大きさの水晶玉を出しその水晶ごしにクロウを見た。すると急に下手したてに出て話しかける。




「これはこれはお客様、もしポートの奴が至らない事をしたのならお許しください」




 ズドンとクロウはずっこけた。ここまで態度が豹変する奴も珍しい。なんだなんだと思っていると…




「そうだ。この小さな水晶玉を差し上げましょう。この水晶玉越しに人を見ると、異能者は赤く光って見えるんです。お客様も異能者のようで。私達共々お許し下さいませ」




 よほど異能者が怖いらしい。少し声が震えている。クロウはくすりと笑う。普段さんざん異能者に酷い目にあわされているんだろう。自分のような劣等異能者にまで怯えるなんて。




「少し聞きたい事がある。そこのガキに聞いたんだが、幹部っていうのはやはり強力な異能者なのか」




 親方は鋭い目つきで一瞬少年を見ると、また作り笑顔に戻り答える。




「そんな事はございません。皆様立派な方々ばかりでございます」




 クロウは水晶玉を受け取ると親方を見てみる。別に何の変化もない。異能者ではなかったのだ。




 しかし少年を見て驚いた。確かに全身が真っ赤に光り輝いていたのだ。これは嘘偽りもない本物だ。




「こんなものどこで手に入れるんだ?」




「私達のような正式メンバーには、組織からただで配られるんです。余計ないざこざを起こさないように。ケンカをふっかけた奴が異能者だったらたまりませんですからね。はい」




「な~るほどね。じゃあ遠慮なく頂いていくよ」




「どうぞどうぞ」




 クロウは水晶玉を胸の内ポケットにしまう。




 なぜ予定より早く親方が現れたのかなど、クロウにとってはどうでもいいことだ。




「じゃあな」




 クロウはあばら家を後にした。




(グイード・アル・バンダか…あまりこの国では荒稼ぎをしない方がいいかもな。しかし良い物をもらったな)




 小雨が降るなか宿に戻っていくのであった。





 3日後……




 クロウが公園のベンチに座り昼食のサンドイッチを食べていると、遠くの方からなにやら大声で叫びながら人が近づいてくる。




「待てー。泥棒ー!」




 見るとひとりの男が、ふたりの男に追いかけられている。




 追われている男は公園に入るとくるりと振り返りふたりを迎え撃つようだ。表情には余裕の笑みさえ浮かべている。




 よくよく見れば左手がない。これで戦おうというのか、無謀に思える。




 ふたり組の右の男が突っ込み取り押さえようとすると、追われている男は右の裏拳を飛ばし鼻に命中させる。




 どばっと鼻血が噴出し、右の男はよたよたと後退する。




 それを見ていた左の男は逆上し、なにやら拳法でもやっているのか独特の構えをとる。




 左の男がワンツーパンチを連続で繰り出してもかすりもしない。逆に追いかけられていた男が正拳突きを鼻に食らわすとこちらも鼻血だ。




 クロウの方は高みの見物だ。この1.8カイルもあるデカブツの兄ちゃんの方が圧倒的に強いと見た。




 追いかけてきたふたり組は互いに目をあわせうなずくと、腰に巻いている短剣をスラリと抜き、また構え直す。男はへらへら笑ったままだ。




 ふたり組の猛烈な攻撃が始まる。顔を狙って突いても紙一重でかわす。胴を突いても右手で払われる。左の男が胴を切ろうとした瞬間!




 ドスッ!




 左足の膝蹴りが腹部に命中し、左の男は短剣をポロリと落とし、前のめりに倒れこんだ。




「野郎!うちの菜館でただ食いした人間には死あるのみだ!」




 右の男が胴を狙い猛ラッシュをかけるも、すべて右手一本で受けられ払われ、勝負になっていない。




「どうしたどうした」




 男はまるで楽しんでいるかのように華麗に舞う。その技の見事さにクロウのみならず、いつの間にか見物人が20人ほど集まって3人を囲んでいた。




 追われていた男は顔を狙ってきた短剣の突きを避けると右足を飛ばし、右の男の顔面に回し蹴りを炸裂さくれつさせる。




ズバッ!




 吹っ飛ばされる右の男。ふらふらと立ち上がるも、もう戦意喪失している。ふたり組はその場を立ち去った。




 見物客達からコインが投げられる。クロウも拍手をしながら男に近づく。




「見事な腕前だな。それは何という拳法だ」




 夏の暑さのなか、皮のジャンパーを着ている男は少しクロウの顔を見ると、ふたり組が去った方を見やりながらぼそりと口を開いた。




「な~に、普通の空手だ。あのふたりが弱すぎただけだよ」




 そして見物客が投げてくれたコインを拾い始めた。




 クロウは考えている。用心棒にもってこいの男が現れたと。




「食い逃げをしてきたのか」




「ああ、たかが食い逃げにあいつら真剣に俺を殺そうとしやがった。物騒な世の中だ」




「旅をしているのか?」




「そうだ。東へ向かって。ちょっと野暮用があってな」




「名前はなんというんだ」




 男は少し間をおき、質問に答える。




「ジョエルだ。そっちは」




「俺の名はクロウだ。よろしくな。俺も東へ向かって旅をしているんだ」




 男は落ちている全てのコインを拾い集め、改めてクロウを見た。クロウは例の水晶でジョエルを見る。普通の若者だ。クロウより若干歳上か。




「食い逃げしたって事は旅費が尽きたか」




「ああ、2週間前にラマダニア王国を出発したんだが、最初に旅費を使い過ぎちまった。それからは食い逃げと野宿で凌しのいでいるのさ」




 クロウは本題に入る。




「よかったら俺と組まないか。俺は異能者でな、博打で金を稼ぐ事ができる。旅費は俺持ちでいい。今までも博打で稼いだ金でここまでやって来たんだ。そっちは用心棒をしてくれ」




「博打で勝てる? そりゃあ便利な異能だな! 乗った乗った。お互いに足りないところを補いあうわけだ」




 ジョエルの表情がパーッと明るくなった。




「まあ、立ち話もなんだし、あの木陰のベンチに座って一休みしよう」




 クロウとジョエルはどっかりとベンチに腰掛ける。旅の話しになった。




 ジョエルが語り始めた。




「俺はこの東の大陸の端にある、エソナ島を目指してるんだ。そこには古代に滅びたとされる超高度文明が実は今でも息づき、俺の失くした左手を再生してくれると人づてに聞いたんだ。万に1つの可能性を信じて旅をしているって訳だ」




「エソナ島にいくのか!俺もそこを目指しているんだ」




「ならば話は早いな。チームを組もう。大した敵じゃあないんなら俺が全滅させてやる。俺はこう見えても全世界空手道選手権で優勝したこともある。俺とタッグを組めば向かうところ敵なしさ」




 クロウがジョエルの左腕を見ながら質問をする。




「その左手は先天的なものなのか?」




「いや、13歳の時だ。空手の抜刀術の練習中に切り落とされたんだ」




「練習中に真剣を使うのか」




「ああ、真剣でないと本物は身に付かない。そこから右手一本で戦う術を身に付けた。ある程度ハンデがあったほうが、がむしゃらに鍛練にのめりこめるものさ」




 ジョエルは竹筒で作った水筒から水を飲む。




 クロウはこの結構大きな宿場町で稼ぐ予定である。




「ついて来なよ。俺が博打で勝てるところを見せてやる」




「面白そうだな、行こう行こう」




 ふたりは公園を後にし、町へ繰り出した。



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