ジョエルの男気
ズズを守って自らの拳を毒針に叩き込んだジョエル。
「クロウ!俺の右腕を叩き斬れ。早く!」
一瞬にして状況を掴んだクロウ。
「よし!」
ザン!
ジョエルの右腕が宙に舞う。
「ぐっ!」
ジョエルの額から脂汗が滲む。
「ジョエル大丈夫?ジョエルー!」
ズズがその広い背中を抱きしめる。
「1回やってるからな。2回目は怖くねーぜ」
「毒はなんともない?」
「この通りピンピンしてるぜ」
そう、毒が全身に回る前に右腕を切り落としたのだ。
その時カルムが糸を飛ばしジョエルの右腕をきつく縛る。ひどい出血が止まり、カルムは自ら糸を切った。
「ズズは離れて見ていろ。俺達3人で仕留めてみせる!」
腕から血をしたたらせながら前に進むジョエル。その後ろ姿を涙で見つめるズズ。
その時、ジョエルは見えない右手の変化を感じとっていた。射程は約5カイルにも達し、力は3倍に増幅したという確信。みなぎる力、あふれる自信。右手本体は死ぬほど痛いが、見えない右手の成長の喜びの方がはるかにまさっていた。
ついに両腕とも失くしたが、腕自体は、エソナに行けば再生出来る筈だ。ズズの命の方を最優先にしたのだ。悔いは微塵もない。
「とうとう腕がなくなったか。ばかめ、たかが女1人のために」
「たかが女のために死んでやる男が、1人くらいいてもいいだろう」
ジョエルの魂の叫びだ。
「愛する女を守るためなら、この命を捨ててもいい。たとえそれが大バカな行為であろうと、たとえ死ぬ事になろうと! しかし俺は負けない。お前を叩きのめすまでは!」
「そう、うまく……」
どこう!
「うがあ!」
ジョエルの見えないパンチがデーゼの顔面にもろにヒットする。吹っ飛ばされるデーゼ。
腕をひっこめるさいにうねうねとしている管を1本引きちぎってきた。
これで後3本。デーゼの周りを3人の男が取り囲む。
デーゼはやはりカルムを狙う。しかしカルムももうこの男の攻撃はお見通しだ。伸びてくる毒針を長剣で叩き斬る。
後2本。ジョエルに飛ばすも難なく管の部分を引きちぎり、距離を取る。
最後の1本になった。
しかしデーゼは余裕の表情だ。
「この俺の瞬間移動の異能、極限まで高めるとどうなると思う?」
しん……とする4人。
「限りなく透明人間に近くなるんだ!」
ふっ、ふっ、ふっと瞬間移動移動しながら一瞬だけ影のように姿を現すデーゼ。
それを見てクロウは作戦を変えた。
「みんな1つ所に集まるんだ。そして4人で背中合わせになる。これで後ろを取られる事がなくなる。前だけに集中出来る!」
「おぅ」
「よしっ!」
「分かったわ」
4人は公園の中央付近に集まった。そして背中合わせになった。
「無駄な足掻きを……」
ズズの前に突如出現し毒針を出そうとするが、ズズはすでに手のひらの上に黒い玉を作っていたのでデーゼは驚いて消える。
しばらく消えていたが、今度はカルムの前に出た。長剣で突き刺そうとするも、またふっと消える。
しかし、カルムの狙いはデーゼ本体ではなく最後の毒針だったのだ。毒針にヒットする、カルムの剣。毒針はカルムの前にポトリと落ち、やがて消えてしまった。
毒針は無くなった。
「このくそガキども!目にもの見せてやるわ」
腰に隠していた短剣をスラリと抜き、クロウ達に迫る!
そこにクロウの勘が働く。
「ジョエル撃つんだ!」
「おう!」
ジョエルは中空に見えないパンチを繰り出すと、ドンピシャのタイミングでデーゼの顔面にヒットする。
ぐしゃあぁ!
何しろ本物の右腕より3倍のパワーがある。デーゼの顔面は粉々に砕けちり、後ろによたよたと後退する。
ジョエルは間髪を入れずに今度は横突きをデーゼに飛ばす。
ぐわしゃぁ!
左の耳から入り、脳を突き破り右の耳から出現した。そのままどたりと倒れ、動かなくなった。
「やった!」
クロウとズズとカルムの3人は抱き合って喜んだ。
ジョエルが死んでしまったデーゼの体に片足を乗せ、思い切り叫んだ。
「我は成し遂げたー!」
体の熱が上がるのを感じるジョエル。しばらくそうしていたが、熱は冷め、やがてクロウ達の和の中に戻ってきた。
ズズがまた涙ぐむ。
「ばかばか、本当に無茶ばかりするんだから…」
ズズが背伸びをしてジョエルの頬にキスをする。
「よっしゃー!」
大声で叫んだと思うとその辺をくるくる回っている。よほど嬉しかったに違いない。
「点数は、何点だ」
ジョエルがズズに聞く。
「百点よ!ぐすん…」
ジョエルはさらに喜び、みんなとハグをし始めた。
ついに強敵、デーゼを倒した。
「デーゼ様がやられました……」
ブリザードが水晶玉を覗きながら、デウスに告げる。
「ふん、あれだけ慢心するなと言っておいたのに。次はどうする」
「マインド様をつかわせればよろしいかと。幹部の中でも実質、一番の力があるお方。ただ少しだけ気になりますのはあのデーデという少年の存在でございます」
「心を操るガキの事か?」
「はい。いくつもの異能を習得しているようで、中でも煩わしいのが『ジャミング』という異能。これから敵にかける精神攻撃を無効化する異能でございます。マインド様を手こずらせるのではないかと」
「そんなガキの異能など放っておけ。きっととるに足らんものだろうて。心を操るのはマインドには到底かなうまい。全てマインドに任せよ」
「はっ!」
「マインドを呼び出せ」
「御意」
ブリザードは、マインドに使者を出した。
クロウ一行は次の大きな宿場町で宿をとり、荷物をおき、特訓をしている。今日は自由一本組手。空手の訓練方法だが、ジョエルがそれを剣術に応用しているのだ。
カルムには同じ袈裟懸けを繰り返させる。クロウは自由に反撃をさせる。
デーデも特訓に加わる事になった。
まずは突きの稽古だ。突きをやらせてみて問題点を指摘する。その先生ぶりをベンチに座りながら微笑みながら見守るズズ。
1時間の特訓が終わった。みんなシャワーを浴び、さっぱりしてから着ていた服を洗う。最低限の清潔さは維持しておきたい。
それでも夕方の5時だ。食事に出るとこじゃれた菜館を見つけた。中に入り、みんな適当なメニューを注文する。
まずはみんなが頼んだチャーハンが出てきた。
「いただきまーす」
1日のうちで最も楽しい時間。ジョエルが真っ先にレンゲで食らいつく。
見えない右手で食っているのでレンゲだけが上下し、なにやらおかしげな芸を見ているみたいだ。
「便利な右手ね」
ズズが素直な感想を述べると「そうか?」と本人はまったく意に介かいさない様子。
ゆったりと食事を済ませ、町に繰り出した。今日は水晶玉を買う日だ。何軒かの雑貨屋を回るとあった!水晶玉だ。しかしクロウの勘がこれは偽物のガラス玉だと見抜いた。
店主に聞く。
「これはガラス玉だろう。本物の水晶玉が欲しいんだが」
「さ、さすがお目が高いお客さま。いかにもそれはガラス玉でございます。うちには、本物の水晶玉は置いてはおりません。お力添え出来なくて本当に申し訳ございません」
店を出て一行は町を歩く。
そこに街道の片隅に占い師を見つけた。水晶玉を机の上に置いてある。クロウが本物だと見定め、交渉する。
「すまないがその水晶玉を譲ってくれないかな。いくらぐらいするんだ?」
「おー、お客さま、それはできません。私の命の水晶玉ですから」
「命の?」
「はい、水晶玉というのは、使えば使い込むほど相性がよくなり、占いも当たりやすくなるのでございます。これはもう10年もの。私にとっては無くてはならない、替えのきかないものなのです」
クロウが渋い顔をして尋ねる。
「じゃあどこで売っているんだ?それだけでも教えてほしい」
「はい、ここを東に進み1ガイルほどいくと立派な門構えの邸宅に着きます。そこの主人が水晶玉のコレクターで私もそこで買いました。そのお方と交渉されてみれば如何かと」
「うーんコレクターねぇ……」
「なんだか面倒な事になりそうだな、おい。引き上げるか」
ジョエルがだれてくるとクロウが強い意思で一喝する。
「いや、まだ敵の攻撃方法も、正体すら分かっていない。是非とも手に入れなければ!」
クロウはみんなを促し、東へと歩き出した。




