突破!
所長の首に絡み付くカルムの糸。所長の集中力もカルムの方に向けられた。すると所長の思念体で出来ている網の力が弱くなってきた。
網を黒い玉で必死に削ろうとあがくズズ。弱くなった網の糸がついに1ヶ所だけぶち切れた。
( いけるわ!)
所長はそんな事に全く気づかずに、網を糸が出ている場所に向かって投げるも土の中に潜っているカルムには通用しない。
「ぐぎぎぎ、くそう!」
ズズは2本目の糸を削る。さっきよりさらに弱くなった網の糸がプツリと切れる。
所長はピンと張った糸を短剣でスパンと切り落とす。そう、カルムの糸は普通の琵琶びわの弦なのだ。
カルムはすかさず上半身だけ姿を表し切られた先の糸をまた所長の首に絡ませ、地面にザブンと潜る。
ズズは3本目の糸も切り、最後、4本目も削り切った。
ようやく手を出せる程の穴が開いた。
そこから右手を出して黒い玉を大きく膨らませ、所長に投げつける!
スパン!
所長の左の太ももより下が削り取られた!
「ぐぎゃーっ!」
倒れ込む所長。
そのとたん網が全て消え失せ、3人は地面に着地した。
ズズが吠える
「異能を操るのは意思の力よ。中途半端なあんたの意思の力じゃあ、私の意志は負けない!」
「命は取るか?」
クロウが冷静に所長を見ながらみんなに聞く。
「俺はいいや」
「同じく」
「これで一生不具者でしょ。その苦しみをずっと味わうがいいわ」
「決まったな。最後の仕上げだ」
ジョエルがそう言うと両手を折り、右足の膝をうち砕いた。
ついに難敵、所長を倒し、国境検問所を突破した!
次はゴエラス合衆国。幹部、そしてボスとの戦いが待っている。
みんな気合いを入れ直し前へと歩を進める。
荷馬車の小麦袋を捨て、デーデとズズが荷車に座る。
「いーなー。俺も乗りてーなー」
ジョエルが言うもズズが返す。
「あんたは駄目よ、体が重いでしょ。ねーズズ」
「うん!」
デーデはどうやらズズのお気に入りになったようだ。
「ところでクロウよう、大統領府ってーのはここからどれくらいの距離があるんだ?」
クロウが地図を開く。
「そうだなぁ、2百ガイルくらいか。1日40ガイルとして5日もあれば着くだろう。街道はまだありベルの港町まで続いている。大統領府からベルの町も2百ガイルくらい。小さな国だ。ベルの港からエソナ島に船が出ているらしい。なに、そんなに離れてはいない。せいぜい10ガイル程度、一時間もあれば到着するだろう」
「敵の幹部は何人だっけ」
「3人だ。俺がまだ1人で旅をしている時に、知り合いになった少年に教えてもらったんだ。しかし予知夢で見たのはさそりの男とハートの男のふたりだけ。もう1人は得体が知れないな」
馬に乗っているカルムが聞く。
「誰がどんな異能を持っているのか分かっているのか」
「悪いがさっぱり分からないんだ。俺の予知能力なんて所詮そんなもんだ……」
そこへジョエルが割ってはいる。
「へこむなよクロウ。みんな誰しも完璧な人間なんて居やしない。そうだ、明日はそこそこ大きな町に着くんだろう?」
ジョエルが地図を見ながらクロウを励ます。
「そこでデカい水晶玉を探そう。占い師がよくやってるじゃねーか水晶玉で未来が見えるって。クロウなら出来るさ」
「占いか、うーん分からないな。やってみるだけやってみようか」
クロウが顔を上げる。なんだかジョエルと話しているとポジティブな気持ちになってくるから不思議だ。
その時!
「来る!」
クロウの脳裏に敵が襲ってくるビジョンが浮かぶ。
「来るって、敵か?」
「そうだ。今夜だ。俺達が寝入ってから、寝込みを襲う気だ。おそらくさそりのタトゥーの男……」
「異能が分からないのなら、探り探り戦うしかないな」
カルムの言葉にクロウが応える。
「ああ、今までもそうやって戦ってきたんだ。たとえ幹部だろうと、たとえどんなに強敵だろうと、立ち向かうしか道はない!」
「カッコいいクロウ。プラス1点!」
「どういう基準で点数を着けているんだ?」
ジョエルが真剣に尋ねると、ズズが答える。
「感覚よ、か、ん、か、く」
「女の感覚なんか知るよしもねーからな」
「女の子はリーダーシップが取れる人に弱いのよ」
「この前優しい人って言ってなかったっけ」
ジョエルが、ふと思い出す。
「その時の気分で変わるの!あんた女の子とまともに付き合ったことがあるの?」
「修行漬けでそんな暇なかったよ!」
ズズがププッと笑う。カルムもつられてニヤリとする。
「ふふ、やらずのはたちめが。ふっ」
「なんだよ。その蔑さげすむような目は!」
「まあ、忘れてあげる」
ズズが言う。
「たから何を忘れるんだってば」
「はいはい」
話しは堂々めぐりで小さな宿場町についた。
見たところ普通の宿場町だ。宿も確保した。
早速ジョエルの特訓が始まる。
「今日は、胴に長剣が刺さる前の受けだ。顔面を払うのと違って的が大きく避けにくい。まずは外受けだ。覚悟はいいな、クロウにカルム」
「おお!」
カルムがクロウの胴を斬る。クロウは、それを斜めに払う。払いが遅いと体を切ってしまう。
最初はゆっくりと呼吸を合わせながらやり、どんどんスピードアップし、最後は実戦と同じ速度になっていく。
ふたりの額から汗がほとばしる。百回が終わる。
「よし次に逆向きに払うんだ」
毎日の特訓でクロウもカルムもかなり自信を持ちつつあった。
夕食を食べに町へ繰り出す。
一応雑貨屋に寄るも水晶玉なんか置いている訳がない。
「クロウ、デーデがね、短剣が欲しいって言ってるの。買ってくれない?なんでも剣士になりたいんだって」
「おぅいいぞ、高くなかったらな」
「相変わらずのしぶちんね」
「今から武器屋に行こう」
クロウ一行は、飯の前に町を歩いてみる事にした。
武器屋に入るとお客さんはまばら。田舎の武器屋なんてこんなもんだろうと思いながら、子供用の短剣を探す。
親父さんに尋ねると、すぐに出してくれた。子供用とはいえ大人用を一回り小さくしただけの本物だ。磨ぎもしてあるのでちゃんと斬れる。
デーデは、一発でその剣を気にいった。
「これがいいや、駄目?」
「5万ビードル……う~ん」
ジョエルが悩んでいるとズズが口をはさむ。
「それくらい払ってあげなさいよ。真剣なんでしょ安い筈ないじゃない」
「分かった。じゃあ買ってやる。明日からデーデも特訓に加わるんだぞ」
「うん。わーい、やったー!クロウありがとう」
屋台で飯を食い、また宿屋に戻る。今日敵が現れるとあってみんな少し緊迫している。
今日はクロウとズズとデーデ、ジョエルとカルムがふたてに別れて眠る事になった。
夜9時、ランプの火を消しみんなベッドに転がる。敵の侵入に備えて眠ってはいけない。時間が過ぎるのが遅く感じる。
真夜中不吉な予感がして月明かりが射し込む部屋をぐるりと見渡す。
なんとそこには紫色の管の先に針がついた物体がゆらゆらと蠢うごめいているではないか。
そして一直線にクロウ目掛けて飛んでくる!




