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荷馬車

「おっはよー」


 ズズがクロウの布団の上から抱きついてくる。仰天して目が覚めるクロウ。


「なんだ。今日は朝からハイテンションだな」


「もう朝の8時半よ。みんなとっくに下で朝ごはん食べているわよ。クロウも早く起きて。ほら」


 壁掛け時計を見てみると確かに8時半だ。実は昨日は馬車の手配や、麦わらの算段などを考えていて遅くまで眠れなかったのだ。睡眠時間は正味6時間くらい。まだまだ寝足りない。


 ズズが馬乗りになり上下に揺らす。


「分かった、分かった、分かったから!」


 さすがに睡魔も吹き飛んでいった。


 そして、なぜだかほっぺたにキスをされた。どう繋がっているんだと、もう訳が分からない。


「下に行ってるからね」


 ハイテンションなズズがどたどたと消えた。


 洗面所に行き、今朝見た夢を思いだした。ハートのタトゥーが腕に彫り込まれている敵と戦っている自分……こいつも幹部の1人に違いない。


 しかしそれ以上は思い出せなかった。



 下に降り、朝粥を注文する。


「まずは馬を買わなきゃな」


 カルムがクロウに言う。


「そうだな。次に馬用の荷台に麦わらだ」


「町を駆けずり回っていたら今日1日くらい潰れるんじゃないか?」


「そうなった時には仕方がない。またこの宿屋にとまればいいさ」


 クロウがそう言うと、カルムがつい本音を漏らす。


「正直、そこまでしてデーデに国境を渡らせる意義はあるのだろうか。確かに持っている異能の素質は素晴らしいかもしれない。しかしそれと、俺達のチームに迎え入れるのは別問題のような気がするんだが」


 それを聞いたジョエルがカルムの胸ぐらを掴む。


「あぁー?今さら何言ってんだ、お前!デーデはもう俺達の仲間だ。そんな事を言ってるからお前は冷徹人間だって言われるんだ。義理人情ってものはねーのかよ!」


「わ、分かった分かった、悪かった。拳を納めてくれ」


 クロウがふたりのなかに割って入り、ジョエルは投げ捨てるように手を離す。


「デーデが俺達に迎え入れられた時の輝くような笑顔は俺は一生忘れない。そんな笑顔の積み重ねがいい人生を作っていくんじゃねーのか」


「おぅ?」


「何だよクロウ」


「いやお前にしては、いい人生哲学を持っていると思ってな」


 一呼吸おいてジョエルが答える。


「俺の師匠がいつも言っている言葉だ」


「いい師匠だな」


「ああ」


「見直しちゃったわ。あんたの事。ちょっとぐっと来ちゃった。点数プラス3、一方カルムはマイナス2」


 玉子炒めを食べていたズズが評価を加える。


 少し顔を赤らめながらジョエルがクロウに言う。


「2班に別れた方がいいだろう。クロウ、指揮してくれ」


「じゃあジョエルとカルムが馬の手配、俺とズズが荷台に麦わら。それでいいな」


「なーんでこいつと一緒に」


「仲直りしてくれという親心だよ。さあ、飯を早く食い終わろう」


「クロウのリーダーシップに、プラス2点ね」


 ズズが冷静に男達を見定めている。


「女っていうのはこれだから……」


 ジョエルがうっかり漏らした本音を聞き逃さないズズ。


「これだからってなによ。女はそういう生き物なのよ」


「とにかく出発だ。チームプレーで乗り切るぞ!」


 ズズがデーデを起こしに行き、食事を与えるとクロウ、ズズと一緒に行動を開始した。



「馬を買いに行けったってなぁ」


 ジョエルがカルムにそれとなく言うとカルムが答える。


「宿屋に繋がれている馬を見つけてその持ち主と交渉する。30万ビードル預かってきたんだろう?それくらいあれば、間違いなく買えるさ」


 しばらく行くと馬が繋がれている宿屋を見つけた。早速中に入って交渉を始めた。


 馬の持ち主はでっぷり太った冒険者。チームも組まずに1人でトレジャーハンターをしているらしい。


「百万ビードルだ」


「何だよ。えらい足元を見やがったな」


「俺だって馬が必需品なんだ。そうおいそれとは手放せない」


 ジョエルが踵を返す。


「おい、カルム。出るぜ」


「70万でどうだ」


「どんなに名馬であろうと、そんな金最初から持ってねーよ」


 ジョエルの言葉を受けて、カルムが正直に手の内を明かす。


「俺達が持っているのははなから30万ビードルなんだ。ふっかけてくるのは構わないが交渉にならない。頼む、30万で譲ってくれないか」


 男は膨れっ面をしてワインを飲む。


「交渉にならないな。他をあたりな」


 ジョエルとカルムは、仕方なく宿屋を出る。


 ふたりは同じく馬が繋がれている宿屋を転々と交渉してまわるが、値段が50万を切る事はなかった。


「最初から50万ビードルを渡していてくれればよかったんだ。そういう勘は当たらねーのな、クロウのやつ」


「なかなか難しいもんだな。持ち主にとっては馬に愛着もある事だし、30万ビードルのはした金なんかで手放したくないんだろうよ」


 ふたりはとぼとぼと並んで歩いて行く。




 林の中からいきなり男が現れた。


「おい、デウスとやら。お前の悪逆無道の数々、我ら自警団にはすべてお見通しだ!このファーマの槍の餌食にしてやる」


 その言葉を合図に10人ほどの若者が、手に手に槍を持って林の中から現れる。


 デウスは馬に乗ったまま、ふわりと浮き上がる。


「槍使いの俺に槍で勝負を挑むとは笑止。来い、大地にお前達の生き血を吸わせてやる」


「ほざけ!」


 男が槍で突こうとするとデウスは槍をあわせ、かるくいなす。


「うわ!」


 男の槍が吹き飛んでいった。


 そこへデウスの槍が男の背中を貫く。裏から心臓をとらえられ、すぐに息絶えてしまった。


「やろう!」


 10人の男が一斉にデウスに向かっていく。しかし強い!槍を自在に操り、男達を滅多刺しにしていく。


 ドシャメシャと倒れていく自警団の男達を嘲笑うかのように空中をふわりふわりと飛び回る。


 最後の男が完全武装をして、林の中から出てきた。


 男は構える。自らの神に祈りを捧げながら。


 カン、カン、ガシィ!槍の腕は互角!その時男は最後の手段に打って出る。


「マルチプル・スピアー!」


 男の槍が何本にも割れ、デウスに迫る!


「憤!」


 デウスはそれらをすべて一撃で叩き落とし、さらにふわりと上空に舞い上がった。


「伸びよ!」


 デウスの槍が瞬時に10カイルにも伸びる!


 武装していない唯一の急所、喉に突き刺さる。


「ぐふぅ!」


 槍は喉から入り、男の背中に貫通する。


「うがー!!」


 デウスはまたふわりと着地する。


「すぐには殺さん。苦しみ抜いて死ね」


 男はピクピクと痙攣し、もう虫の息だ。


 その様をじっと見つめるデウス。


 やがて馬から降り、槍で頸動脈を切る。血が吹き出る男。


「武士の情けだ。しかしお前の異能もなかなかのものだった」


 ガックリ


 男は天に昇っていった。


 デウスは片足で男を踏みつけ、自分の体中が熱くなるのを感じる。


 そして充血した目で思い切り叫ぶ。


「我は成し遂げたー!」


 だんだんと熱が冷めていく。


 そしてまた馬に乗り、ふわりと上空へ飛びあがりどこかへ去ってしまった。




 こちらはクロウとズズとデーデ。1日中いろんな人に聞いてまわるが、荷馬車の事に詳しい人などそうそういる訳がない。


 落ち合う筈の宿屋の前に、やはり収穫のなかったジョエルとカルムが帰ってきた。


「駄目だ。どうにもならねぇ……」


 ジョエルがガックリと肩を落とし、疲れきった表情でクロウを見る。


「俺達もだ。作戦を変更するか……」


 そこへトコトコと、荷馬車に小麦袋を乗せた老人が行き過ぎた。


「「あー!」」


 あわてて老人に駆け寄る5人。


「ご老人、その荷馬車、馬も合わせて80万、いや、百万ビードルで売ってくれませんか!」


「百万も!それだけあれば十分じゃ。ほれ」


 老人は、馬から降り手綱をクロウに手渡した。


「やったー!」


 5人そろって大はしゃぎだ。


 老人も百万ビードルをもらい受け、ホクホク顔で酒場へと入っていった。


 馬術の経験があるカルムがさっそく馬に股がる。


 トコトコとゆっくり歩いていいあんばいだ。馬はすれたところもなく、カルムのいう事をきく。


 宿屋の柱に手綱を結びつけかいばを与え、みんなで宿の中に入った。


 今日は夕食も旨かろう。クロウは空を見上げた。




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