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俺の人生はついてない

クロウがガゼルを発見する。ガゼルが逃げようと先に進むと回り込んだジョエルと鉢合わせとなる。ズザザッとよろめき誰もいない方向に走りだすと、大地の中から糸が飛び出し足に絡みつき動けなくなってしまった。


「くそっ!くそおっ!」


 ジョエルがガゼルをタコ殴りし始める。


「俺の人生は、何で肝心なとこでいつもこうなんだ!」


「知るかボケ!」


 ガゼルが隠し持っていたナイフを取り出しジョエルに突き出すと、ジョエルは上げ受けをし、その腕を脇に抱える。そして見えない右手の手刀でガゼルの上腕を叩き折る。


「うぎゃー。くそっ!」


 ナイフが地面に転がり落ちる。ジョエルはいったんガゼルを放し、思い切り中段回し蹴りをするともう一方の腕も折れてしまった。


 たまらずガックリと膝をつくガゼル。


「くそおっ!くそおっ!」



「元に戻す方法を教えろ。死にたくなかったらな」


 クロウが冷ややかに告げると、ジョエルが腹に前蹴りを飛ばす。たまらず倒れ込むガゼル。


「分かった言う。言うからこれ以上はやめてくれ」


 クロウ達は少し待つ。しかししゃべろうとはしない。


 ジョエルがもう一度思い切り前蹴りをすると、半回転して仰向けにひっくり返った。


「絵を!」


「絵をなんだ」


「絵の表面を女の背中にあて思い切り叩くんだ。はぁはぁ、すると魂がまた女に戻り女は蘇生する」


「ついて来てもらおう」


 クロウとジョエルはアイコンタクトをし、ジョエルがガゼルを肩に担ぐ。


 森を抜け、街道へ戻った。ズズが倒れている。デーデが心配そうにこちらを見ている。


 ジョエルがガゼルを道に投げ捨て、絵を手に取るとズズをうつ伏せにし、背中に絵を押し付けた。


「ズズ、すまん…」


 ジョエルが構える。


「どりゃーっ!」


 ジョエルが絵を正拳突きで思い切り殴る。


「う、うう……」


「ズズがよみがえった!」


 喜ぶみんな。


 ズズはふらふらと立ち上がり、いきなりジョエルの太ももを蹴る。


「そんなに強く殴らなくてもいいじゃないのよ!この唐変木!」


 クロウとカルムが笑った。



「さて、命を取るかどうかだが、どうする?」


 カルムが冷静に言う。


「こんなまどろっこしい異能、俺はいらねーぜ」


 クロウも同調する。


 ガゼルがあわてて叫ぶ。


「俺の異能は、絵が上手くないと使えないぜ!命だけはどうか見逃してくれ。頼む!」


「なに都合のいいこと言ってんのよ!私を殺そうとしたくせに!」


 ズズが黒い玉をガゼルの顔面に飛ばした。顔の半分をえぐりとる。


「ぎあー!」


 ガゼルは尻餅をつき小便をもらした。


 ジョエルが抑揚のない声で告げる。


「誰もお前の異能はいらないそうだ。よかったな。命だけは助けてやる」


 ほっとするガゼル。


「俺はこれまでただ両手両足を折るだけだった。しかしそれでは半年もすると復活してしまう。これからは違う。お前の膝をぼき折り複雑骨折をさせ、一生不具者として生きてもらう。不具者の痛みを思いしれ!」


 ジョエルは鬼の形相でまず右足の膝を踏みつけ叩き折る。そして間髪を入れず左足。ぎゃーぎゃーわめくガゼルにジョエルは怒気をはらんだ声で言う。


「お前らのボスに言っとけ。明日は我が身だとな」


「くそっ!くそおっ!」


 ガゼルは戦闘不能になった。



「まだ背中が痛いわ」


 そう言う度にジョエルの太ももを蹴りつけるズズ。


「もうやめてくれよ、ズズちゃん。ああするしかなかったんだ」


 カルムがクロウにつぶやく。


「今度は相当おかんむりのようだぜ、ふふ」


「ははは、仲がいい証拠だ。それよりもデーデもお手柄だ、なあカルム」


 クロウがデーデの頭をなでる。


「まったくだ。デーデの一言がなかったら、あのままやり過ごしていたかも知れない。その調子だぞ。デーデ」


 カルムの言葉にパーッと晴れやかな表情をするデーデ。


 5人はまた絆を深めるのであった。




「ガゼルがやられました。両膝を複雑骨折し、重傷です」


「そうか、確実に力を着けつつあるようだな……デーゼを呼べ」


「御意」


 デウスは窓の外を見て、また葉巻に火をつけるのであった。




 カン、カン、カンッ……


 宿屋の前でクロウとカルムが短剣と長剣を交えてジョエルの特訓を受けている。


「よーし、『斬り』の『受け』の練習はそんなもんだろう。少し休憩をして次に進むぞ」


 15歳の頃から年少組に指導をしているだけあって、ジョエルの先生ぶりは堂に入ったものだ。特にクロウには厳しく接している。攻撃方法が短剣しかないからだ。カルムには、自己流の改善を指摘している。


 ふたりが休憩している間に自らの稽古だ。この前敵に出した左の後ろ回し蹴りが納得いっていないようで、それを百回繰り返している。


 しかし技が速い。まさに「空を切る」ような後ろ回し蹴りである。汗もかかずと淡々と繰り返している。


 ズズとデーデは門の足場に座り、饅頭を食べながらそれを眺めていた。


 ジョエルの稽古も終わった。いい感触を取り戻したようだ。


「よーし、次は『突き』に対する『払い』だ。クロウ、さっきよりも数段難しくなるぞ。顔に剣が突き刺さるかもしれない。覚悟はあるな」


「ある。いつでも来いだ」


「上等だ。次にカルム。自己流なのでやはり突きの軌道がぶれる。そこを気をつけるように」


「分かった。焦点を定めるということだな」


「そうだ。ではふたりとも手抜きをせず真剣にやるように。始め!」


 カルムが長剣でクロウを突く。クロウはそれを上に払う。これを百回繰り返す。


「はぁはぁ、はぁ」


 カルムの息が上がってくる。クロウもきつくなってきた。体力を消耗するのはカルムのほうだ。なにせ短剣より数段重い長剣を振り回している。短剣と長剣、一長一短あるが、お互いに馴染んでいる剣だ。ふたり、どんなにきつくても食らいついていく。


「男の人ってたいへんね。ねーデーデ」


「僕も立派な剣士にやりたいんだ。ねぇ短剣買ってくれないかな?」


 デーデの意外な夢にズズは驚く。


「あらあら、やっぱりデーデも男の子ねぇ。いいわ、今日お姉ちゃんが、クロウに頼んでみるわ」


「きっとだよ」


「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます!」


 そしてふたりで笑った。


 5人とも熱いシャワーを浴び、一階にある食堂に集まった。ジョエルは早速好物の麺とチャーハンを頼んでいる。みんな腹を空かしているのか、同じものを頼む。


「私はダイエット中だから、餃子だけでいいわ」


 とズズが言うとジョエルがからかう。


「さっきあんなに饅頭食ってたじゃねーか。そりゃ太るわな」


「またいらない事を……」


 ズズがキッとジョエルの方を見た。


「おー、怖い怖い」


 ジョエルが笑いながらかわす。



「ところで明日の国境検問所のことなんだけど」


 クロウが切り出す。


「検問所がどうしたの」


「デーデだけ通行証を持っていないんだよ。どうする?」


 カルムが答える。


「そりゃあ、馬車の荷台に麦わらを積んでその下にデーデを隠す。それでいいんじゃないか?」


「定番よね。槍のようなもので突かれたりしないかしら」


「荷台を調べ始めたら、強行突破するか?危ない賭けだが」


 クロウがひそひそ声でみんなに言う。


「それで行こう。なーに、検問所の人間なんてしょせん一般人だ。こっちは異能者が4人もいる。目じゃないね」


 と、ジョエル。


 果たして検問所を無事に通過できるのか?


 暗雲がたちこめる。



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