変化麺とデーデ
2発目が白い男に入った。どたりと倒れる男。
カルムが渾身の力を込めて白い男を引きずり出す。
「おりゃー!」
ジョエルが顔を思い切り蹴飛ばす。白い男は抵抗を止めガックリとなる。気絶したようだ。
ズルズルと引っ張り出される白い男。ジョエルがさらに両手両足の骨を折る。
「こんだけやりゃあもういいだろう」
ジョエルが憎々しげに言うとカルムが聞く。
「命は取らないのか?」
「こんな異能、趣味じゃねーや」
ジョエルは男に唾を吐きかけた。
白い男は再起不能になった。
時刻は夕方の5時だ。クロウとジョエルもシャワーを浴びて、夕食に出る事になった。
みんなズズの浴衣姿にドキドキしている。しかしなぜかジョエルが横を譲ろうとはしない。ズズはお腹の傷を気にしているみたいだ。
「縫ってやろうか?」
カルムがかって出るが、「かすり傷だから」と言われる。
適当に麺の屋台に4人で腰かける。ジョエルとクロウが、酒を注文する。
「あら、クロウが飲むなんて珍しいわね」
ズズが驚く。クロウが答える。
「今日はなぜか飲みたい気分なんだ。さっきのかべちょろも気にいらなかったんだ。逃げてばかりでよう、まともに勝負しやがれってんだ。ちくしょう」
「そんな物言い、まるで誰かさんみたい。クロウらしくないわ」
「誰かさんって、もしかして……カルムか」
ジョエルがそう言うと、みんなで壮大にこけた。
「あんたよ、あんた!」
ズズがジョエルの顔をビシッと指さす。
「はい、お酒二杯ね」
ジョエルは、ゆっくりと、クロウはごくごくと一気に飲み干す。
「俺は増量麺をくれ。訓練でだいぶ腹が減ってるんだ」
クロウが真っ先に注文すると、次はズズだ。
「私は減量麺。最近体重が……」
「はいよ」
次はジョエル。
「俺は豚骨麺。とんこつラーメンが大好物でな」
カルムが注文する。
「俺は牛骨麺を頼む。珍しいじゃないか」
「はいよ」
主人が麺を湯切りし、まずはクロウの増量麺が出てきた。
ズズ、ジョエル、カルムにそれぞれ麺が行き渡る。
「いただきまーす」
「あー、とんこつラーメンはこうでなくっちゃな」
ジョエルは満足している様子で機嫌がいい。
「牛こつラーメンも牛の出汁が出ておつな味だ」
カルムも応える。次はズズだ。
「こっちは魚介のスープみたいね。いいお味」
最後にクロウ。
「俺のは野菜の出汁かな。甘口で旨いや」
みんなそれぞれの麺に満足している様子。しかしジョエルがクロウの変化に気づく。
「あれっ。クロウ、お前そんなに太ってたッけ」
「なーにー。何の事?」
クロウはでっぷりと太ってしまった。次はズズだ。
「ズズ!痩せすぎだ。死ぬぞ!」
「なんか、一気にふらふらしてきたの。そういうあんたこそ、顔が豚になってるわよ」
「な、なんだってー!」
ジョエルは自分の顔をベタベタ触りまくる。
「ほ、ほんとだ。と、いうことは……」
みんな一斉にカルムの顔をこわごわ見る。そこには巨大な牛の顔に変化したカルムがいた!
「だはーははは。だせー!!」
豚になったジョエルが大笑いしている。
クロウは水晶で主人を見てみる。真っ赤に輝く異能者だった。
「おやじ。どうなってんだ!」
ジョエルが凄すごむ。
「はい、増量麺を食べた方は減量麺を、減量麺を食べた方は増量麺を、そのほかの方は人間麺を頼んでいただくと元に戻ります」
「なんだと、このやろう!」
「止めろジョエル。ここは従うしかなさそうだ。麺も旨かったしな。もう一杯づつ食おうよ」
仕方なしにみんなが元に戻る麺を頼むと、主人がそれぞれもう一杯差し出していく。
みんなが元に戻っていく。
「あーもう胸くそ悪いな。ラーメン2杯だぜ。さすがの俺も腹がふくれたぜ」
腹をさするジョエル。そこで5人の男とすれ違った。
「おやじ。今日のショバ代!」
「は、はい。ただいま」
クロウが振り返る。
「なるほど、あいつらに金をむしり取られるから、稼がなくちゃならないんだ」
クロウが男達に声をかける。
「おい、おやじさんにたかるのはよすんだな」
ずりっとやくざ達が振り向き近づいてくる。
町の大通りだ、戦う広さは十分にある。
「今日の俺は機嫌が悪い。さっき俺が払った代金がお前たちに渡ると思うと反吐が出るぜ。かかってこい。ボロボロにしてやる!」
「クロウ、またジョエルみたい」
やくざ達が一斉にかかってきた。クロウは、ジョエルを前に押し出す。
「おれー?」
「こういうのは用心棒の仕事だろう!」
「そうだな。まあ、しょうがないか」
やくざ達はナイフを振り回してくる。前の男にダブルパンチをお見舞いするジョエル。
「これ以上は行かせねーぜ」
次の男のナイフを掴んだ手を右手で受け、見えないパンチを腹に極める。次は右横蹴りで顔をふっ飛ばす。次はナイフをかわし、顔に横突きを食らわす。
4人をあっという間に倒してしまった。
最後の男は短剣をスルッと鞘から抜く。
「俺がやる!」
ジョエルの前にクロウが立ちはだかる。ジョエルは後ろに下がる。
「鍛えた技を見せてやる!」
クロウも短剣を抜く。
「お前ら、グイードの者か」
「そうだ。それがどうした!」
「ならば容赦はしない!」
「なんだとー。グイードの恐ろしさを知らないのか?」
「ほざくな。かかってこい」
やくざのリーダーと思われる男は「いやー!」と気合いを入れながら、クロウを袈裟懸けに斬ろうとする。
クロウは、それを同じく短剣で受けとめる。
つばぜり合いになった。少しずつ押し込まれるクロウ。
と、男は突然、自分が何をしているのか忘れてしまった。バンッと男を跳ねのけ、右胸を突き刺すクロウ。短剣が深々と胸に入り、男は戦いの最中だとやっと思い出すも、すでに遅い。致命的な傷を負った男は短剣を振り上げようとするも、もう右手に力が入らない。
ふらふらと後退する男。
「お前らは。はぁはぁ、必ずグイードの仲間が殺すからな、はぁはぁ、覚えておくんだな」
やくざ達はその場から立ち去った。
クロウは自分の短剣をじっと見つめている。
「やったわね、クロウ!」
ズズが駆け寄る。
「いやおかしな感覚なんだ、つばぜり合いの時、相手の男が、一瞬何をしていいのか分からなくなってしまったようなんだ。これはもしかして、異能……」
「それ、僕がやったんだ!」
路地裏から、10歳くらいの男の子が出て来て、説明しはじめた。
「僕の異能は相手の記憶を自在に操ることなんだ。だからさっきやくざの男の記憶を、一瞬消しとばしたんだ。僕の異能は他にもあるんだ。テレパシーだろう、ジャミングだろう、そして、そしてそれから…」
「全体的に相手の心を操る異能か!」
「そう。だからお金ちょーだい」
みんなこけてしまった。
暗がりだが、よく見ると半袖シャツにボロボロの短パンと汚い格好をしている。孤児なんだろうか。
財布をとりだし、クロウが1万ビードルを渡したら男の子はたいそう喜んだ。
クロウ達は男の子を適当な屋台に連れていき、チャーハンを食わせる。
「お前、親は?」
「いないよ。2年前に父ちゃんも母ちゃんもグイードに殺されちゃったんだ。それ以来日銭暮らしさ」
「どうだろう。俺達と一緒に旅をしないか。お前のその異能、非常に役に立ちそうだ。食い物にはこまらないぞ、どうだ?」
「本当に?」
「ああ。本当だ」
「やったー!」
男の子が輝く笑顔を見せた。
「名前は何というんだ?」
「デーデだよ。上の名前は忘れた」
「俺の名前はクロウ。これからよろしくな」
「カラスなの?」
ずけずけ言ってくる子だ。
「まあ、そういう意味だが……名前の意味なんかあんまり考えるなよ」
「分かった」
「素直でよろしい」
それから夜まで開いていた服屋に入り子ども服をひと通り揃えてやった。
ホテルに戻ると白い男は消えていた。きっとホテルの人間が病院にでも連れていったんだろう。
バスルームに入り、デーデをこれでもかと徹底的に洗いあげた。体をふき、新品の服を着せるとそれなりに見栄えもよくなった。とんがり頭のかわいい子だ。
「こっちのお兄ちゃんはカルムと言う。挨拶は?」
「デーデです。よろしくお願いします」
「おう、こっちこそな」
「隣に行こう」
「はい」
クロウがノックをし、中に入る。
「なんだ。なそなぞしてたのに。おっ、この新入りの坊主か。俺の名前はジョエル、よろしくな」
「よろしくお願いします」
デーデが頭を下げる。
「私はズズよ。よろしくね」
「デーデです。よろしくお願いします」
ひととおり挨拶も終わり、部屋に戻る。クロウは自分のベッドで二人して眠った。




