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with us!(仮)  作者: soruto
1st-game [Survival Shop War]
3/6

第二話【GAME START】

ゲーム実況。

 そう呼ばれるコンテンツは今からおよそ三十年前、自身の会社が制作したゲームを社員がプレイしながら解説していたのが始まりと言われる。二〇〇三年に放送されたあの()()()()()()()()()()()だ。その番組で自分がゲームをプレイするのを視聴者に見てもらう現代に近いスタイルが確立された。

 時は流れ二〇〇八年。有名動画配信サイトで「実況プレイ動画」なるものが流行する。インターネットで実況動画を見る文化が定着した。

 そして現代。ゲーム実況者においては二つのタイプが存在する。

 一つは自分がゲームをプレイしたものを録画し、編集し動画投稿サイトにアップロードするタイプ。

 二つ目は主に動画投稿サイトや生配信サイトにおいて自分がプレイしている映像をそのままリアルタイムでインターネット上において共有するタイプ。このタイプの実況者にはもう一つの呼び名がある。「ストリーミングする者」を英語ではstreamer。ストリーマーと言う。



『どうもみなさんこんにちは!with usのクロンです!』

『with usの若菜です!』

 さっきまでの会話が嘘だったかのように明るい声がPCルームに響く。

『今日もいつも通り二十二時から配信があるんですけれどこの配信ではその練習をしようかなって突発で配信してまーす』

『クロンが練習配信をするなんて珍しくない?』

『いやー今日はどうしても勝たなきゃいけない理由があって……ちなみに僕とシンでやりますよ』

 そう俺が言うと

 ──シン君来るの!?

 ──え?クロンってFPS苦手じゃなかったっけ?

 ──クロン辞めといた方がいいよ

 そう辛辣な言葉が俺に来るのも理解できる。何を隠そう俺はFPSゲームが苦手なのだ。FPSとは「本人視点シューティング」の略称で自分がプレイするキャラクターの視点上でマウスを使い敵に照準を合わせないといけないため高難易度のゲームとして有名なジャンルだ。

 左手でキーボードを操作しながら右手でマウスを動かして敵に照準を合わせるとか難しすぎないか?また、シンはこのFPSゲームがとても上手い。FPSゲームには基本的にレベリングはなく己のプレイスキル、つまりはどれだけの時間と情熱をそのゲームに打ち込んだかで強さは変わる。

 それはシンも例外ではなく彼はそれらを注ぎ込んだ結果として強さが付随してきたのだ。

『じゃあ始めるけど準備はいいか?』

  俺は若菜にそう声を掛けるとヘッドセットの外からもちろんOKだよ!という元気な声が返ってくる。そして俺はマウスカーソルを画面中央にある【START】と書かれているボタンに合わせクリックをする。

  すると無機質なUIに『武器を選択してください』というテロップが出てその下には

 銃のカタログのように沢山の銃の写真が名前と共に並んでいる。

 今、俺達が遊んでいるゲームのタイトルはSurvival(サバイバル) Shop(ショップ) War(ウォー)──通称SSWだ。カテゴリは先ほども言った通りFPSに分類される。

『じゃあこのゲームを知らない人達のために説明するね!』

  気の抜けた声で若菜が視聴者に向けてこのSSWのルール説明をする。

『このゲームはまず初めにいくらかの《Sポイント》っていう現実世界でいうお金みたいなのが与えられ自分の好きな銃が買えるの。まあ買えると言っても一丁しか買えないくらいのお金だけどね。銃の種類はサブマシンガン、アサルトライフルそしてスナイパーなどたくさんの種類があってかなりコアな銃マニアもプレイしている人はかなりいるっていう噂もあるからね。あっ!この銃可愛い!私これにする!』

 おっと、若菜が銃を決めてしまったようだ。俺も早く決めなくては……そう思っていた矢先目に飛び込んで来たのは短機関銃《P90》だ。この銃は撃った時の反動が少なく弾が普通の短機関銃より大量に入るというメリットがあるが、銃弾一つのダメージがとても少なくアサルトライフルと正面から撃ち合いしたら必ず負ける。かと言って遠距離から不意打ちで──ともできない。”短”機関銃なので射程が短いのだ。

『じゃあ俺はこれにしよーっと』

 だがそんなことを言いつつも俺が選んだのは《P90》だ。そしてP90だけだとSポイントがいくらか余ったのでP90につける消音器──サプレッサーを買うことにした。サプレッサーは銃を発射した時に出る音を抑えることが出来る装置だ。もちろんこれを付けると威力は少し落ちるというデメリットがあるが敵に音で位置がバレないというメリットと比べたらどちらを取るかは二つに一つだろう。

 ──クロンお前正気か?

 ──勝負を捨てるな!諦めるな!

『いや勝負は捨ててないからな⁉︎』

 思わずそう言葉をコメントへ返してしまった。作戦があるんだっつーの。いや、無いけど。ちなみに配信では俺と若菜両方のプレイ画面が写っている。この方が見やすいからね。そして俺が画面の右下に表示されていた【STANDBY】をクリックする。すると画面が変わり十秒のカウントダウンが始まった。カウントが0になると画面が突然白色になり、気が付くと俺はゲームの中に──と言うことにはもちろんならず俺は教室の中にいた。左下には所在位置とマップが、右上には残り人数右下には【討伐フェーズ終了まで 残り9:58】と書かれたタイマーがある。随分とごちゃごちゃしたUIだ。ここが今回のステージなのか?と思っていると若菜が再び説明を始めた。

『対戦者同士が武器を選んだらフィールド上のあちらこちらにいるモンスターを倒すのが最初の目標になるの。そのモンスターを倒すと倒したモンスターの強さに応じて《Sポイント》が貰えて《Sポイント》ではメニューを開くとショップから新しい銃や回復アイテムそれに手榴弾などの飛び道具が買えるっていう最初に配られたポイントと同じね。でもこのモンスター狩りをしている間はPvPが無効になっていてフィールド上にいるほかのプレイヤーにダメージを与えることはできなくなっているの。だからその時間はモンスター狩りに集中するって感じなの。うわぁこっちに敵がぁあ⁉︎なんかベトベトしてる‼いやぁ‼』

  悲痛な叫び声が耳に刺さる。俺は若菜の画面が見る事ができないのでモンスターの詳細は分からないが、恐らくとても気持ち悪いモンスターに出会ったのだろう。そして一人称視点は三人称よりもリアリティが倍増するので単純に考えて恐怖心も倍増するのだ。

 そんなことを思いながら俺は転送された教室にいた目と口がないのっぺりとした豚がいたのでP90でサクッと倒した。基本的にこんな感じのどこにでもいる系のモンスターは遠距離攻撃をせず突進しかしてこないので落ち着けば余裕で倒せる。落ち着けば、の話だが。

『うわー!ねえ?ここどこ?私は誰?誰か助けて!痛い!何?うわーん!』

『……』

 俺は視聴者諸君が女の叫び声が大好物なのを知っている。なので俺は要望にお答して静かにしてようと思ったのだが……

『ねえ?なんで無言なの?クロン聞いてる?ねえ?』

『……』

『このモンスターすごく強いんだけど……銃弾があとちょっとなんだけど……』

『……』

『え?弾切れになっちゃったよ?あとどうやって生きていけばいいの?』

 このゲームのモンスターには大まかに分けて三種類あって一つ目がさっき俺の倒したいわゆる《雑魚モンスター》だ。そして二つ目が余裕でビームとか撃ってくる《中ボス級モンスター》だ。そして今若菜が遭遇しているであろうのは《裏ボス級モンスター》だ。このモンスターはある特定の武器などで攻撃しないと倒すことが難しい。普通は何発か撃ってダメージが通ってなさそうだったら逃げるというプレイングをするのだが若菜はヌルヌルに気を取られて判断能力を失ってしまったのだろう。

 きっとコメント欄では

 ──無様だね。

 ──無様だね。

 ──無様だね。

 と罵倒の雨あられだろう。

 そう想像しているとなぜか急にコイツの騒がしい声が聞こえなくなった。ゲームに集中しているのか?と思いふと左を向くとヘッドホンを付けた黒髪ショートボブの女が涙目でこちらを見つめていた。

『ねえ?ちょっと私を助けてくれない?』

『……』

 大変だ!俺の脳内信号がこの話に関わるなという赤信号を出している!

 信号の指示に従って俺は再びモニターを向き右手でマウスを握りキーボードに左手を──かけられなかった。右手はマウスを掴んだ。そして、左手は確かにキーボードへ伸びていた。だが手首にガシッと何かにつかまれる感触があったのだ。俺が左手を動かそうとしてもびくともしない。俺は恐る恐る自分の左手へ目線を落とすと左から細くて華奢な手が伸びていて手首をつかんでいた。そして手が伸びてきた方向を見ると……黒髪ショートボブの女が涙目でこちらを見つめていた。

『若菜さん僕の左手首を掴まないで貰えるかな?キーボードを触らないとキャラの移動ができないんだけど?』

 そう俺は問いかえる。すると若菜は少し考える素振りを見せた後、俺に話しかけてきた

『ちょっと一回ミュートしてもらっていいかしら』

『それは構わないけど……』

 理由はよくわからないが言われるがまま配信に俺たちの声が入らないようにする。

「クロン君」

「……はい」

「このゲームってチーミングは禁止されていなかったわよね?」

「されてはいないですけど……それはチーミングをするメリットがあまりないからで……」

 SSWでは【モンスターが落とす《Sポイント》は《最後にとどめを刺したプレイヤー》のみが獲得する】というシステムになっていて二人でチームを組むということになったら一人しかドロップアイテムをゲットできずポイントの譲渡もできない。しかもこの十人の中で優勝できるのはたった一人だ。チーミングしたところでっていう話なわけだ。

「だからそれは私たちが対等な関係だったらっていう話でしょ?」

  若菜がゲームそっちのけでスマホをいじり始めた。なんだコイツ勝負を捨てたのか?

「は?俺達が対等な関係じゃないと思っているのk──」

  俺の言葉は遮られてしまった。若菜が俺に見せたスマホの画面のせいで。

「これが何か分かるわよね?」

  スマホには俺と若菜が見つめ合っている写真が映っていた。俺は左を向いて教室の天井についている黒い半円球の物体を見る。

「監視カメラ映像……」

「あなたも知らないわけがないでしょう?この学校では防犯対策として全ての教室の監視カメラの映像が生徒のスマートフォンで見れるようになっていることを。この画像を二学年のグループチャットにアップロードしたらみんなどう思うかなあ?賢いクロン君なら分かるよね?」

「お前……やっていいことと悪い事があるだろ……」

  若槻愛香という人物は学校の中でもかなり上位のカーストにいる。その訳は人見知りをせずに自分から話しかける事が出来る──だけではなく日頃からの努力の成果だと俺は思う。勉強だって毎日予習復習を欠かしていないし運動だって苦手なスポーツは練習を放課後しているのを俺は知っている。その結果みんなに愛される若槻愛香というキャラを作り上げたのだ。そんな彼女は男子からの人気も高く我が二学年の男子の間では暗黙の了解として平和協定が結ばれている。この平和協定は向こうから好きだと言ってくるまで告白するのを禁止するというものだ。去年の冬、この掟を破った者がいたがその男子生徒はもうこの学校にはいない。表向きでは親の仕事の都合上の為となっているが実際は掟を破った制裁だと俺は思っている。そんな中こんな見つめ合っている画像をグループチャットにあげられてしまったら俺は間違いなくこの学校、いやこの国にいられなくなる。まあ、生き残る事が出来たらの話だが。この暗黙の了解は本人に知られていないと思っていたのにそれを使ってくるとは……この女侮れないな……


 ふっ。さすがのクロンでもこの作戦は効いたみたいね。この画像と一緒に「私が泣きながら頼み込んでいるのにそれを平気で断る高林俊樹」とでも書いておけば女子からの好感度が低くなるものね。「男子は女子からの好感度を(特に二月初め頃)非常に気にします。」ってなんかの本に書いてあったけれどもどうやら本当みたいね。みんなに後で教えてあげよーと。

 そんなことを考えているとクロンが白旗を掲げた。

「分かった。分かったから早くその写真を消してくれ!頼むから!俺の命にかかわるから!」

 この男は女子の好感度が低くなったら死ぬのだろうか。無様な男だ。

「じゃあゲームの中で私を助けてくれるわよねぇ?」

「分かった!分かったから早く!奴らにバレないうちに!」

 奴ら?時々クロンは訳の分からないことを言うなあ。と私は思った。

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